気を付けようと彼は思った
なんかなし崩し的に勇者様方との顔合わせが終わって。
とりあえず、家に戻ってきた御影を出迎えたのは疾走するにゃんこであった。
「みかげ~!!」
「りん~!!」
ひしっ。
門上御影、リンと感動の再会である。
ああ、リンってすごいなあ……。
猫じゃないのに猫耳猫しっぽなんだぜ? すごくないか?
「みかげなのだ!! みかげなのだ!!」
「ほいほい、みかげだぞ~」
リンのテンションがマックスである。
俺のほっぺたなめまくり。舌ざらざらなんで結構痛い。
「みかげいじめられなかったのだ?」
「ああ、なんかジャイニーブさんの義弟さん?に切りかかられた」
「おおかみ!! やはり、きさま……」
「うるせえ」
「みゃあ!」
ぱしこんである。
まあ、リンのクールダウンには良い刺激であろう。
「えーと、ナントカカントカ・ホニャララ君でしたっけ?」
「なんとかなのだ?」
「……殺すぞ?」
「潔いほど覚える気ゼロだね」
とはいうものの。
あの切迫した状況でなんかやたら長かった義弟さんの名前なぞ覚えている方がおかしい。
「ラギルーシャ・デボリルラ・デボリルロ・ハギシルド様だ。速攻で覚えろ」
「ららるーる・るらるらる・ららら……?」
「うるせえ黙れ」
「みゃう!」
「……様、ですか? 義弟さんなんですよね?」
どうしたって一度では覚えられないので小刻みに質問を繰り出して時間を稼ぐ戦術をとる。
一応結構な進学校にいた門上御影、この程度の小技は標準搭載である。
そしてがんばって覚えようとしてるリン可愛い。マジで癒される。
「正確にはお嫁さん――リイリスタ・デボリルラ・デボリルリさんの義弟なんだよね? リイリスタさんとラギルーシャ君自体血がつながっているわけではないと聞いてるけど?」
「デボリルリとデボリルロ・ハギシルド様が兄弟ってなりゃそうなるだろうよ。リスタがデボリルリになるにあたっての後見人みたいなものだ」
「デボリルラ……ってのが家名かなんかなんですか?」
などと聞きつつ。
御影の頭脳は超高速で回転中である。
リイリスタ・デボリルラ・デボリルリ。
ラギルーシャ・デボリルラ・デボリルロ・ハギシルド。
のはず。多分。
デボリルラが共通していて、ジャイニーブさんがリイリスタをリスタと呼んだ以上、リイリスタとラギルーシャが個人名なのだろう。
ならば兄弟と言うことだし共通するデボリルラは家名かなんか。
で、デボリルリとかデボリルロとかは称号か官位、だろうか。
「デボリルリになる」という表現があったしジャイニーブさんは「デボリルロ・ハギシルド様」と義弟さんのことを呼んでいたしな。
しかし、ややこしい格変化だ。
「惜しい! 正確には種族名だね。デボリルラは狐の種族を表すんだ。ちなみにアルデニガが狼の種族。ハギシルダが蛇の種族だね」
「微妙に発音が違うんだが……」
「豊蘆原とガランじゃ母音も子音も数が違うからね。正しい発音を求める方が無駄だね」
「チッ……」
デボリルラが狐。
アルデニガが狼。
ハギシルダが蛇。
三つとも最後がアの母音で終わっている。
この最後の音の母音の変化で上下の概念を表している、のか?
聞いた限りじゃ、デボリルリ<デボリルロみたいなかんじだからな。
「デボリルリとかアルデニギは称号だね。各種族に一人だけ最強と認められたものにのみ許される最上の称号だ」
「おおっ!?」
おおっ!?
いきなり推理の根底を覆されたぞ!?
デボリルリが最上の称号? というか最強と認められたものにのみって……なんでジャイニーブさんが勇者じゃないんだよそれ!?
「……お前考えに没頭すると周り見えなくなるタイプか?」
「はい?」
「俺は嫌いじゃないが……気をつけろよ。ここは一応戦場だぞ」
見れば。
ニヨニヨと実に意地悪そうな顔でイヨルさんが俺のことを見ていた。
おお?
観察されていた、のか?
イヨルさんはそのままニヨニヨ顔のまま口を開く。
「良かったな。ジャイニーブは自分の頭で考えない奴嫌いだからあそこで質問責めにしてたらお前殺されてたぞ」
「別に殺しゃしねえよ!?
「お前の力で小突いたら死ぬ」
「小突かねえよ!?」
…………うん。
なんというか、割と生命の危機だったらしい。
ジャイニーブさん狼の種族で最強の人らしいからな。気をつけよう。
「まあ、そういうことだね」
「どういうことだよ!?」
「明日、御影君の初仕事はラギルーシャ君のところだってことだよ」
「……………………この前掃除しなかったか?」
「彼、撃墜王だからね。もうやりたい放題ですよ」
「……………………」
無言で頭を抱えるジャイニーブさん。
しかし撃墜王なのかラギルーシャ君。
みた感じもろローティーンって感じだったけど。
「ということで各人気を引き締めてくれ。明日の仕事はガラン世界の勇者、デボリルロ・ハギシルド――「狐神の子にして蛇神の孫」の称号をもつ現エルードの撃墜王、ラギルーシャ・デボリルラ・デボリルロ・ハギシルド君の屋敷だ」
「別名、片づけようとすらしないお子さまだな。気をつけろよ? あそこのゴミ屋敷っぷりはかなりのものだ」
「……………………」
こうして。
無言で頭抱え続けるジャイニーブさんをおいて、御影の初仕事が決まったのだった。
……ジャイニーブさんの手元からギリギリギリギリ音がするのがめっちゃ怖かったです。




