番外:かくれんぼ大会
というわけでかくれんぼ大会である。
といってもとりあえずリンが隠れてイヨルが見つけるだけなのだが。
そう。
探す文化のないイヨルと。
かくれんぼ初体験のリン。
もうぐっだぐだ確定のかくれんぼがついに幕を開けたのだった。
* * *
(かくれるのだ! かくれるのだ!)
さてこちらは赤コーナー、隠れる側のリン。
草むらに丸くなるという何ともシンプルな隠れ場所である。
今日び小学生でもやらないような隠れ方だが実はこれ悪くない。
魔法神直下の眷属であるリンとエルードの相性は半端なものではない。
神や眷属が最大の力を発揮するのは己の世界にいるときだ。
ましてやメリューはキーズ神自ら創り三語神相当とした眷属。
最早エルードそのものが存在を祝福しているといっても過言ではないのだ。
故に。
リンが草むらで丸くなった途端。
なんかいい感じに草陰が出現した。
それだけではない。
リンの気配そのものが世界に馴染んで薄まっていく。
三語神相当は伊達ではない。
このエルードにいる限り、世界はリンを祝福する。
(がんばるのだ!)
……いや、あなたもふっと丸まってるだけですよね?
そういう野暮なつっこみを入れるものはここにはいない。
というか可愛いからどうでも良いかもしれなかった。
まあ、そんな感じで赤コーナー、リン。
眷属としての地の利を武器にイヨルに挑む!
* * *
対してこちらは青コーナー、探す側イヨル。
「どうしたものか……」
初っぱなから困っていた。
デフォルとは神が絶対の世界である。
神に嫌われたら即死。疎まれたら即死。そういう世界である。
故に。
絶対の千里眼能力のように見える情操術。
それは致命的なほど「神」に弱い。
デフォルは神への反逆が許される世界ではない。
そのため情操術で神を見たとき見抜けるものは「神が開示しても良いと思ったもの」だけだ。
というか元々このスキルは神からの託宣を受け取るためのものだったりする。
それはさておき。
三語神相当の眷属メリュー・ディ・キーズ・ディ・リンガ。
通常の眷属よりもずっと神よりの彼ら。
その思考を存在を、情操術で見抜くことは完全にはできない。
それはもう、絶対に。
「……見あたらないな」
実際、現在イヨルのいる地点とリンのいる草むらは三メートルと離れていないのだが、イヨルにはリンが認識できていない。
無論、もし世界がリンを全力で守ろうとしてなければイヨルとて見抜くことは可能だ。
デフォル世界の誇る情操術、三語神程度に惑わされるほど安くはない。
とはいえ。
ここエルードはリンのホームでありイヨルのアウェー。
この地の利をひっくり返せるだけの探索経験をイヨルは持ってない。
「……構成をいじってみるか」
イヨルはぞろりとした装束の下、はめ込まれた神具に手をかけた。
このイヨルの体に埋め込まれたガラス質の円盤を組み替えることである程度の情操術の方向性変更が可能だ。
三語神相当といえど眷属ならこれで十分と思ったのだが――。
「やめるのだー!!!」
その手はフライングにゃんこによって止まる事になった。
* * *
リンにとってイヨル・キウダとは「へんなやつ」である。
現在、リンにとって標準的な人間とは門上御影の事を指す。
これは別に良い。
無論、エルードの神霊であるリンはエルードの人々を標準的な人間だと思ってなければいけないのだが、ぶっちゃけそこまで違いはない。
少なくとも魔法神直下の眷属が気にするほどの違いはない。
リンにとって一般的なエルード人の魔法能力など全く使えない御影とそこまで違わないのだ。
ともかく、門上御影を「標準的な人間」と認識しているリンからすればデフォル人イヨル・キウダとは滅茶苦茶変な奴である。
というか召喚された全員が「変な奴」だと思っていても不思議ではない。
デフォル人それほど奇怪な存在なのだ。
デフォル人。
人間、と言うことになっている彼らには実は単独で存続できる能力がない。
極端に低い治癒能力。最低辺の内在魔力。身体能力などいわずもがな。
それ以上に危険なのは極端に低い三大欲求だ。
彼らは人口を増やそうというモチベーションを持たない。
神が「増えるように」と託宣を定期的に発し続けなればあっという間に絶滅する。
その有り様は――人間と言うよりも眷属に近い。
神に対する隷属性。乏しすぎる生存欲求。加えて彼らは基本的に不老だ。
まさに「天使」である。
実際。
物理的物体ではなく霊的存在として彼らを見たとき。
大抵において眷属よりの人ではなく人よりの眷属として認識されるだろう。
彼らが人として定義されているのはひとえに「神に信仰を供給できる」という一点にほかならない。
神に信仰という形で力を供給できること。
それが眷属にはない「信仰主体」の基本能力だ。
逆に言えば。
その一点以外はほぼ完全に眷属なのがデフォル人である。
その存在は受肉した天使に近い。
よって。
その存在が自身に埋め込まれた神具を取り出そうとしている図をリンから見るとどうなるか。
それは本猫に語ってもらうとしよう。
「だめなのだ!! だめなのだ!! じさつなんてだめなのだ!!」
「……いや、そういうわけでは」
てしてしと繰り出される猫パンチ。
対するイヨルは困り顔である。
「いたいのはだめなのだ~!!」
「分かった。分かったから落ち着け」
そう。
リンから見たら「右手が右にあるのが使いづらいから左手と付け替える」レベルの暴挙である。
埋め込まれた神具など眷属にとっては血肉に等しい。
もう少し経験を積んでいればそれが取り外し可能だと気づいただろうが……リンの経験値では無理だ。
「いよる、わるいこなのだ!! じさつだめなのだ!!」
「ああ、もうどうすりゃいいんだ……」
住民全てが千里眼使いであるデフォル。
相手の考えが分かって当然なこの世界出身であるイヨルに「説得」なんてスキルあるはずもなく。
というか、こんな興奮状態にゃんこを説得などよほどのにゃんこスキル持ちでなければできるはずもなく。
結局、リンが落ち着きを取り戻したのは駆けつけたリューイに説得された後だったとか。
こうして。
第一回かくれんぼ大会は勝者なしのまま幕を閉じたのであった。
このあとひたすらかくれんぼしまくりです。
「つぎはまけないのだ!!」




