固定値は裏切らないと彼は思った
五月六日土曜日。
五月七日日曜日。
この二日間は門上御影まるっきりのオフであった。
基本的に東京で御影は地方移住のための説明会とかそういうイベントに参加していることが多いのだけれども、しかし世はゴールデンウィーク。
会社勤めのライバルたちもここぞとイベントに参加してくるがゆえにイベントの予約を取り損なってしまったのだ。
かといって遊びに行こうにも世はゴールデンウィーク。
東京が人でごった返す季節である。
加えて金のない御影に遊びに行くような余裕はない。
しかし、雑巾はあらかた作り終わってしまったし。
未記入の書類もとりあえずないし。
掃除洗濯一式終わってしまったし。
ローグウェン・グルーシリーズも新刊待ちだ。
やることが何にもないのであった。
「……どうします?」
「……出かけようか」
「どこにです?」
「……お金のかからないところ」
そこまではすぐ決まった。
ならばやることは一つ。
「おにぎりを作ろう!!」
お弁当づくりである。
* * *
近頃東京でよく見るもの。
コンビニに、コンビニに、コンビニ。
と言うくらいにはコンビニをよく見る東京でのこと。
別に弁当なぞ作らなくともいいのではあるが――悲しいかな門上御影にはお金がない。
基本的に出かけるときはおにぎり持参の御影である。
野菜くずやだしパックで作った特製ふりかけを混ぜたご飯をおにぎりにして持って行くのだ。
東京都心は意外なほど公園が多くおにぎりを食べる場所にはさほど困らないし、元路上生活者の門上御影に道ばたでおにぎりを食べることへの抵抗は皆無であった。
「……まあ、おにぎりは良いとして結局どこ行きます?」
「一応思いついた」
「ほう?」
「天照様にご挨拶にいこう。分社の一つぐらい東京にもあるでしょ」
暇したらとりあえず上司にゴマすっとけ。
世の中の基本にようやく気づいた門上御影であった。
「で、雑巾できましたって報告して……なんか仕事がまたもらえれば良いなあと」
「下請け業者にでもなるつもりですか!?」
だって、お金欲しい。
世の中、信じられる物は金だけである。
固定値は裏切らないのだよ、ワトソン君。
「……まあ、それはともかく良い考えだと思いますよ。他の神々の手前天照様の方から用もなく呼びつけることはできませんからね。御影さんの方から出向いてくれるのはありがたいです」
「そんな内幕しゃべっちゃっていいの?」
「御影さんが言われないと気づかない人だと言うことはよーく理解しましたから!!」
くうさん、笑顔で軽くブチギレていなさる。
まあ、自分がKYなのは良く知ってる御影は即座に土下座するのであった。
……しかし、向こうからこっちは筒抜けなのにこっちは空気すら読めないって冷静に考えればやばいんじゃないか?
まあ。
そんな御影の遅すぎる疑問はさておいて。
門上御影、飯田橋に出発である。




