エリートは大変であると彼は思った
さて。
エルードにおいて食事の配達はガレディーテ氏――ディーさんによって賄われている。
ていうか、ありとあらゆる物資の配達がガレディーテの取り替えっこによって賄われているといっても過言ではない。
決められた地点に物資を届けることにおいて熱帯雨林的なネット通販を凌駕するデドフォートの至宝。
その配達に万の一つの誤差もあり得ない。
つまりはまあ。
二月三日金曜日。
今日も今日とて。
門上御影とルーイック・トゥータ。
あのなんかあまりおいしくない三点セットが朝食だった。
ちなみにリンはまだ寝ている。
「みかげはわれがまもるのだ~」とか、もう寝言が可愛すぎて起こせなかった。
「護身術を習うべきだと思うのですな」
「護身術?」
驚くべきことにトゥールリ世界の勇者ルーイック・トゥータはこの待遇に対してなんの不満もないらしい。
平然とした顔で三点セットを平らげている。
『軍人ですからな』
理由を問うた御影にこともなげにルーイック・トゥータは言った。
エースにしてスターにしてカリスマ。
しかしてそれ以前に軍人。
ならば――「護身術」の一言がこの男の口からでたのは疑問ではないだろう。
ただし、門上御影。
言われた方は軍人でもなんでもない。
ぶっちゃけぽっかーんであった。
「護身術……というのも違いますがなあ。御影殿は魔法のない世界から来たのでしょう? ならば多少魔法慣れしておく必要があると思うのですよ」
「魔法慣れ、ですか」
お、ちょっとはわくわくするワードが出てきたぞ?
「ああ、そう言えば御影『元素魔法』見たことないな」
「エレメンタル」
オウム返しに御影はいう。
エルードに来てからよく聞くようになった言葉だが――正直意味はよく分かっていなかった。
「召喚された勇者の世界ほぼ全てに共通する基本的な魔法、だと思えばいい。ちなみにデフォル人は使えない」
「デフォルの方々は内在魔力極端に低いですからなあ。あ、我輩は使えますな」
「顔合わせの日にお前に突っかかったリーネがいるだろう。あれが全勇者中最強の元素魔術師だ」
「マジっすか……」
あれ? それってヤバくね?
あの人俺のこと殺すの一瞬だって躊躇わねえ感じだったんですけど?
しかも、その後リンになんかしそうな感じだったのですが?
百歩譲るまでもなく俺を殺すのはまあ良いとしても。
リンにひどいことするのはちょっと許せないのだ。
「……お前な。曲がりなりにも豊蘆原世界の代表だろうが。勝手に死んでも良いとか言うんじゃない」
「しかしですねイヨルさん。例え俺が『お前には絶対負けない!!』とかかっこよくいったとして――なんかできますかね?」
「……リンに土下座して守ってもらえ」
飼い猫頼みだった。
というかイヨルさんに俺の内心が筒抜けすぎる。
ノープライバシーであった。
「まあ、メリューに守ってもらうにしろ――パニックにならない程度の知識は必要でしょう」
「問題は人選だな。魔法使い系の勇者に頼もうもんなら消し炭待った無しだぞ」
「皆一騎当千の猛者ですからなあ……むしろ苦手な方に頼まないといけないでしょうな」
「お前を筆頭にガレディーテにギグルあたりだろう。それならいわゆる護身術も習える」
「まあ、そんなところでしょうな」
なんかどんどん話しが進んでいくのだが。
ディーさんはいいとして――ギグルさん?
さて、どんな人なのか?
「お前に分かりやすく言えば『馬具の人』だな。奴に与えられし神具は『皿』ではなく『馬具』なのだ」
「馬具……っすか」
「正確には鞍だな。『名馬を無限に召喚する鞍』だ」
「騎乗時特攻特防能力者ですなあ。『馬に乗っているときに限り攻撃力も防御力も絶大に上昇する能力』の持ち主というわけですな」
「逆に馬に乗っていなければただの強い騎士だからな。お前を一撃でミンチにしたりは出来ないはずだ」
「いや、他の勇者だったら一撃ミンチなんですか」
「ああ」
「そうですな」
さいですか。
まあ、ジャイニーブさんとか獣人だしな。
一撃ミンチも不可能ではないだろう。
「まあ、我輩も多少の対人格闘ぐらいはこなせますが……物理メインの勇者は桁が違いますからなあ」
「なんだかんだでお前基礎スペック高いよな」
「スパルタで鍛えられましたからなあ……」
エリートは大変である。
しかし、そう考えると弱い方でも自衛官並の強さはあると見て良さそうである。
武道経験が高校体育しかない門上御影、ついていけるだろうか?
と御影が思ったところで。
「おっはー!!」
懐かしい挨拶とともに――エルード主神代行リューイ登場であった。




