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めっちゃハズいと彼は思った


「あー……なんかもうグロッキーですなあ」

「まだ仕事終わってねーぞー」

「分かっておりますぞ……その前に薬草茶一杯だけもらえますかな」


あの後。

戦場にミサイルをぶち込み、戦車を走らせ、空爆を決行し、キメラを放ったルーイックさん。

さすがにお疲れの様子であった。


「あー……もう何回魔力切れ起こしてるのかって話ですなあ。回復酔いでめまいが止まらんのですが」

「あ、やっぱり魔力いっぱい使うんですか」


まあ、そりゃそうだろう。

ミサイルを雨霰と降らす魔法ってだけでどんだけの魔力を使うのか。

神の力を借りるにしてもとんでもないことは確かである。


しかし、ルーイックさんの答えは違った。


「いや、単に我輩の魔力許容量が少ないだけですな。我輩、内在魔力限界量も内在魔力平均量も人並み以下――トゥールリア人平均以下ですから」

「持てる魔力の量も普段持ってる魔力の量も人より少ない……?」

「ですな。おおよそ平均値の75%程度しか持っておりませんな」

「……魔法使い向いてなくないですか?」


魔法のことが全く分からない御影といえども持ってる魔力の量が多いほどいいのだろうという程度の認識は持っている。

何となくのイメージだが。

貧しい家の子が高い魔力量を見いだされて魔法学校に……とか。

ファンタジーものでは定番中の定番だろう。


「向いてないから無職だったのですぞ。魔力量が多ければそれだけで雇ってくれるところもあるにはありますからな。……うー、気持ち悪い」

「肉体派ってわけ……でもない感じですよね。あ、お茶俺の分もいります? 飲んでないんで」

「ありがたく頂戴しますぞ……。まあ、肉体派でも頭脳派でもありませんなあ。それでもこれだけの戦力が召喚できる著述魔術の偉大さ……すいません我輩ちょっと吐いてきます」

「あ、行ってらっしゃい」


ルーイックさんダッシュである。

いや、ダッシュしようとしているようだが足下がふらついている。

……大丈夫だろうか


「まーいつものことだし大丈夫だろ」

「ただの回復酔いじゃな」

「大変っすねえ……」


いつの間にか背後に立ったはローグウェン・グルーだが。

彼もまた住所不定無職だったはず。

昨日少しだけ「ローグウェン・グルーの冒険」を読んだのだ。

ねぐらを持たず賭場を渡り歩く遊び人、だったはず。

……リア充じゃねえかとか思ったりもしたけど。

まあ、住所不定無職は無職だ。


「お前はリア充に何か恨みでもあるのかよ?」

「俺、そんなに分かりやすいっすか!?」

「うん」


もう見抜かれまくりである。

それはさておき。


「ほらリア充って『正しい』命じゃないですか。俺とは違って」

「正しい、ね」

「仲良くすることが豊蘆原絶対の正義っすからね。仲良くできない奴はそれだけで間違いなんすよ」


和をもって尊しとす。

十七条憲法とか。


本当はもっと複雑だ。

労働人口の減少に対する生産性向上の必要性とか。

みんなで協力して事に当たれる奴はそうじゃない奴より『正しい』のだ。


そういう意味で。

門上御影という命は。

根本的に――間違っている。


「……その辺があやつの気を引いたのじゃろうな」

「トゥールリアじゃあんまりない考えだからな」

「どの辺がですか?」

「希望を信じていたと言っておったじゃろ?」

「第39期文明末期の生まれだからな。あいつには希望だけは潤沢にあったんだ」

「第39期文明」


オウム返しに御影は言う。

さっきもちょっと出てきた第何期文明という言い方。

単純に考えれば39番目の文明という意味なのだろうが。


末期と言ったか。

つまりは第40期文明に移り変わる過渡期、だろう。

ならば希望とは――第40期文明のことなのか。


「……お主、妙なところで察しがいいのう」


あきれたように不朽の盾が言う。


「そっちこそ察し良すぎでは!?」

「いや、今のは口に出てたぞ」

「……左様ですか」


めっちゃハズい。

やらかした感半端ねえ。


「まあ、それがトゥールリアのルールじゃの」

「人の決めたるヒエラルキーは一つの文明の間しか持続しない。第39期文明でどれだけ底辺にいようが第40期文明では関係ない」

「実力で決まるのかもしれん。家柄で決まるのかもしれん。信仰で決まるのかもしれん」

「サイコロ振って決めた文明もあったぐらいだ。どんな奴にも成り上がるチャンスはある」


それが信仰世界トゥールリアの根幹。

人の決めたる階梯など――神の前では塵芥。


なるほどそれは。

揺るぎない底辺を信じる門上御影とは真逆。


「……まあ、とっくに終わっているはずの第39期文明を存続させ続けているのが我が輩である訳なのですがなあ」

「あ、ルーイックさん。大丈夫っすか」

「ご心配をおかけしまして――」


その時。

御影の視界の端で何かがきらめいた。


凍えるような光だった。

一目で危険と分かるような。

本能が警鐘を鳴らすような。


後に御影は考える。

どうしてそんなことをしたのか。

ルーイック・トゥータと意外に仲良くなってしまったからか。

あるいはただの動物的な反射か。


それとも。

ただ単に。


死にたかった――だけなのか。


ともあれ。

御影は手を伸ばしてその光を掴んだ。


激痛が――走った。

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