なんかかわいいなと彼は思った
終焉世界エルード。
まあ、なにはともあれ邪神侵攻中の世界である。
友達が死ぬことだって――当たり前にあるのだった。
……ああ。
……ああ、なんだってそんなことが。
なんだってそんなことが――こんなに羨ましく思えるんだろうか。
羨んでいるのがリュートさんなのか、それともそのご友人なのか。
それすらも分からないまま御影は笑んだ。
ああ。
ああ、ああ、全く。
いつから自分は――「どうして死にたいと思うのか」ではなく「どうして生きたいと思うのか」を疑問に思うようになったのか。
死を望むことより生を望むことの方がおかしいと感じるようになってしまったのか。
本当。
何があったという訳でもないのに。
当たり前に生きてきただけなのに。
――いったい何でこうなってしまったのか。
「……そろそろその不気味な笑顔はやめたまえ。カルルット君がおびえている」
「べべべべべべべ別に、ビビってねえじゃん!?」
その声で。
意識が思索から浮上する。
みればカルルットさんガタブルであった。
「え、ちょ、あれ人間がしていい顔じゃないじゃん!?」って感じであった。
猫だったら全身の毛が逆立ってる。
あれ? そう思うとなんかかわいいな……。
「あー、なんかすみません……」
まあ、なにはともあれ。
怖がらせたなら謝らないといけないのだった。
「……カルルット君は結構な温室育ちだからね。そういうものには耐性がない。気をつけてあげなさい」
「別に温室育ちではないじゃん!?」
「ルレット世界そのものが温室みたいなものだろう?」
「そ、そんなことないじゃん……」
慌てふためくカルルットさん。ため息をつくリュートさん。
同い年にはとても見えない。
その理由はリュートさんが温室というルレット世界にあるのか……?
視線に気づいたようにリュートさんが口を開く。
「ルレット世界は平和で豊かな世界だ、と言えば分かりやすいかな?」
「平和で、豊かな……」
それは。
豊蘆原に使われることの多い形容詞だ。
御影もこの三ヶ月でいろいろ他の世界についての情報は得ている。
例えば、ジャイニーブさんのガラン世界。
そこは「つい最近邪神を討ち滅ぼした世界」なのだそうだ。
つまりは「つい最近まで戦場だった世界」。
ジャイニーブさんはともかく年若いラギルーシャ君までもが一線級の戦力だった理由がそこにある。
現在14歳のラギルーシャ君、八歳から戦場に立っていたそうな。
なるほどそれに比べれば。
豊蘆原など平和も平和だ。
だからこそなんとなく。
豊蘆原が一番平和で豊かな世界のような気がしていたのだが――違ったようだ。
「まあ、ルレットの『平和』と豊蘆原の『平和』は似て非なるものだからね」
「と、言いますと?」
「払ってるコストの差と言えば分かりやすいかな。ルレットはありとあらゆる『自由』を犠牲にして『平和』を確立させている世界だからね」
「それの何が悪いじゃん……」
そういう言葉の力のなさは。
カルルットさん自身の迷いを如実に表していた。
未来神ウェイバー。
「未来の不確定性」を司るその神は「選択の自由性」を司る神でもある。多分そういう話なのだろう。
希望があることよりも。
不幸がないことを取った、そのなれの果て。
それが。
「……リュートの、その、トモダチは、その、なんで」
「邪神に殺された。それ以外の理由がいるかい?」
「……いらない、じゃん」
そう、つっかえつっかえ話すカルルットさんは本当に「人の死」に慣れていないようだった。
まあ、御影だって慣れているとは言い難いのだけど。
果物の選別は出来ても屠殺場には近づけない御影である。
だから。
その時。
カルルットさんに俺も同じだと笑いかけようとして、唐突に。
御影は思ってしまった。
邪神の分体、ステルス邪神――ゴン。
御影が友達になるべきその個体。
それと――友達になったとして。
その後、ゴンは――たった一人の御影の友達はいったいどうなってしまうのか。
そして、そのどうにかなってしまったゴンを見た御影は――いったいどうなってしまうのか
気づいてしまった。
気づいて、しまった。
遅すぎるぐらいに――気づいて、しまった。




