それでも俺はと彼は思った
「で、俺は何を話せば良いんで?」
「うーん、なんと言いますか。一言で言うなら『ヒエラルキーの強靭性』についてでしょうか」
「……はあ」
さっぱり分からねえ。
それはさておき。
六体もの使い魔を召喚したルーイックさんであったが、御影たちのテントにいるのは一体きり。
聖女姫ハイライサ・ギーク。
姫騎士アリアイラ・ギークの妹――であるらしい。
あまり似ていないが。
ゆるふわ巻き髪の癒し系お姉さんときっちりポニーテールの女武人。
もうこれだけでストーリーが生まれそうである。
「御影殿は昨日『自分が嫌われ者なのは自明の定理』みたいなこといってましたな?」
「言いましたね」
「それは『自分が社会的ヒエラルキーにおいて底辺にあるのは絶対的に確かである』という意味であってますかな?」
「あってますね」
ごくごく自然に門上御影はそう答えた。
そうでなかった時期が門上御影には存在しない。
その地方で最も尊敬される進学校に通ってさえ――門上御影は見下される側だった。
「我輩が取材したいのはそこですな」
「底辺の気持ちが知りたいと?」
「それは取材するまでもありませんな。我輩は10年ほど前まで社会的に底辺でした」
「……」
驚いた。息を飲むほどではなかったが。
あるいは――分かっていたのかもしれない。
その想像力は恵まれた者は持ち得ない何かだと。
「親のない――仕事のない友人のいない男でしたよ」
家もありませんでしたな。
ルーイック・トゥータは淡々と言った。
住所不定無職。
それは間違いなく門上御影と同じ。
「それでも我輩は――信じておりましたなあ」
いつか全てが逆転する奇跡を。
いつだって――信じていた。
「それがトゥールリア世界の根幹。揺るがし得ぬ神との契約。――だから」
聞きたい。
お前を生かしているものは何だ?
人は希望なくして生きられない――なら。
お前は何を信じている?
門上御影は――黙った。
答えられなかったのではない。
答えたくなかったのではない。
ただ、耳を傾けていた。
血が叫ぶ。
骨が呻いた。
肉が歌う。
皮が呟いた。
髪が囁く。
爪が喚いた。
心と頭を裏切る「命」そのものの大合唱。
分かり切った答えをかき消すほどの轟音。
例え人間でなかったとしても。
それでも――俺は。
「――かっこよく話しておるところすまんのう」
突然に降りた沈黙を破ったのは不朽の盾さんだった。
「『騎士団』壊滅寸前じゃぞ。吸血鬼が『魔法王』スルーして『騎士団』に向かいおった」
「転移の魔法陣使われたなー」
「ああ、もう締まらないですな!!」
ルーイックさんは右手をかざす。
「召喚:姫騎士!! アイライアで防御させてその隙に立て直してください!! 『聖女姫』は我輩の回復を!!」
「『聖女姫』も騎士団に当てた方が良くない?」
「それやったらあいつら『聖女姫』守る以外やらなくなりますからなあ……」
「さすが聖女至上主義の第18期文明じゃな……」
なんかもう大変である。
ルーイックさんは地図の上の駒を動かす。
「『騎士団』で雑魚は掃討できてますな……ここからは強力な個人を投入した方が良いでしょう」
「なんか『暴君』が『じじいが俺の獲物を取りやがる』って騒いでるぞ」
「さすがはガンソン殿ですなあ……邪龍側は心配なさそうですな」
御影完全に置いてけぼりである。
しかし、あれだ。
これシミュレーションゲームに近いな。
ユニットを上手く配置して敵を倒すゲーム。
ちなみに御影はこれがすごい苦手であった。
読みあいみたいなのが苦手で相手の手が予測できない。
自分がこう動いたら相手はこう動くだろうみたいなのが完全に理解の外だった。
「……」
ルーイック・トゥータ。
同じ住所不定無職だったといったけど――やはり。
基本スペックの部分で大きく差があるのだろう。
成り上がる者は成り上がるべくして成り上がる。
門上御影のような出来損ないの怪物は――底辺がお似合いだ。
「そんなことはないだろうよ」
そう言ったのはローグウェンさんだった。
「マスターがすげえとか思ってんだろ? そんなことねーぜ。マジであいつただのオタニートだったし」
「あの我輩しゃべりからして鏡の前でのごっこ遊びが起源じゃからのう……いやはや良い年して恥ずかしい」
「我輩のトップシークレットをそんな簡単に!?」
「マジすか……」
うわあ……痛いな。
イケメンが台無しである。
まあ、でも。
そこまでの想像力――もとい妄想力がないとここまでのことは出来ないだろう。
鏡の前で我輩しゃべりはどうかと思うが。
「ちなみに顔面も魔法でいじくってあるからの?」
「あれは軍が勝手にやっただけで我輩ノータッチですぞ!!」
「ノリノリで写真撮りまくってたけどなー」
イケメンですらなかった。
いや美意識的なものは世界によって変わるのだろうけど、ノリノリで写真撮ったってことはイケメンになったんだろう。
「ええい!! 馬鹿話をしている場合ではないのです!! 『騎士団』がいよいよ壊滅ですぞ!!」
「『魔法王』を合流させねえの?」
「『魔法王』は山陰の邪龍に当てるしかないでしょうな。『傭兵団』をそのフォローに。吸血鬼の相手は――」
そこでルーイックさんは右手をかざす。
「召喚:誘導弾」
「ミサイルにて地形ごと吹っ飛ばすか!!」
「あの地点に人は居ませんからな。残る『騎士団』は『姫騎士』で守らせましょう」
「……」
え、マジでミサイルとかまで召喚出来るのこの人。
ルーイック・トゥータそんなすごい人じゃない説。
早くも疑問符がつきだした。




