天照様がピンチだ!!と彼は思った
まあ、結局の所。
邪神とはなんぞやという話である。
「まあ、それが分かれば僕の『契約の権能』で完全消滅も夢じゃないんだけどね」
「逆に言えば、まだ全然分かってねえってことでしょうが……」
「それがいったいどう関係する?」
「あー、なんて言うかですね。ちょっとわかりにくいかもしれないんですが……」
ちょっと御影は思案した。
どう言ったらわかりやすいだろうか?
三秒考えた。
結論:よく分かんないんで直球でgo!!
「豊蘆原の神様って善悪大小色々いるんですよ。正直、あやかしとの違いもよく分かんないっす俺。ていうか、邪神との違いもよく分かんないっていうか……」
そう言う状況で――「邪神の名前」を記憶から消したとしたら。
そう言う前例が出来てしまったとしたら。
それはどこまで波及するのか。
「そうなんだよねえ……豊蘆原自体が数多くの神霊の寄り合い所帯で政治的に色々ある上に海越えたらもう別の体系の神々が支配する別の世界だもんねえ……迂闊に『霊的存在の名前の記憶を消す』なんて出来ないわけなんだよ」
「「「……」」」
お三方ぽっかーんである。
ううん……やはりよその世界の人には分かりづらいのか。
「あー……なんていうか豊蘆原の神って基本善神としての側面と悪神としての側面を持つって言うか……あとぶっちゃけ余所の体系の神様混じってることがあるって言うか……」
しどろもどろに説明すると三対の目が恐ろしいものを見る目で俺を見た。
「「「神が……混じる?」」」
「あ、はい。大体の神は混じってます」
「なんですかいそりゃあ……同じ体系でも大事件なのに違う体系の神と混じるって……そりゃあほんとに神ですかい?」
「んー……そこがさらに問題を難しくしてるんだよねえ……御影君に自覚はないだろうけどさ」
リューイはあきらめ顔で天を仰いだ。
なんかもう中間管理職の悲哀たっぷりである。
「そうだねえ……基本中の基本、信仰と認識の問題からいこうか」
あ、なんか長くなるな。
全員が思った。
* * *
人とはなんぞや。
諸説あろうが神から見た定義は決まっている。
神に信仰を供給するもの――すなわち信仰主体。
それこそが人間でありそれ以外は人間でない。
なのだが。
人が神に捧げられる力、それがもう一つあることはあまり知られていない。
それこそが「認識」。
そう言う神がいると言うことを知っているというただそれだけで神を神たらしめる力は発生するのである。
「と言っても、滅茶苦茶微量なんだけどね。あえて知らせてないと言うより言う意味がないから言ってないってレベルかな」
「はあ……」
「御影くんにわかりやすく言うとね……カップのきつねうどんあるじゃん。あれ、誰かが食べただけで稲荷神に力が流れ込んでるんだよ」
「マジか!!!」
すげえな稲荷神!!
え、それで社の数も最大なんだろ!?
それは絶対強いだろ!!
天照様がピンチだ!!
「そのほかにも……いなり寿司は基本として梅ヶ枝餅食ったら天神に力が流れるし、キャラクター商品は強いよねえ……」
「お、恐るべき秘密を知ってしまった……」
戦慄の真実である。
いなり寿司にそんなすさまじい秘密があったとは……御影がったぶるである。
「いや……いやしくも神たる存在がその程度で存在を維持してるとかあり得ないだろう」
「流石にそれは無理筋ですぜ、旦那」
「むしろそんな存在神でも何でもないだろ」
しかし、他のお三方は冷めまくりである。
まあ、確かにそうなのだが……思い出すのはあの言葉。
『それが全てでしょう――人が人である証明は』
あの時偉大なる太陽神はそう言ったのだ。
人が人である証明は――「信仰」ではなく「認識」だと。
「三人とも忘れてないかい? 豊蘆原の人々は魔法使えないんだぜ?」
「いや、忘れてはないけど……」
「じゃあ、豊蘆原が魔力で溢れかえらない理由はなんなんだい?」
「……………あ」
「そういうことだよ」
リューイは言う。
霊的存在において、信仰以上に重要なのが魔力である。
例えるなら魔力は水で信仰が食料と言ったところか。
そう。
人が水だけで何日もの日々を過ごすことが出来るように。
霊的存在もまた魔力のみで少しの間存在し続けることが可能である。
そして豊蘆原世界において魔力を消費する存在は基本的に霊的存在と界渡りのみ。
加えて両者とも奇跡の行使に消極的である以上、豊蘆原の霊的存在は発生した魔力のほぼ全てを存在の維持に使えるのだ。
「ここで、認識による存在の維持が現実味を帯びてくるわけだ。水だけじゃ死んじゃうけど――もし、ほんのちょっとでも食べ物がもらえるなら寿命は飛躍的に延びる」
「い、いやそれでもおかしいだろう!! それじゃあなんの奇跡も権能も行使することが出来ない!! そんな存在誰も信じないだろう!!」
「信じますよ?」
こくりと小首を傾げて御影は言ってみた。
目指すは小悪魔系である。
まあ、そのねらいは失敗したようで極限まで見開かれた六個の眼球を御影は見渡した。
「いや、だって、ねえ。奇跡を起こすから信じるとか……その方がおかしいでしょう。その方が気持ち悪い。なんのオカルトだって話ですよ」
無論、祈った結果奇跡が起こってくれればありがたいが。
そういうことじゃないのだ。
それは伝統だ。
ただ続いてくれるだけで良い。
それは誇りだ。
ただあったという事実だけで良い。
それは美だ。
ただここにあるだけで良い。
ただいてくれるだけで奇跡なのに、いったいこれ以上なんの奇跡を望むんだ?
「……これが、最後のピースだよ。なんの奇跡も行使せずに信仰が勝ち取れるなら、魔力の全てを存在の維持に回すことが出来る」
「…………理解できん」
「まあ、魔法のある世界では最低限神聖魔法が行使できるようにならないと神として認識されないからね。ちょっと異質かもね」
「なんというか……分かりかけてきましたぜ。つまりは御影の旦那、というか豊蘆原の人々は認識によって霊的存在に供給できる力が多いんですかい?」
「ま、そうだね」
あっさりとリューイは断言した。
うん?
あれ、ってことはつまり……
「だから、今御影君はステルス邪神に力を供給しちゃってるね。それも誤差とはちょっといえないかなって量を」
「そう言うことになるよなああああああああ!!!」
門上御影、戦犯確定。
二月の風が妙に冷たかったとさ。




