結構猫飼うの大変だわと彼は思った
「みっかげー!!」
ああ、家に着くなりもふもふが俺に向かってダッシュしてくるとかなんという天国であろうか……。
「ほほう、これが噂のメリューですか」
「もう御影にべったりでな」
「みかげなのだ! みかげなのだ!!」
背後の二人の声もリンには届いていないらしい。ざらざらの舌で俺のことをなめまくりである。
「はいはい。今日はお客さんいるからリビングにいくぞ」
「わかったのだ!!」
そういうわけで。
一同ぞろぞろとリビングに移動である。
* * *
「『自分の書いた小説の登場人物を召喚する』というのが我輩の著述魔術ですな」
「おおカッコいい!!」
「かっこいいのだ!!」
リビングで一息つきおもむろに口を開いたのはルーイック氏であった。
アリアイラ嬢はルーイック氏の傍らで彫像のように立っている。
ああ、テーブルてしてししてるリンが可愛い……。
「……ふむ。その様子では『小説』なる文化は豊葦原には存在しますか」
「しょうせつなのだ?」
「えっと、そちらのものと同じか分かりませんが……」
「まあ、いわゆる文字で書かれた架空作品で大量に同じ物を作って頒布するもの――であれば概ね同じでしょうなあ」
重要なのはそこなので。
ルーイック氏は――いや、ルーイック先生とか言うべきなのか?――はそう言ってどさっと本の山を取り出した。
…………どこから出てきたんだこれ。
「そういうわけで、これを一通り読んでいただけると」
「はい!?」
「おおいのだ!?」
60冊ぐらいないですかこれ……。
真っ白けの表紙にタイトルが書いてあるだけで内容がわからないけど……あ、これ「ローグウェン・グルーの冒険」って書いてある。
ホントに登場人物を召喚するっぽいな……。
「いや、著述魔術というのは好きな登場人物を好きなだけ召喚出来るような便利なものではないのですよ」
「そうなんですか?」
「アリアイラもそろそろリリースしないと自壊しますな……。イヨル殿、哨戒のほうよろしくお願いいたしますよ」
「了解だ」
そう言ってルーイックさんは手をかざす。
すると、無言の礼をしたアリアイラさんが光の粒子になって消えてしまった。
「アリアイラ、かなりの人気ですがそれでも20分程度しか保ちませんからなあ……」
「勇者級の戦力を複数体展開出来るんだ。十分だと思うが」
「とかく不意打ちに弱くていけませんなあ。我輩自体の戦闘能力は一般兵程度ですから。イヨル殿のような索敵能力に優れた方と組ませていただくかしないと役に立ちませんし」
「……で、それと俺がこれらを読むこととになんの関係が?」
「それがですなあ……」
ルーイックさんの語るところによれば著述魔術において重要なのは人気なのだそうだ。
読まれ、共通認識が広がり――その上で愛された登場人物だけが実戦レベルでの召喚が可能となる。
「まあ、召喚が可能といってもいいとこ30分程度なのですがね」
「それも人気順ですか?」
「そうですな。人気のある登場人物ほど長く召喚できます。そしてこれが重要なのですがね――トゥールリアの人間と他の世界の人間とではこの人気に対する影響力が違うのですよ」
「つまり――他の世界の人間からの支持の方がより影響力が強いと?」
「そうですな」
人気投票に例えるなら一人一票のところを百票ぐらいもってるようなもんだという。
結構な格差である。
「なのでご協力いただけると。ああ、無論強制ではありませんよ」
「……そうですか」
ふむ。
ならば――聞くことは一つである。
「この小説群――もふもふは出てきますか?」
「もふもふ」
オウム返しにルーイックさんは言う。
もしや意味が通じていないのかと思ったのもつかの間――ルーイックさんは手をかざした。
召喚前の例のポーズである。
「もふもふ――こういうのは細かいニュアンスがありますから何とも言えませんが、一番近いのはこれでしょうな。召喚:癒獣」
「きゅ~」
ころんと机の上に現れたましっろい小動物。
強いて言うならゴマフアザラシの赤ちゃんに近いだろう。
柔らかそうなミルク色の毛。まんまるの大きな黒い目。
笑っているかのようなふにふにの口。
まるっこい足が二対とこれまたまるっこいしっぽが一つ生えている。
一言で言えば――すごくもふもふだった。
「…………かわいい」
「みかげ!?」
あ、思わずつぶやいたらリンがめっちゃガーンってなってる……。
ふぉ、フォローってどうやればいいんだ……!?
…………ええと。うん。これしか思いつかん。
「みゃ!?」
とりあえずリンの首根っこを掴む。
……おお、本物の猫よろしくリンが大人しくなった。
「きゅ?」
そのリンをそのまままるっこいの隣に置く。
……………芸術とはこのことか!?
天使だ。天使がここにいる!!
「か、かわいい……二人とも可愛いぞ~!!」
「みゃう!?」
「きゅ~」
もう、なで回す手が止まらないのなんの。
なんだろうもふもふ×もふもふの奇跡のコラボレーション。
かわいさの二乗……いや二重奏である。
「みかげ、りんかわいいのだ?」
「超かわいい」
「ほんとうなのだ?」
「超かわいい」
「……えへへなのだ!」
リン、にっこにこである。
しっぽご機嫌にぶんぶんしてる。
……うん、結構猫飼うの大変だわ。
むしろリンの性格は犬よりだと思うんだが、それはさておき大変だわ。
「……えー、もうよろしいですかな?」
「お前、ホントにもふもふ好きだな……」
こうして。
二人に若干引かれた御影はペットを飼う大変さを思い知るのであった。




