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大人の気遣いであると彼は思った


「つまりはその吸血鬼が使う魔術が元素魔法ってことでさあね」


そんな声がしたのはヴァルさんが腰掛けてる箱のすぐ隣の箱からだった。

当然ぱこんと蓋が開いてディーさんが出てくる。


「吸血鬼どもは世界に満ちる魔力そのものを元素魔法よりに改変しやすからねえ。吸血鬼が長くいたような世界では必然的に元素魔法が広まるんでさあ」

「……いや、なんでお前そこから出てくんだよ」

「いやあ、うっかりヴァルの旦那が腰掛けてる方に転移しちまいまして。あわてて隣に移ったんでさあ」

「うっかりかよ!?」


そんなわけはない。

流石にそれはディーさん流のジョークであろう。

ギグルさんとヴァルさんの仲があまり良くないのを見て場を和ませようとしたのだ。

流石は怪盗ガレディーテ。大人の気遣いである。


「ええい!! とにかく俺はここで一回脱線して吸血鬼講座やるぞ!! お前等に任せてたら俺も人喰いの化け物にされちまう!!」

「いや、流石にそこまでは思ってないが……」

「ギグルの旦那、そっとしときやしょう。ああなったらヴァルの旦那はとまりゃあしやせん」


そういうわけで。

吸血鬼講座始まりである。


「そもそも界渡りの問題点はどこにあると思う?」

「人を喰う。毒を吐く。土を腐らせ、毒草を生やす」

「旦那、そうじゃないでしょ。界渡りって言ってんだから」

「……ああ、眷属化抵抗力の弱さか」

「と言いますと?」


と言いつつも。

思い出すのは最初の面接の判別球事件の事である。

邪神に対する抵抗力が低いと邪神の眷属にされてしまう、のだったか。


「界渡りってのは総じて能力の割に眷属化抵抗力が低いんだよ。眷属化抵抗力ってのは神に帰依することで飛躍的に上がるからな」

「いわゆるあっしらが戦ってる『吸血鬼』『邪龍』『邪鬼』ってのは眷属化した後の姿でさあね」

「特に邪龍や吸血鬼は強力な上寿命も長いからな。世界を3つ4つと滅ぼすような強力な個体も多い」

「おおう……やばいっすね」


例えば多大なコストを払って御影を眷属にしようとする邪神は滅多にいないだろう。

雑魚オブ雑魚。それが門上御影である。

しかしそれがそもそも世界侵略用に創られた生体兵器なら。

しかも御影よりずっと手軽に眷属化出来るのなら。


それはもう邪神側の最大戦力だ。


「逆に言えばだな。元は吸血鬼だとしても邪神の眷属になる前に神に帰依してしまえば――『人間』になれるんだよ」

「『龍人』『吸血人』『エルフ』『ドワーフ』ってやつでさあ」

「うちの世界には居なかったんだが……」

「ブルグレ閉鎖的すぎんだろ!!」

「……ああ、つまりはヴァルさんはその『吸血人』だと?」

「そうだよ」


なんかヴァルさん誇らしげである。


「まあ、やっかいな余所者だっていっても邪神の眷属になるよりはましでさあね。吸血鬼一匹に全人類絶滅させられることもねえとはいえねえですし」

「おおう……」

「まあ、ああなっちまったら戻せねえからな……。せめて死なせてやるのが当人の為だ」


ふむ。

なんというか。かんというか。

これがヴァルさんとほか二人のテンションの差か。

ディーさんやギグルさんにとっては人喰の化け物でも――ヴァルさんにとっては遠い親戚のようなものなのだ。


「……ちょっと整理して良いっすか」

「良いぞ」

「まずニュートラルの吸血鬼ーー仮にこれを吸血獣としますが……」

「吸血獣だとおっ!?」

「旦那旦那、落ち着いて」

「いや、結構良いセンスじゃねえか……。侮れねえな豊蘆原」


お気に召したらしい。

うんうんと何度も深く頷いている。


「で、その吸血獣さんが邪神の眷属になると吸血鬼さんになって、神に帰依して人になると吸血人さんになって、で、ヴァルさんは吸血人だと」

「その通りだ」

「……で、人を食べるのはどのタイプの方なんでしょうか?」

「その区分でいやあ吸血獣でやすな」

「……結構紳士的な人たちなんだぞ」


ディーさんが言って、ヴァルさんがむくれた。

まあ、ヴァルさんの言うことも分からなくはない。

人が猿を好んで食べないのと同じような理由で吸血獣さんは吸血人を好んで食べようとはしないのだろう。

ヴァルさんから見れば正しく紳士的な人たちなのだ。

しかして、ディーさんから見れば……と。


「あれ、ギグルさんは?」

「ああ、旦那なら『短剣をどっかに落とした』って言って探しに行きやしたぜ。旦那の可変鎧変形させるには一回武装解除する必要があるんでさあ」

「明らかに不便だろうと思うんだがな……」

「フルプレートは着にくいんだそうで、あれでも十分便利だとかって話ですぜ……まあ、ちょうど良い時間帯ではありまさあね」


とそこで、ディーさんはヴァルさんを見た。

めっちゃいやそうな顔をするヴァルさん。


「……おーい御影、時間だから午前の講義はここまでな」

「? まだ早くないですか?」

「何のためにここで講義やらされてると思ってんだよ? ……楽しい楽しい箱詰めのお時間だ」


今までの生き生きとした講義は何だったのかそう言うレベルでどんよりするヴァルさん。

その横でからからと笑うディーさんはめっちゃ楽しそうだった。


「そういうことでさあ。配送用の昼食の箱詰め手伝いお願いしやす」

「……わかりました」


そういうわけで。

門上御影、久方ぶりの配送アルバイトである。

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