強くないですか?と彼は思った
要するに。
ガラン世界というのは神と人の間がめちゃくちゃ近しい世界であるらしかった。
井戸端会議してたら狐の女神様が混じってたとか。
賭場に遊びに行ったら蝙蝠の男神様が大勝ちしてたとか。
そういうことがちょいちょいあるのだそうだ。
その最たる例が婚姻であり、ガラン世界にはそこそこの数の半神――曾祖父母までに純粋な神を祖先に持つ者――がいるらしい。
彼らは生まれながらに高い能力と長い寿命を持つエリート中のエリートで、一段上の存在として扱われるのだとか。
つまりは。
ラギルーシャ・デボリルラ・デボリルロ・ハギシルド。
蛇の男神を祖父に持ち狐の女神を母に持つ狐のラギルーシャ君。
エリート中のエリートとして甘やかされた彼。
ぶっちゃけ片づけ能力皆無だった。
「――いいわけさせてもらうとだな、ガラン世界ってのはそもそも物がねえんだよ。だからそこまできっちり片づける必要がねえ」
「とはいえ、同じガラン世界のお前がそれなりに整理整頓できるのにガラン世界から来る勇者来る勇者軒並み片づけられない病の持ち主とはどういうことだ?」
「…………………戦闘力がすべてだからなあ、ウチ」
あけて二月二日。
御影初仕事の舞台はラギルーシャ君の住まう屋敷だ。
もとはそれなりの貴族の邸宅かなんか立ったのだろうが今は――見事なゴミ屋敷だった。
なにが怖いってその辺の床に動物の骨や皮らしき物が散乱してることである。
ていうか、散らかってる物の半分以上が骨や皮という恐怖。
「……呪物はきっちり始末しろっていってんだろうが」
「特に使用中の物はないな……」
ジャイニーブさんため息である。
察するにこの骨やら皮やらはラギルーシャ君が魔法に使う物なのだろう。
そうじゃなかったら怖すぎる。
「ふむ、まあ、現状は把握した。いったん出るぞ」
「おい、さっさとついてこい」
「ういーっす」
そういうわけで。
いったん外にでる二人について行く御影であった。
* * *
「先に言っておく。絶対に動くな」
「冗談や誇張ではなく――死ぬぞ」
「え、えっと?」
外に出た第一声がそれである。
屋敷の全景が見える程度の距離で黙々と箱を組み立てて――一言。
御影完全フリーズである。
「ジャイニーブの空間魔法は防御力無視だからな……暴走すれば真っ二つだぞ」
「暴走させる気は微塵もねえが……」
「こちらもさせるきはないが……御影、ルレットの蘇生術きかないだろう? 間違いなく即死だ」
え、なんで部屋片づけるのにそんな物騒な魔法を使うので?
とは思ったものの、フリーズした口が動かない。
御影、滝汗である。
「まあ――やるか」
「一応、詠唱するぞ」
そう言って並んで立った二人はがしりと手をつなぐ。
そして――叫び声が響く。
「GGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「術式介入――対象変更!」
かしゃりと小さく音がしたかどうか。
ジャイニーブさんの雄叫びに比べれば余りに小さな物音。
それが全てだった。
「ふむ。普通に成功したな」
「いつもながら見事な手際だ。旦那。――あ、もう動いて良いぞ」
成功した?らしい。
フリーズから解放された御影は大きく息を吐く。
しかし、イヨルさんの口からなんかこう……すごい不穏な言葉が聞こえたのは気のせいだろうか?
「とりあえず、この箱に骨類はまとめておいたぞ。分類不能はこっちの箱だ」
「骨は流石にリューイに聞かねえとなあ……。あ、『皿』あったぞ」
ほいと投げ渡された『皿』。
あわててキャッチしたそれは木の葉のレリーフが浮き彫りにされた木の皿だった。
なんか、オシャレ系の雑貨屋で売ってそうな感じである。
「台所は空けてある。机と椅子運び込んでやれ、ジャイニーブ」
「了解、旦那」
スタスタと屋敷に戻るジャイニーブさんを俺はあわてて追いかけた。
* * *
「空間魔法ってのが俺の使う魔法だ」
俺の方を振り返ることなくジャイニーブさんは言った。
「文字通り空間そのものの切断とか転移とか……まあ、取り替えっこの汎用系みたいなもんだ」
「……さっきのはそれで屋敷の中の物を箱の中に移動させた、と?」
「ああ」
屋敷の中には最早家財道具以外なにもない。
あれほど散らかっていた骨や皮はもうどこにもない。
「……便利ですね」
「制御しきれればな。ガラン世界の空間魔法使いの死因第一位は魔法の暴走だ」
「……ああ、だから動くなと」
背筋を冷や汗が伝った。
どうやらマジでヤバかったらしい。
「まあ、さっきはイヨルの旦那の術式介入があったから多分大丈夫だろうが……」
「術式介入……対象変更でしたっけ?」
「ああ」
そう言いながらジャイニーブさんは手頃なテーブル――おそらく使用人用の作業台――とイスを担ぎ上げた。
軽々としたもんである。
「魔法が起動されてから発動するまでの間に術式そのものに介入して書き換える――デフォル世界の固有魔術だな」
「……………………それ、強くないですか?」
「強いよ」
あっさりとジャイニーブさんは言う。
それはそうだ――だって。
そんなことされたら――魔法が一切通じなくなるじゃないか?
「付与魔術の下位互換――なんて旦那は言ってるけどな。魔法による攻撃・防御・回復……全部無意味になるでたらめな魔法だぞ」
「……」
「さっきの転移は旦那に介入してもらって転移対象を種類ごとに分類してそれぞれの箱に収まるようにしてもらったんだ。俺にそんな器用なことは出来ないからな」
「……」
言葉が出てこない。
流石にただの千里眼使いではないだろうとは思っていたが……現実は俺の予想の斜め上をいく。
「ついたぞ。俺らは外で分別してるからお前はここで皿洗っとけ」
「了解です」
炊事場とおぼしき場所にイスとテーブルをおいてジャイニーブさんはそこで初めて俺の方を振り返った。
いやーー正確には俺の肩越しに何かを見ている。
「……は、なるほどね」
「はい?」
「ま、頑張れや」
答えないままに窓から飛び出したジャイニーブさん。
残ったのは俺とイスとテーブルと――そして皿。
ついに――ついに。
門上御影、皿洗い開始である。




