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俺は未熟だと神は思った

「で、そのムィキャゲ? とかいうのは使えそうなのか?」

「ミカゲ、ね。経験的には条件はクリアしてる感じかなあ」

「皿洗いの経験があるということか?」

「皿洗いもゴミ屋敷の掃除も骨董品の手入れも全てあるね。その上で――消えても誰も怪しまない人間だ」


終焉世界エルード。

今まさに邪神の侵攻を受けるこの地には勇者とそれを支える者しかいない。

この二人は支えるもの(スタッフ)の中でも有力者だ。


討伐世界ガランから来た獣人――ジャイニーブ・アルデニガ・アルデニギ。

協調世界デフォルから来たサイボーグ――イヨル・キウダ。


正直、勇者でもおかしくないぐらいの腕利きである。

ガラン世界における人類最強のジャイニーブ。

勇者に何かあった時のためのスペアであるイヨル。

……一部では勇者より強いのではないか?とも噂されている二人。


というか、この二人より弱い勇者とかごろごろいる。

本当、なんでこの二人がゴミ屋敷の掃除なんかしているのかというと――勇者どもがうるさいからである。


木っ端スタッフを寄越すとギャーピーギャーピー。

しょうがないからこのクラスの二人を使っている。

そのあたりはなんとかしたいところだが……難しい。


「契約の履行」は強力な力だがリューイの存在だって縛ってしまう。

そういうことだ。


「で、そのミャキュゲ?とかの障害は問題ないのか?」

「ミカゲ、ね。そんな重いものではないから皿洗いぐらいは大丈夫かな。問題があるとしたら色弱の方? 赤と緑が灰色に近い色で見えるらしいよ」

「アミュレットを入れれば一発で治るんだが……」


アミュレット。このガラスのような質感の結晶体は協調世界デフォルを代表する魔道具だ。

デフォル人は基本的に全身に穴をあけそこにコネクタと呼ばれる接続具を取り付けそこにアミュレットをはめ込んでいく。

はめ込んだアミュレットを取り替える事で全身そのものを一種の魔法陣にして魔法を使うのがデフォルの標準的な魔法発動方だ。

……サイボーグってのともちょっと違うような気がするが、全身に金属パーツのはまったその姿はどうしてもそれっぽく見えてしまう。


まあ、全身に穴をあける以上物理的強度が下がるのが難点だが……。


「魔法のない世界だからねー」

「そう、それだよ。大丈夫なのかそいつ。エルード連れてきたりして。破裂したりしないだろうな?」

「なんで破裂するんだ……」

「ああ、それは問題ないよ。ぶっちゃけエルードより豊葦原のほうが魔力多いからね」


魔力。ようは魔法を使うのに必要なリソース。

これが何であるかは世界ごとに定義や認識が違うので深くは突っ込まないのが暗黙の了解である。


「不活性な上に連鎖性があるから魔法文明は築かれなかったけど、かなり魔力は多い方だよ」

「不活性で連鎖性?」

「なんかこう……魔法を発動させるのが難しくて、その上制御するのがもっと難しい感じかな。豊葦原では界渡りや神ですら滅多に神秘や奇跡を起こさないらしいからねえ」

「ふうん……」

「……分かってはいたが、凄まじいな」


イヨルさんガッタブルである。

デフォルは神の加護の豊富な世界なのだ。

最早神の加護無くしては成立しない世界といっても過言ではない。


「だいたいの様子は分かっているが……あなたから見た門上氏はどんな人物だった?」

「んー……フツーの若い子? 強いて言うなら……目が合わなかった、な」


思い出す。

話したり、突っ込んだり、お姫様だっこしたり色々してみたが――一度たりとも合わなかった視線を。


「そもそもこっちの顔をほとんど見なかったね」

「豊蘆原ではそれがフツー……な訳はないか」

「でも、彼にとってはそれがフツーなんだろうね。意図してる風は無かったよ」


極々ふつうに、当たり前に。

彼はリューイの胸をあたりをじっと見ていた。

