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くうさん早着替えすぎっすと彼は思った

さてあけて翌日一月二十五日。晴天の水曜日である。

絶好の買い物日といえよう。


「――で、何でおまえがいるんだ?」

「ひどいなあ……。買い物するって言うから七時に来たのに」


エルードの主神リューイ。朝食時に乱入である。

ちなみに朝食のメニューはジャガイモのふかしたの。

なんだろうなあ……。ジャガイモに文句を言うわけではないがこの「米がない」という恐怖は何なんだろう。

ジャガイモで食いつなげない訳ではないんだが……やっぱり米がないと純粋に怖い。備蓄的な意味で。

日本人だなあ俺……。

あとジャガイモ飽きた。


「いや、この希望聴取シートを届けに来たんだけど……あと様子見? とりあえず契約するまで毎日見に来ようかなと」

「お前……暇なの?」

「神であるなら分体ぐらいいくらでも作れますからね。ここに来てるのはリューイ神の数多ある分体の一体ですよ」

「おおー……」


分霊ってやつか。そうか、こいつ神なんだったな……。


「で、その希望聴取シートを見せてもらっても?」

「はい。一応くうちゃんの分もあるからいくらでもチェックしてくれたまえ」

「ふむ……」


黙々と目を通すくう。

ヤタガラスにとって食事は食べられなくはないが必須ではないそうで今日は俺だけ食事中である。

ジャガイモの残量が心許ないのだ。


「ああ、休日いつにするか決めないといけませんね」

「一応、今イヨル君が月火で帰ってるんだけどガランもデフォルも休日固定じゃないんでそこはいくらでも融通が利くよ。土日でも木水でも御影君次第」

「……ああ、そうか一週間ってこっちの風習だからか」


そういうこととリューイは頷く。


「月単位ぐらいは共通してる……ていうかそれぐらいは共通してないとかなり世界として違ってくるんで共通してる世界を選んだんだけど、それをいくつに分割するかは多少揺れがあるからね。まあ、三日から十日ぐらいの周期で戻さないとならないし、なら豊蘆原にあわせて七日周期かなあと」

「戻さないとならないんだ」

「福利厚生の一種てのもあるし、武具防具のメンテってのもあるけど……何よりは異世界に長居するのはどうしても心身に影響あるからね。大気や魔力の構成がどうしても違うし。もちろん出来るだけ近い世界を選ぶんだけど」

「おおう……」


そういう問題もあるのか。

健康診断に行った限りじゃ別段異常は感じなかったけど、長期となればいろいろあるのかもしれない。


「賛否両論はあるんですけどね。召還する側の世界に召還元の世界の原子分子がどんどん入り込んでしまうわけですし。これはかなり人間よりの対応ですよ」

「借り物の兵力で戦争しようってんだからねえ……粗略には扱えないよ。うっかり死なれた日には何要求されるか分かったもんじゃない」

「……まさか誰も死んでないのか?」

「死んでないよ」


こともなげにリューイは言った。

それこそなんでもないといわないばかりに。


「借り物なんだぜ? 死なせるわけがないじゃないか」

「……まあ、この『開戦以来誰も死んでいない』という未曾有の事実によってこれだけ多くの世界から勇者を召還することが可能になっているわけですが。邪神はもちろん殺す気でやってきてるわけで……尋常なことではないですよ」

「……」


絶句である。

なんだ? なんなんだ? こいつそんなに優秀なのか?

それとも――邪神とつながってるのか?


「まあ、種をあかせばカルルット氏の医療能力……というか蘇生能力が規格外なだけだけどね。ルレットとの協力関係が築けたのは大きかったな」

「まあ、なんというか……確かに集まった勇者は規格外の存在ではあります。それこそ各世界のエース級です。あれほどの兵力があれば――『指揮官さえ有能なら』死者を出さないことも不可能ではないでしょう」

「……」


小役人、だと聞いていた。

が、考えてみれば事務次官だって役人は役人だ。

語民制度から見るにエルードはかなり階級に厳しい世界なんだろう。

そのなかで四語民から役人になっているというのは……もしかしたら大出世なんじゃないか?

それだけの実力がこの男にはあったと見るべきなのかもしれない。


「それはさておき、休日が決まったら契約書持ってくるときまでに伝えてくれればいいから。あ、有休は年五日ね」

「有休あんの!?」

「ありますとも。ちなみに君には関係ないけど忌引きは別枠だよ」


なんだ? 最近の異世界召還は福利厚生で勝負する時代なのか?

週休二日、寮あり食事付き光熱費持ちだけじゃ足りないと?

薬草取りで稼ぐ時代は終わったのか?


「いや、むしろここは育児休暇がとれないことを嘆くべきでは?」

「いやあ、それ認めちゃうと勇者によっては毎月子供が生まれたりするんで……」

「リア充め!」


いるのかハーレム勇者。死ねばいいのに。


「ふむ。いろいろ言いたいことはありますが、とりあえず目を通しておきますので。ご足労いただきなんなんですがそろそろ支度しないといけませんので」

「いや、こちらこそ失礼」

「俺、まだジャガイモ食い終わってないんだけど……」

「私が着替えてくるまでに食べ終えてください。では失礼いたしまして」


そういってくうは出て行ってしまった。

ていうか着替えるのか。いやまあ、巫女服少女と町中歩く趣味はない。

セーラー服とかかな。私服が一番だと思うけど……女性に服のこと言うと怖いからなあ。


「じゃあ、僕も……」

「あ、ちょっと待て。リンの様子は?」

「スパルタに鍛えまくられれてるよ。『ふみゅう~』とか泣いてるよ」

「おいおい。虐めてるんじゃないだろうな?」

「いやいや、生後七日の魔法神直属の眷属の魔力量と制御能力をなめてもらっちゃこまるよ。三歳児が火炎放射器背負ってるようなモンなんだぜ?」

「おおう……」

「そのままだと辺り一面火の海だからね。ここはスパルタに鍛えないと君の命が保証できない」

「おお……頑張れって伝えといてくれ。敬語の方がいいか?」

「いや、そのままでいいよ。向こうが三語神相当とはいえ君は主神代行の食客(内定)なんだし。変にへりくだる必要はないよ。っていうか変にへりくだられると僕が困る」

「そういうもんか」


いろいろ難しいなあ……こう言うの俺は苦手だ。


「お待たせしました」

「うおう!!」


くうさん早着替えすぎっす……と思ったけどまあヤタガラスだもんな。

あの姿自体仮のモンなんだろうし着替えくらいは速いか。


と。

ジャガイモの最後の一かけをを飲み込んで振り向いた御影は――固まった。


そこにいたのは巫女服少女ではなかった。セーラー服でも無かった。

無論ブレザーでもメイド服でもナース服でもなかった。


リクルートスーツの「妙齢の女性」がそこに立っていたのである――!!



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