そう思って生きていくと彼は思った
ここにないものを思う力。
今ないものを夢見る力。
それが人間の人間たる由縁だと習ったのは高校の世界史であったか倫理であったか。
いや、俺は就職組なんですよなんで倫理までやらんとあかんとですかといったのも今は昔。
いや、ほんと世の中なにが幸いするか分からない。
話を戻せば。
そういった空想力というか想像力というかは我々新人の種族特性であるそうな。
旧人……例えばネアンデルタール人とかにはなかった新機能なのだとか。
死者に花とか供えちゃうことで有名なネアンデルタール人だが、逆に言えばそこが彼らの限界だったらしい。
例えば黄泉がえりであるとか。
そもそも黄泉の国であるとか。
根本的な話しとしての神とか。
そういった諸々のもの――つまりは目に見えないなにがしか。
人が信じることでその姿を現したものたち。
それを信じるには彼らは至らなかったのだ。
しかし逆に。
そういった諸々からこちらを見るなら。
人が人になった瞬間とは正しくその瞬間だ。
人が神を信じたことで神が出現したのか。
人が神を信じたことで人が出現したのか。
鶏が先か卵が先かの議論がそこにある。
門上御影の理解の限界はそんなところであった。
「……妙なところで頭が回るというかなんというか」
天照様にはなんかあきれられてしまった。
最早頭の中身をのぞかれることになんの感慨もなくなった門上御影である。
「……というか、別段信仰故に空を見ていた訳でもないですが」
「けれど、ただ光の散乱を眺めていた訳でもないでしょう?」
ならばそれで十分なのですと天照様は断言する。
「私たちはそういう信仰ですよ」
視線の先には――本殿。
壮麗にして清冽なる佇まい――けれど。
そんなものが生まれ得る前から、「彼女」は居たのだ。
「米を食べるより早く、着物を着るより早く、この国が生まれるより早く――ただ空を見上げた目が合った」
それが全て。
それが始まり。
歌うように語る彼女の頭上には白く白く太陽が輝いている。
遙かなる過去から届く光。遙かなる過去で見上げた光。
門上御影が――見上げた光。
「だから、私はあなたを『人たる存在』として認定します」
その目で空が見れるなら――人であることを疑う余地などひとかけらとして存在しない。
女神からの――断言だった。
* * *
「……」
むむむって感じであった。
好意的に考えれば「偉大なる太陽神に太鼓判押してもらったやったぜ!!」って事なのだろうが……豊蘆原の神は加護とかあんまりやらない系だと既に御影は聞いている。
つまりは。
単に御影程度を人間認定しても構わないぐらい基準が低いだけなんじゃね?疑惑が燦然と。
いや、だってぽけーっと空見てるだけでOKとか言われたし。
求める信仰の基準がそこでは……うん。
そりゃあ、わざわざ加護与えてまで信仰を集めようとは思わないだろう。
ならばそこまで人間に高い理想を求めている訳でもないはずだ。
もう御影程度でいいやってなるレベルでも良いのかもしれない。
「……なんでそんな邪推するんですか」
天照様にジト目でにらまれた。
なんかちょっと可愛く見えてきた。
「いや、だって俺門上御影ですし」
「そこまでいくと自意識過剰の領域ですよ!?」
言われてしまった。
まあ、自覚はある。
門上御影など居ても居なくてもいいような小物だ。
わざわざ殺す価値すらない――本当にどうでもいい生命。
人間と呼ぶことすらはばかられる下等生命体である。
自意識など――持ってるだけで過剰なのだ。
「……一周回ってあなたが相当なナルシストに見えてきました」
「かもしれませんね」
「どうしてそこまで、とお聞きしても?」
「いや……そうじゃないと言われた事なんてありませんし」
結局のところそれにつきる。
誰も声を上げて明確に否定しなかった。
ならばそうなのだろうと考える意外にない。
好きだと言われたことがない。
ならばいない方が良いのだろう。
生きてと言われたことがない。
ならば死んだ方が良いのだろう。
そう思って生きてきた。
そう思って生きていく。
きっと俺は――嫌われてすら、いなかった。
「……そうですか」
そういう女神の横顔にはなんの感情も浮かんでいない。
透き通るような無表情。
綺麗だと――思った。
「そう思えるのもきっと――人であるからなのでしょうね」
「……」
見えないものを見るチカラ。
それ故に信じられるものはきっと神だけではない。
そういうことだ。
「では――儀式を始めますか」
「そうですね――!」
驚愕。
驚愕である。
天照様が鞄から引っ張り出した物体。
それはどう見ても――。
榊の枝(ビニール製)であった――!!




