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めでたしめでたしなんじゃないのかと彼は思った


終焉世界エルード。

その物騒な二つ名は意外なことに邪神の侵攻を受けてつけられたものではない。


そもそもなぜエルードでは元素魔法がこれほど広く使われているのか?


その答えはつまり――吸血獣である。


かつて――千年ほど前。

エルードには吸血獣が公然と歩いていた時代があったのだ。


基本的に神と対立するが宿命の吸血獣だがまれにこういうこともある。

魔力そのものを改変するというその能力はそれだけ希少で強力なのだ。


「多分ね~御影君とこの豊蘆原世界も手を結んでたね。玉藻前とかおそらく吸血獣だね」

「……まあ、聞くだに奇妙な魔力特性だからな。なんとかして安定させようとした神が居ても無理はないか」

「で、かつてのエルードもそんな感じだったと」

「多分ね。結構このあたり秘されてるから何ともいえないんだけど」


すっと。

リューイの瞳に暗い影が落ちる。


「語民制ーー社会的に下部の者ほど血統を重視するって制度はその名残なのさ。五語民てのは表向きは奴隷階層だけど実質的には吸血獣の餌だからね」

「あーなるほど、おいしさ的にいい感じの交配をさせようと」

「…………恐ろしいことをけろりと言うな御影は」

「まったく胸くそ悪い制度だぜ!!」


意外にも。

ヴァルさんは憤懣やるかたないと言った風情だった。


「……旦那が怒るとは意外でやしたな」

「怒るさ。別にあの人たちは物理的な血や肉を求めて人喰ってる訳じゃねえんだよ。『神に愛された者』の存在値食らって存在を安定させるために人喰ってんだ。家畜化された人間喰ったって満たされねえんだよ」

「……そうなんだよねえ。いや、全く効果がなかった訳ではないんだけど」


むむむ。

よく分からないが神に愛された者を食べることに魔術的な意味があるとかそんな感じだろうか。

話が魔術方面に傾くとなんにも分からなくなっちゃうな……。


「だから、吸血獣たちは別の方向で補うことにした。それこそがかつてエルードを席巻した邪教――吸血鬼信仰だ」

「邪教中の邪教じゃねえですかい……」

「吸血獣は動物のなかでも霊的な存在面が強いからね。信仰の影響を割と強く受ける。……『我々を崇めるなら喰わないでいてやる』。いつもの手口だね」


神とは。

強欲なものであるらしい。

同格の神同士ですら信者を分け合うことを拒むほどに。


それが。

相手が動物まがいの害獣となれば。

駆逐することになんの迷いがあろうか?


「で、そのころに『信者から信仰のパスをたどって吸血獣本体を攻撃する神聖魔術』が創られたような気がするんだよなあ……」

「そう繋がんのかよ!?」

「遠回りでやしたね!?」

「いったい何の話かと思ったぞ!?」


一同総ツッコミである。


「……あれ、僕今唐突に自分語り始めた痛い神だと思われてたの?」

「それ以外なにを思えってんですかい……」


頷く三人。

というか、リューイならやりかねない感がハンパないんだよなあ……。

とはいえ脱線し続けても仕方ないので話を戻して。


「……まあ、あるだろうな。その手の神聖魔法がある世界は」

「そうなんですか?」

「多神教だと特にね。神様同士の足の引っ張り合いって奴。強欲なんだよ基本的に」

「とはいえ吸血獣用の魔法が分体とはいえ邪神に効きますかい?」

「攻撃することは出来ないだろうね。でも観察することは出来るはず」


なぜだか。

そこでみんな黙り込んでしまった。


はて?

それで正体が分かればリューイの契約で一発OKでめでたしめでたしなんじゃないのか?


「……御影、お前」

「……旦那」

「……無欲すぎるだろう」


???

なにを言われているのか全然分からないのだが???

俺たちは邪神を倒すために呼ばれたのではないのか???


「…………御影君がいい子すぎて自分がすごく汚れた神に思えてきた」

「いや、フツーだろ」

「おかしいのは御影の旦那でさあ」

「むしろ豊蘆原の神はどういうスタンスなんだ……」

「いや、だからなんなんですか!!」


うぬぬ……この仲間外れ感。

まあ、それはさておき結論としては。


「……とりあえず、そのあたり調査しておくからいったんペンディングで」

「了解」


と言うことになった。

回想終了。


 * * * 


「……終わった」

「お疲れさん」


あー、マジでガンソンさんの皿ヤバいわ……。

これから夏にかけて気温が上がってくことを考えると憂鬱だわ……。

とはいえ勇者ガンソン・デルルといえば召還された勇者の中でも五指に入る邪龍退治のエキスパート。

その多忙さぶりも五指に入るほどである。


もうなんていうか、一人で邪龍を相手取れる数少ない勇者だとか。

この皿一枚と武装のみを持って邪龍を倒しまくっているのだそうで。

酷使された皿の汚れっぷりたるや結構なものがあるのだ。

特に焦げ付きこびり付きがすごい。

フッ素加工しといてくれよ神様って感じである。


それはさておき。


結局のところ、逆探知魔法は使えることが分かった。

御影と豊蘆原はかろうじて戦犯を免れた形である。


いや、むしろ逆探知魔法で得られた情報を元に奇襲を仕掛け大きく戦線を押し上げることに成功したことを考えればほめられても良いぐらいなのだが。

そうならない理由が御影の五メートル先にいるこれである。


「風届いてるかー」


ステルス邪神、ゴン。

祓魔結界のおかげでかろうじて五メートルの距離を保ってはいるが、その気になればいつでも御影を殺せるこいつがそうしない理由はただ一つ。


この邪神の分体は御影の周囲五メートルの地点にならいつでも出現できる。

豊蘆原が誇る祓魔結界以外の結界すべてを無視して御影の元にやってこれる。


……考えてみれば当たり前ではある。

信じる者の元に現れない神などいないだろう。

希う者の前に現れない悪魔などいないだろう。


信じる者がいるのなら。

認識がそこにあるのなら。


どんなに弱くたって、どんなに脆くたって、どんなに微かだって。

現れられるのが霊的存在の――認識を基盤とする者たちのルールだ。


そしてゴンは明らかに暗殺向きの個体だ。

敵陣ど真ん中に暗殺者を送り込めるなら――御影を生かしておく意味はある。

スタッフ一人でも殺せれば――召還そのものを揺らがせられるのだから。


これまでにないほど邪神の核心に迫る解析ルートを手に入れた勇者側。

手練れの暗殺者を敵陣ど真ん中に送り込むルートを手に入れた邪神側。


両者ともに不本意な形で釣り合った天秤――その要。

それが門上御影(モブすぎるモブ)だと言うのはいっそ笑ってしまう。


だがまあ、それが事実である。

この状況に関して勇者側が立てた作戦――それは。



「弱そうな奴は大体友達~ぼっち歴=年齢の友達作り大作戦~」。



ちなみに作戦命を考えたのはリューイであったとさ。

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