マジ紳士と彼は思った
さて、ガンソンさんの皿を洗い終わって午後三時頃。
実に半端な時間だが御影の勤務時間は6時までなので、ここで帰宅すると三時間分のお給料がパーである。
そういうことはちょいちょい起こる。
どうやら御影の皿洗いスキルは順調に向上しているらしく、だんだん時間が余るようになってきたのだ。
しかし、御影も働かないとお給料もらえない身なのでただぼーっとしているわけにも行かない。
ということで、基本皿洗いが早く終わった日は余所のお手伝いに行くことにしている。
今日は農場――エルードのスタッフ、リュート・ドゥ・エスシーバのお手伝いである。
* * *
「リュートさん遅くなりました~!」
「いや、問題ないよ。よく来てくれたね」
そういって穏やかに笑うリュートさんはマジ紳士である。
五十代半ばほどのナイスミドルでぶっちゃけ農場よりもお洒落なカフェで本とか読んでそうな佇まい。
実際、邪神が来るまではエスシーバ領の最高裁判所の裁判長だったのだそうで。
滅茶苦茶エリートである。
「じゃあ、早速お願いできるかな」
「大丈夫です」
農場で御影がやるのは果物の選別だ。
あの御影がよく食べてる酸っぱい果物ーーシェルガである。
収穫されたシェルガの中で青いものや傷のあるものを避けていくのが御影の役目である。
農場。
元々は王宮の庭園だったらしい。
しかし、今は泥人形たちが跋扈する畑と畜産場だけ。
そしてこの泥人形こそがリュートさんの能力である。
『元素魔法の基礎なのだがね』
リュートさん曰くそうらしい。
ヴァルさんに聞いてもそうだったのでそうなんだろうが、特筆すべきはその数だ。
数十ではない。数百である。
流石に多いと言わざる得ないというのはヴァルさんの言。
無論、裁判官だったリュートさんがそんな農業感あふれる魔法を全力で拾得していた訳ではなくリューイの契約の力である。
そう。
リューイとリュート。
名前が似ているのは偶然ではない。
リュート・ドゥ・エスシーバ。
リューイ・ディ・エンクの子孫に当たる男である。
* * *
リューイと言う男はキヨラカに生きてキヨラカに死んだ。
女性とつきあったことなど一度もなく、商売女にすら相手にされなかったとか。
当然直系の子孫というのは存在しない。
が、この男五人兄弟の次男であった。
つまりは奴には人間として生きて人間として死んだ四人の兄弟がいるのである。
その一、五人兄弟の長兄リュート・ドゥ・ゼンデ・ドゥ・ローン・ドゥ・エスシーバ。
それこそが現スタッフであるリュート・ドゥ・エスシーバの先祖である。
であるがゆえに。
彼ら「リューイの子」達はリューイの契約の権能と極めて相性が良い。
一介の裁判官がこれほどの魔法を使えるほどに。
無論。
デメリットもある。
リューイからの加護が強力に作用する分、他の神からの加護を全く受け付けないのだそうだ。
もっと言えばそもそも他の神に帰依すること自体出来ないのだとか。
裁判官という職では知恵の神リンガ信仰が一般的なのだそうだが、リュートさんはその名を名乗る限りにおいてリューイしか信仰できない。
そして当然ながら。
このようにリューイの名の下に勇者召還なぞ行われてしまえば。
否応が無く――巻き込まれざるを得ない。
それはさておき。
そういうわけでリュートさんはリューイの力を借りて大量の泥人形を使役することが出来るのだが。
悲しいかな、この泥人形達はあまり頭がよろしくない。
リューイの加護でリュートさんの元素魔法スキルは爆上がりとは言え。
そもそものリューイが魔法に詳しくない男なので、そういう細かい改造は出来ない。
そこで、単なる皿洗いかと思いきや果物の選別なんかも出来ちゃう系皿洗い門上御影の出番となったわけだ。
日本にいた頃、家が農家の同級生に頼まれて収穫の手伝いしていたことが異世界で役に立つとは人生は分からない。
かくして御影は粛々と果実の選別をするのであった。
と、そこへ――人影。
「よー、頑張ってるじゃん」
カルルットさんだった。