なぜ顔を見なければいけないのか――それが分からないというように。


「ふうん……ま、別に良いんじゃないの?」


ジャイニーブは興味なさげだった。

ガランは超のつく弱肉強食社会だ。

強いことがあらゆる美徳を凌駕する。

強ければ全てが許される世界――よって視線の位置をみみっちくどうこういう文化はない。

強ければ――全て許されるのだから。

弱ければ――目を開く前に殺されるのだから。


「まあ、確かにどうでもいい――一点を除いて」


むしろそういう細かいことを気にするのはイヨルの方だった。

ガランは悪く言えばヒャッハー系ディストピアで、デフォルを悪く言うなら何もない荒野だ。

何もない。何もない。何もない。

競争も成長もない静止した世界を神の恩寵でむりやり存続させ続けた宇宙神ガデルの箱庭。


「門上氏、なにか罪を犯して逃げ回っているのではないだろうな? 保護されるまでの行動がおかしいんだが」


だから、そこに住むデフォル人がここまで強いなどリューイが見に行くまで誰も知らなかった。

その千里眼魔法「情操術」は容易く世界の垣根を飛び越える。

神霊以外不可能と言われたことだ。事実デフォル人が見つかるまでは誰もできなかった。

でも、デフォル人にとってはちょっとした特技にすぎない。

今も、リューイですら知らなかったことを易々とつかんでみせた。

勇者ですらないスタッフが平然と。


「……旦那、どういうことだ」

「一年ほどしか遡れなかったんだが……彼余りにも定住しなさすぎじゃないか? ねぐらを代えすぎているように見える」

「……ていうかデフォルにも住所不定いるんだね」

「当然だ。デフォルにだって自由はある」


……あんのか。

あんのか!!

あのなにもない世界に自由とか……あるのか。

あるのかあ……世界って広いな。


「三日と一所に留まってないぞ。東京二十三区はもとより市部にまで足を延ばしてる」

「最早言動が地元民だよ!?」

「警邏にでも追われてるんじゃねえかってか……ニキュギャとやらは別に強くも何ともないんだよな?」

「最早原型を留めてない!? ……はい、強くも何ともないです、はい」


野良犬に勝てる程度などガランではゴミである。

低位の魔物などその辺の村娘(10才)が素手でしとめるのがガランクオリティだ。


「そういう訳なので……犯罪歴に関してだけは情操術使うぞ。流石に殺人犯や強盗犯と一緒に働くなら知っておきたい」

「同感。俺は別に気にしねえが……旦那は気にするだろ」


デフォルとガランの常識はかなり違う。

「殺人」など滅多に起こらない世界から来たイヨル。

その手で殺した「人間」の数がそろそろ四桁に届こうというジャイニーブ。


この二人がお互いの価値観の違いを認め合うまで――長かった。

というか、ここまでの腕利きでなければ泥沼化していた可能性が高い。

お互いがお互いの能力の有用性を理解できたが故の奇跡である。


「……そういう方向で話は持って行くよ」

「頼む」

「頼んだ」


最早興味はないとばかりに二人は立ち去る。


「魔法使うのか……」


となれば豊蘆原では不味いわけで。

新たに場所のセッティングをする必要があるわけで。

増えた仕事量を思ってリューイはうなだれた。


「……ふう」


その顔を無理矢理起こす。


なあ、門上御影。

世界は広く――出会いは多いぞ。

何があったのか、何を見たのか、俺は知らないけど。

まだ、そんな死んだ魚のような目をするのは――きっと早い。


そして。

そんなふうに思えてしまう自分は――どうしようもなく。


神として――主神として未熟なのだろう。


未熟な神の頭上では空が戦火を写して赤く染まっていた。

呪いのように――あるいは祝福のように。



2017/3/3 デフォル世界について修正

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