普通に倒してやれば良いじゃねえかと彼は思った
門上御影は雑魚である。
これはもう確定事項だ。
心技体全て全勇者中最弱。
間違いなく最も倒す意味のない人員。
故に。
出現した邪神の分体の目的が――門上御影だというのなら。
その裏にはなにがあるのかという話である――!
* * *
「まあ、間違いなく豊蘆原でしょうな」
「確実に豊蘆原への世界間跳躍だろうな」
魔法使い二人は声を揃えた。
リューイはいったん対策を協議するといって出て行ってしまって――ディナータイムである。
驚くべきことにトゥールリア世界の最大戦力、勇者ルーイック・トゥータの晩ご飯は御影と同じメニューであった。
それはさておき。
「基本的に我々が派遣されている大きな理由は邪神をエルードに封じ込める為というのですからなあ」
「我々のデフォルなりトゥールリアなりにやってこないようにするために――エルードで確実に倒しきるために我々はここにいる」
だから。
最悪中の最悪が「邪神の異世界転移」なのだ。
「……いや、それならイヨルさんやルーイックさん狙いと言うこともあるんじゃ?」
「「ない」でしょうな」
ばっさりである。
「トゥールリアの神々ならこの程度の邪神瞬殺ですな」
「邪神とは言えデフォルの不毛の大地で生きられるとは思わない」
自信に満ちあふれた言葉であった。
それこそ――信仰と呼ぶことすら不可能ではないぐらいに。
…………ていうか、トゥールリアの神様そんなに強いならエルードに来いよ。
普通に倒してやれば良いじゃねえか。
「考えてることは分かりますが……トゥールリアの神――例えば武神ガレアあたりがエルードの邪神を倒そうもんならエルードはトゥールリアに一瞬で併合されますな」
「エルードは元よりトゥールリアですらただではすまないレベルの変化が起こっても不思議ではないぞ」
「俺、そんなに分かりやすいんですか!?」
「「分かりやすい」ですなあ」
断言である。
「まあ、我輩も最高神デグア様よりの託宣でそう聞き及んだだけなのですが……」
「その認識で間違いない。デフォルが保証する」
「そうすか」
まあ、イヨルさんがそう言うならそうなのだろう。
というかイヨルさんと化かし合い勝負しかけたとて勝てる未来の一個もない門上御影である。
素直に信じる以外の選択肢などない。
「だから――移転先の世界を探りにきたというならほぼ間違いなく豊蘆原だ」
あの世界は豊かだからな――転移されれば大変なことになるぞ。
イヨルさんはそんな風に断言するのだった――が。
御影からしてみれば疑問符浮かびまくりである。
豊蘆原そんなに豊かか?
あの夢も希望もなんにもない絶望の最果てのような地が?
「……御影殿、本気で人間嫌いなんですなあ」
「むしろここまで行くと一周回って人類愛に満ちているとすら呼べるのかもしれん」
「俺はどこを一周回ったんですか!?」
まあ、正直御影といえども答えは察しがつく。
魔力――どうやらそれが豊蘆原に多いらしいという話はちょいちょい出てきていた。
それが邪神のエネルギーになるのなら――それは危険と言うことだろう。
「豊蘆原の魔力は独特だがな――邪神の養分となる分には差し障りはないだろう」
例えば油やアルコールのようなものだと考えれば良いのだとイヨルさんは言う。
火をつければ危険極まりないが――食べてしまえばただのカロリーだ。
「加えて――これはリューイが独自に唱えてるだけの仮説なのだがな」
イヨルさんはそう前置きして口を開く。
ひどく不吉な――予感がした。
「邪神が自然のエネルギーを取り込んでるという説がある」
「はあ……」
「例えば――××とか」
「……なるほど」
御影にしては珍しいほど静かな――静かな口調であった。
だからこそ――その内心は明確であった。
今まで。
門上御影にとって邪神とは善でも悪でも無かった。
もっといえば――なんでもなかった。
けれど。
もし「邪神は悪かもしれない」という可能性がポップアップした瞬間があるとすれば――それは間違いなくここだった。
それが――この先大きなターニングポイントとなることをイヨルですらまだ知らないままにただ夜は更けていく。
――二月二日木曜日終焉。




