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あったかいものは嬉しいなと彼は思った

さて。

門上御影は密かに思っていた。

よその世界ではそんなに皿を洗う時に魔法を使うのかと。


いかに魔法が当たり前の世界とはいえ、たかだか皿一枚。

魔法なしで洗うぐらいなんてことないだろうと。


甘かった。

実に実に甘かった。

神々との縁の希薄な世界豊蘆原に暮らす門上御影は神より与えられし神具を洗うということについてあまりにもわかっていなかった。


リューイより与えられし皿洗いマニュアル。

それはそれはもう複雑だったのである――!


 * * * 


step1.水を浄化する


なんかもう、神々が与えし神具を洗うにあたって普通の水ではダメらしかった。

まずはあらったりなんだりする水から用意しないとダメなのである。


まずは、水瓶を洗浄する。

ずるずると引きずってきた「汎用皿洗いセット~木皿版~」から付属の水瓶と「水瓶洗浄剤」を取り出す。


洗浄剤を一振り洗い布に塗布。水瓶の内部と外側をくまなく磨く。

強いて言うならこれが門上御影の想像していた皿洗いに最も近いが実際はまだ水すら用意できていないという恐怖である。


そして磨き終わった水瓶は放置し、「砂時計・中」をひっくり返す。

水瓶洗浄剤は揮発性があるので蒸発するまで待ち――これでようやっと「皿を洗うための水を入れる為の水瓶の洗浄」が終了である。

ちなみに水瓶は二つなのでもう一セット。


もう、長くなるので省くが――一事が万事この調子だと思ってもらったほうが良い。

そりゃあ魔法も使いたくもなるわ!!

めんどくさすぎだわ!!


おそらく元の世界では聖別された水なり器なりが専門家によって常に常備されているのだろう。しかし、エルードにそんなものはない。

故に頑張って一から用意するしかないわけで。


正直、門上御影。

午前中いっぱいかかって出来たことは浄化した水を用意することだけであった。


 * * * 


「お疲れ、だ」

「……おい」


昼食はみんなで食べようという話になっていたので食堂に入るとジャイニーブさんにジト目でにらまれた。

てか、ジャイニーブさんの前に置かれた料理の量がスゴい。


薄目のクレープ的なものに挽き肉と野菜を混ぜて焼いたハンバーグ的なものがくるまれているのはまあいい。

おそらく200グラムは下らないだろうそれがごろんごろんと五つも転がっているのが問題であった。


対するイヨルさんの前には小さな水筒が一つ置いてあるだけだ。

本当に小さい。缶コーヒーサイズである。

まさかこれだけってこともないだろうが……。


「……お前、猫かぶってやがったな?」

「は?」


不機嫌オブ不機嫌なジャイニーブさんが言った。

最早リアルに噛みつかれるんじゃないかと思うレベルの目つきの悪さである。


「ジャイニーブは『思ったより優秀で驚いた』と言ってるんだ」

「は!?」

「旦那!?」


そこでぶっ込まれるイヨルさんの爆弾発言。

薄々わかっていたけどこの人結構いい性格してるよ!!


「ジャイニーブは基本ツンデレだからな。素直じゃないんだ」

「誰がツンデレだ! 誰が!!」

「はあ……」


そうかジャイニーブさんツンデレなのか。

ていうかツンデレって言葉あるんだなガラン世界。

……まあ、あるか。ツンデレは基本だからな。


「まあ……実際思ったりよくやってるな」

「ものの見事に猫かぶってくれたもんだぜ」

「そうすか?」


午前中かかって水が用意できただけ。

これでよくやっているとはいかに?


「そりゃ、魔法が当たり前の世界からしたら魔法が使えないってだけで人間以下だぜ? まともに仕事が出来ればびっくりってもんさ」

「相変わらずどこにでもいるな。リューイ」

「御影君の陣中見舞いだよ。はいこれ」


そういって突如として現れたリューイは俺にマグカップを渡す。

中には温かい白い液体が入っているがこれは……?


「ラモっていう畜獣の乳を温めたものだね。成分的にはホットミルクと考えてもらって良い。パンを浸して食べると食べやすくなると思うよ」

「おお、サンキュ!」


これは正直ありがたい。

支給された堅いパンはもそもそで食べにくいのだ。


「……まあ、魔法が使えないのが当たり前の世界とは聞いていたが」

「仕事にも就けず野垂れ死にかかっていたと聞けばまあ……優秀ではないのではないかとは思うだろうな」

「優秀ではないですよ?」


むしろ無能だろう。

有能だった記憶などかけらもない。


「豊葦原人は基本働き者だからね」

「休むのが下手なのを労働時間増やしてごまかしてるだけだけど?」

「教育水準も決して低くはないし、御影君は結構成績優秀だったんだぜ?」

「高等教育にすらたどり着けなかったけどな」

「逆にいや中等教育は受けてるのか……」


しかしあったかいものは嬉しいな。

冷めないようにマグが布でくるんであるのもありがたい。

リューイこういう細かいところ気を使うよな。


「……それなのに、野垂れ死ぬのか」

「俺、親とかいなかったんで」

「いや、豊葦原は結構セーフティーネットの発達した世界だからどうにかなったと思うけどね」

「いやだって」


ううん、冷めちゃうけどここは肉と果物を先に食ってしまおう。

デザートにパンとミルクだ。

好物は後にとっておくスタイルである。


「死んだ方が幸せじゃん」


「「「……」」」


ぴたりと沈黙が降りたので顔を上げる。

二人と一柱が俺を凝視していた。


「……ま、食事にするか」

「……そうだな」

「?」


微妙に変わった空気に首を傾げたものの――門上御影は干し肉をかじる。

なんてこともなく――いつも通りに。

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