番外:リンの特訓
「ふはははは! じゃしんのてさきなどひとひねりなのだ!!」
リンはえへんと胸をそらす。
リューイが「とりあえずあれ倒してみて」と言ったのに応えた形である。
邪神の眷属は見事に焼き払われた。
しかし。
「…………魔法神の眷属ってのはみんなこんな制御雑いのか?」
「いや、まだ生まれたてだから……」
そういうリューイの目が若干泳いでいる。
邪神の眷属――彼は木立の中に隠れていたのであるが――は見事に焼き払われた。
隠れていた木立は最早灰すら残っておらず。
ついでに地面が一部ガラス化している。
明らかなオーバーパワーだった。
初歩的な元素魔法。
それでこの威力とは確かに称賛に値するのであるが。あるが。
最早、制御の必要すら理解していないレベルの純真さである。
「いや、それにしても加護とかあるだろう?」
「あー、キーズさん汎用加護でどうこうってやらないんだよね。必要なら特別加護でどうこうするタイプ。――実験動物も兼ねてたからね。メリューは」
「なんなのだ? ちゃんとやきはらったのだぞ?」
リューイのひそめた声は聞こえてないのだろう、キョトンと不思議そうなリン。
何が悪いのかまるでわかってないことは確実である。
そう。
この火炎放射器にゃんこに誰かが魔法の制御を教えなければいけないこともまた確実なのである――!
「……………旦那、頼んだ」
「いや、俺はこれかすっただけで死ぬぞ?」
押し付けあう二人。
こうして、魔法神眷属メリュー皇太子リンの護衛生活は前途多難も前途多難な感じで始まった。
「なにがわるいのだー!!」
* * *
「ひどいのだ!! ひどいのだ!! われわるいことしてないのだ!!」
「はいはい、特訓特訓」
「頑張れ頑張れ」
リンのいろいろ焼き払っちゃった事件を受けての特訓開始である。
講師は異様な魔法制御能力を持つイヨルである。
デフォル人の魔法制御は異常である。
例えるならスカイツリーのてっぺんから地上に置かれた一円玉をスナイプできるレベルの制御能力――それがデフォル人の標準能力である。
しかし。
「よくわからないのだ……」
「そう言われてもな……」
レベルが高すぎてリンにはさっぱり通じてなかった。
イヨルもこれ以上どうしたらいいのかわからない。
呼吸の仕方を教えてと言われて吸って吐く以上の事が言える人間は稀であろう。
つまりはそういうことだ。
デフォル人にとっては魔法制御など代謝と同じだ。
習うものではないし――教えるものではないのである。
「……旦那勘弁してくれよ」
「しかし、俺ができない以上お前しかいないだろう?」
「おおかみ!! われはじゃあくなるおおかみなどには……」
「うるせえ黙れ」
「ふみゅう……」
リン、耳ペタンである。
主にキーズ神の趣味でオリジナルであるアメショーの本能がメリューには色濃く残っている。
よって狼の獣人たるジャイニーブをものすごく敵視しているのだが。
のだが。
最早選択の余地はない。
「しゃーねーなあ……」
「おおかみめ……」
凸凹師弟コンビここに結成であった。
* * *
「いいか? シュッとしてバッ、だ」
「しゅっとしてばっなのだ」
シュッ!! バッ!!
「で、なんかこう……チュインって感じだ」
「ちゅいんなのだ!!」
チュイン!!
「キュインって感じに絞って……」
「きゅいん!!」
キュイン!!
「じゅわっと放つ!!」
「じゅわっとなのだ!!」
ジュワッ!!
(案外呑み込みが良いじゃねえか……)
(おおかみのほうがわかりやすいのだ……)
「……なんであれでわかるんだろうね?」
「さっぱりわからない」
リューイとイヨルの困惑をよそに。
凸凹師弟コンビ、意外といい感じだった。
* * *
「ズバーン!!」
「ずばーん!!」
ズバーン!!
「ドカーン!!」
「どかーん!!」
ドカーン!!
凸凹師弟なかなか良い感じであった。
ただ一つ問題があるとすれば……
「ジャイニーブ君も結構雑っていうか大雑把だよね……」
「ざっくりだよなあ……」
別段ジャイニーブ当人もコントロールはそこまでよくないということだった。
いや、エルードに来た当初に比べれば格段に良くなったのだが……まあ、なんというか。
「狼の獣人としては異常なほど制御能力が高い方なんだが……」
「リンに比べれば格段に良いしとりあえずこのままかなあ……」
元々、ガラン世界の狼の獣人――アルデニガは魔法制御が弱い。
物魔両方の攻撃と防御に秀でるエリート戦士種族アルデニガの数少ない、そして最大の弱点である。
なにせちょいちょい暴発するので身体強化以外の魔法を基本使わないぐらいである。
その高い魔法攻撃力は何のためにあるのか。激しくツッコみたいことこの上ない。
特殊な育ちとイヨルのスパルタ指導によってかなり制御能力が改善したジャイニーブだが、勇者なんかと比べてしまうとどうしても一段二段下になってしまう。
無論現状リンとは比べ物にならないほどいいのだが、ポテンシャルとして将来的に限界があることは明白である。
ちなみにイヨルというかデフォル人は完全に別格である。ジャイニーブが駄目だからといって即イヨルに切り替えてもうまくいかないことは明白なわけで。
「まあ、その時に考えるしかないのかなあ……」
「そんなところだろうな……」
そんな二人の悩みはさておいて。
「ドーン!!」
「どーん!!」
「バーン!!」
「ばーん!!」
今日も凸凹師弟コンビの声がエルードの空に響いている。
……制御能力がどこまで上がるかは置いといて。




