綺麗だと思っていたんだと彼は思った
「生きているなら死ぬのです」
どれだけ若かろうが。
どれだけ愛されようが。
どれだけ偉大だろうが。
どれだけ有能だろうが。
それは死んではいけない理由にはならない。
それが――生きていると言うことでしょうと天照様はいう。
「もちろん、それを人が悲しむことは道理ですけど」
でも――もし。
「死」が悲しみで。
「死」が終わりで。
「死」が処罰で。
「死」が罪業なら。
出産って殺人でしょう?
「はい?」
「だって、生まれたからには死ぬんですから。100%間違いなく死ぬと分かって生むんですから――だったらそれは殺人でしょう?」
生まれたら死ぬ。その相関関係は科学的に揺るぎない。知らない人もまたいないだろう。
つまりみんな――そんなことしたら確実に死ぬと分かってやるのだ。
なるほどそれは――まごうとことなき「殺人」である。
だけど。
「違いますよね。死は自然の営みで処罰でも罪業でもなんでもない」
生きている。
だから――死んでいく。
そこにはなんの悪もなくて。何の悪も必要なくて。
ただ、必然の結果があるだけだ。
ただ、自然の結末があるだけだ。
「だから――死んだ方が良い命というのもないでしょう」
「死」ってそういうものじゃない。
どんなに間違っていたって、生きていれば死ぬだろう。
どんなに正しくったって、生きていれば死ぬだろう。
そこに。
善とか悪とか――正とか邪とかある訳ないのだ。
「無論、命を粗末に扱って良いと言うわけではありませんけど」
でも、死を粗末に扱って良い訳でもないのだ。
絶対あなたはいつか死ぬ。
処罰でも罪業でもなく――生きてきた結果として。
「……そういえば天照様のお母様は冥界の女王でしたっけ」
「ですから、もうめっちゃ語りにくいのですけど――それでも」
初めて――御影と天照様の目が合った。
どこにでもある二つの眼球――しかし。
門上御影の人生においては――何度もあるイベントではない。
人の目なんて見たことがない。
視線なんて合わせた記憶がない。
それとも彼女はいつも見てくれていたのだろうか。
空を見上げる御影を――いつも見てくれたのだろうか。
ああ、思い出した。
そこに誰かがいると思っていた訳ではないのかもしれないけど――俺はずっと。
太陽が綺麗だと思っていたんだ。
「死は――罰ではないのだと言いたかったのです」
女神はうすく微笑んだ。




