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幕間:ルーイックの事情

「らしくない失態だね」

「まったくもって面目ございません……」


リューイ・ディ・エンクの言葉にルーイック・トゥータは肩を落とす。

失態である。

大失態と言ってもいい。

ともすれば――第39期文明存続の危機ですらあっただろう。


……まあ、いい加減第39期文明滅んじゃっても良いんじゃないかなとか思わないでもないのだが。

無論出身文明に愛着がないわけではないのだが、こうして余所の世界の勇者と話してみると。


第39期文明の誇る儀式魔術――戦争儀式。

その歪みっぷりに嫌気がさしてしまうのは止められない。


それはさておき。


「んー……責任の所在は今はちょっとおいておこう。ルーイック君だけを責めてどうにかなる問題でもないしね」

「恐れ入ります……」

「今問題にしたいのは――君たちを襲った邪神の分体とおぼしき個体がローグウェン・グルーの索敵をすり抜けたってことだ」

「……」


ローグウェン・グルー。

神よりもたらされた神具(アーティファクト)「不朽の盾」の使い手たる戦士。

その性格は非常にちゃらんぽらんかついい加減。

不壊の守りを保証する「不朽の盾」の使い手にありながら守るべき民を何度も見捨てた経歴を持つ。

ルーイック・トゥータがルーイック・トゥータとして初めて書いた小説の主人公である。


「ローグウェン・グルーは『対象を必ず護衛する』という防御役の根幹を削ってまで『索敵能力に優れ機を見るに敏』という属性を付け足した個体。我輩の持つ中では最も索敵能力に長ける個体なのですが……」

「うーん……そこは疑ってないよ。デフォル人の索敵網にすらぎりぎりまで引っかからなかったぐらいだからね」

「そうですか……」


ルーイック・トゥータの最大の弱点は不意打ちに対する弱さである。

使い魔を召喚できてないルーイック・トゥータなどただの歩兵。

だからこそ索敵能力に長けるローグウェン・グルーは最も信用するユニットの一つだった。


加えてあの時。

ルーイック・トゥータはそのあたりを埋め合わせるためリューイ・ディ・エンクと『契約』を行った。

これによりローグウェン・グルーの召喚可能時間は大幅に上昇していた。


そこまでして――このていたらく。

ぶっちゃけめっちゃやばいと言っても過言ではない。


「僕の『契約』でグルーの能力そのものを上げられればいいんだけどねえ……」

「あれは我輩の付属品にしてトゥールリア世界そのものの付属品と言ってもいいものですからなあ……」


読者の共通認識で器を作り神からの神力をそそぎ込んで作り上げられた自らの役割を演じるだけの物体。

それが著述魔術で召喚できる使い魔の正体である。

自らの意志で動いているように見えても、結局は読者の共通認識に操られているだけなのだ。

つまり――「契約」の対象にならない。


じゃあ、誰と契約すればいいんだって話だが……外側は読者、中身は神、制御は作者の分業作業なので……うん、誰と契約すれば良いのかと。


ルーイックと「契約」して強化できるのは召喚可能時間ぐらいのものである。

能力そのものを上げようとするならば――おそらくすべての読者と「契約」する必要があるだろう。

いかな契約神といえどもさすがに現実的ではない。


「……とりあえず、君は待機というか謹慎してもらう」

「でしょうな」

「監視兼護衛もつけよう。デロニカ君が空いてたかな」

「あの方ですか……」


デロニカ。

姓も氏もなにもないただのデロニカ。

刻印世界ガーフィールの勇者である刻印魔法使いである。

特にトラップ型の魔法の扱いに秀でた魔法使いだったはず。


ふむ。

ここで著述魔術に引っかからなかった相手が刻印魔術に引っかかるのかどうか見ておこうと言ったところか。

若干おもしろくない気もするが……そこでグダグダ言うようならローグウェン・グルーなど作ってはいない。


誰よりも何よりも――「自分が生き残る」ことを優先する英雄(ヒーロー)を真っ先に描いたのは。


そう生きたいという思いであり。

そう生きるという宣言であり。

そう生きるべきという挑戦である。


初めて著述魔術という力に向き合ったレーバイエ・ガーター(どこにでもいるモブ)の叫び。

誰でもなかったレーバイエ・ガーターが第39期文明の英雄ルーイック・トゥータになるにあたっての小さな約束。


「……ああ、そういえば」

「なんだい?」

「いえ、こちらの話ですよ」


そういえば。

何を希望に生きるのか――その答えを。


「まだ聞いておりませんでしたなあ……」


知らず笑んでルーイック・トゥータは呟いた。

かつて御影がしたような――玻璃のような笑みだった。

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