結構な負けず嫌いだなと彼は思った
「……ふん、つまり俺にディーの取り替えっこを超えるチャンスがやってきたってわけか」
一瞬の沈黙のあと好戦的に笑ったのはヴァルさんだった。
元素魔法の達人の名にかけて御影の記憶を吹き飛ばそうと人差し指を御影に向ける。
しかし。
「……発動しないだと!?」
なにも起こらない。
ぴかっとした光もなく、ぱちっとした音もなく。
もちろん御影は問題なくゴンの名前を思い出すことが出来て。
真実なにも起こらない。
「どうなってやがる!? 抵抗されるならまだしも発動しないとか……」
「そりゃ、発動しないよ」
あっさりとリューイは答えて肩をすくめた。
「だって君――そう言う風に僕と契約したじゃないか」
「「「……ああああああああああああああ!!!!!」」」
その絶叫はものの見事な三重奏だったという。
* * *
「……ありやしたな。そんなの」
「あったな。そういえば」
「確かにあった」
全ての勇者とスタッフは――自分以外の存在の記憶に魔法的・物理的に干渉してはならない。
言われてみれば御影もそんな条文を読んだ気がする。
「え、どうやんのこれ?」と思ったきり忘れていたが。
なるほど。
魔法が使えるならばそういうことも可能な訳か。
なんか元素魔法的に簡単な魔法らしいし、必要な縛りなんだろう。
「まあ、認識って信仰の基盤だからね。霊的存在の名前みたいな重要な記憶を勝手に吹き飛ばされちゃ困る訳だよ」
「信仰丸ごと消されてたまるかって話か。……くそ、流石にお前の契約に抵抗は出来ねえか」
「ていうか、これ破れるんならマジでお帰りくださいだよ……」
ヴァルさん、心底悔しそうである。
おそらく故郷ではかなりの魔法使いだったのだろうが……ここでは神の加護を受けているのが当たり前。
ご自慢の魔法が通じないことも多くて結構フラストレーション溜まってるんだろうなあ……。
「……………あー、思ったんですがね? 豊蘆原の神様に頼めばいいんじゃないですかい? なら問題はねえでしょう」
「ああ、なるほど。出身世界の神が消すのが一番順当だな。流石に神そのものならば御影の魔法抵抗も抜けるだろう」
「ちぇ、困ったときの神頼みかよ」
ヴァルさんふくれっ面である。
結構な負けず嫌いだな、この人。
しかしまあ。
なんというか。
ふくれてくれたヴァルさんには悪いのだが……。
「あー、なんていうかね」
「まあ、なんつーか」
こればかりは魔法に詳しくない御影にも分かってしまうことだった。
「多分ね? 多分だけどね?」
「でもまあ、おそらく絶対」
輪唱するようなリューイと御影の声がぴたりと揃った。
そう、結論は一つである。
「「無理」」




