おうちに持って帰りたいと彼は思った
まあ、決闘といえども殺し合うわけにはいかない。
リンは俺の肩に乗れたら勝ち。
俺はリンを捕まえられたら勝ち。
そういう変則鬼ごっことなった、
審判はリューイである。
リンは俺を傷つけない範囲で魔法を使ってよし。
俺はこの時点で持ってるものに限り道具を使ってよし。
そういう取り決めになった。
もうね。負けてももふもふ子猫が俺の肩に乗るとかこれなんてご褒美!?
この時点で俺に「負け」は無くなったといっても過言ではない。
「この線の中から出ちゃダメだからねー。家傷つけてもダメだからねー」
フィールドラインを引きつつ、ナンデコウナッタ感全開でどよんとリューイが言う。
どうやらモフラー力は魔法神とやらの方が上らしい。
「ははは! めにもにょ……めにものみせくれる!」
(噛んだ)
(噛んだな)
くそう。あざといぐらい可愛いな。
ていうか、神の眷属のくせに噛むんだな。まあ、可愛いからよし。
可愛いは正義なのさ!!
「では、両者位置について……スタート!!」
「てーい!」
「ふみゃああああああ!!!」
その瞬間。
俺の秘策が炸裂した。
* * *
「ひきょうなのだ!! ひきょうなのだ!!」
「でも、道具を使って良いってルールだったじゃん。持ってる道具も確認しただろ?」
「でも……ひきょうなのだあ!!」
半泣きのアメショーが猫パンチである。
なんてご褒美だろうか。
皆様、ハンカチでネズミって作ったことあるだろうか?
まあ、詳しい作り方は検索していただこう。
ようは、ハンカチを折り畳むとネズミっぽい形になるってこと。
つまり、俺はハンカチでネズミを作りそれを手持ちのイヤホンコードに接続。
それをいかにもネズミっぽく動かしながら場外にポイしたのである。
そしたら眷属となっても消えてなかった動物的本能によりリンがまっしぐらしちゃって場外負けである。
「身だしなみは大事です!!」とくうに持たされたハンカチがこんなところで役に立つとは……思ってもみなかったぜ。
まあ、くう思ってなかっただろうがな!!
「うう……ひきょうなのだあ……」
「はいはい。気が済んだね? じゃ、お母さんのところに戻るよー」
「かえりみちがわからないのだ……」
「「迷子かよ!?」」
しかしまあ、言われてみれば生後七日の子猫がふらふらしてんだ。
迷子じゃない方がおかしいかもしれない。
「しかたない……連絡取ってくるからちょっと待ってて」
「ほーい」
「ううう……」
リンがめっちゃへこんでいる。
耳がぺたんの上にもぺたんである。
「まあ、こういうのは経験の差っていうかさ。生後七日じゃしょうがないっていうかさ」
「いまは『きんきゅうじたい』なのだ……。われもがんばりたいのだ……」
「焦る気持ちも分かるけど、出来ること一個ずつやっていくしかないと思うよ?」
「みんなおおいそがしなのだ……。ちからになりたいのだ……」
リンは真面目だなあ……。
俺は生後七日って……どうだったんだろうなあ。
知ってる人に会ったこと無いからな……もしかしたらリンぐらい真面目だった可能性が微粒子レベルで存在しているのかもしれない。
あるいは。
生まれて七日目の生命というのはみなこれぐらい真面目なのかもしれなかった。
生きるということに――真っ直ぐなのかもしれなかった。
「連絡ついたよー……っていうか僕ですらほとんど会ったことのない女王自らお出ましになるそうだよ」
「ははうえ!!」
リンの毛が一気に逆立ってがたぶるしだした。
「まずいのだ……おこられるのだ……」
「いや、ここは怒られなきゃまずいっしょ」
「そうそう。大人しく怒られなさい」
「ひどいのだ……ははうえこわいのだ……」
まあ、迷子になった子供は怒られるのが世界の真理ですよって話だった。
* * *
リンの母上、メリューの女王陛下とやらは美人アメショーだった。
リンがもふもふかわいい系なら女王はすんなり美人系である。
そして、なんかいっぱい宝石がついていた。
重くないのかと心配になるほどの大粒の宝石が並んだ首輪にこっちは明らかに重いだろうと思える豪奢な宝冠。
四つの足には腕輪(足輪?)が煌めき、しっぽの先にも宝石が光っている。
普通のにゃんこだったら明らかに動物虐待レベルの過剰宝飾だが――彼らは魔法神直属の眷属メリュー。
おそらくあの宝石一つ一つが魔法的に意味のあるものなのだろう。
もしかしたら魔法神直々に賜った神具とかなのかもしれない。
「愚息がご迷惑をおかけしたようで」
凛然と背筋を伸ばしたまま女王がいった。
頭を下げる気はないようだ。
「まあ、大したことはないよ。今後こういうことはないように」
リューイも(物理的に)見下しながらいう。
敬語など使ってたまるかといわないばかりだ。
痩せてもこちら二語神で枯れても自分は主神代行だと――その視線をもって宣言する。
「――状況をお聞かせ願えますか」
ちらりと一瞬リンの方に目をやって女王は言った。
その一瞬の視線でリンはびくりと縮こまる。
「ざっくり言ってしまえば――この子は御影君の負けた上に名前を付けられた訳だね」
「……そうですか」
ちらりと一瞬俺の方に目をやって女王は言った。
……これは確かに。
リンは縮こまるよなあ。
冷たいのとは次元が違う。「王」という存在の持つ威圧感。
「これは貸し一でいいかな?」
「いえ、それには及びません。――御影さんと言いましたね?」
「門上御影です」
しかし、門上御影とて伊達や酔狂で二年もの間住所不定無職をしていた訳ではない。
にゃんこの視線ぐらいでぶるっちゃう精神はしてない。
「あなたに愚息を預けます。護衛ぐらいは出来るでしょう」
「ははうえ!?」
「黙りなさい」
母上、一喝。
あ、これは激おこだわ。
「メリューの皇太子とあろうものが魔法も使えぬ民草に負けるとは何事ですか? 魔法が使えぬからこその知恵や工夫を甘くみるものなどメリューの王には不適です。魔法の使えぬ皿洗いの下で魔法が使えぬものの視点を学んで来なさい」
「……はいです」
リン、めっちゃ小さくなってぷるぷる震えてる。
厳しすぎる気がしないでもないが……帝王教育って奴なのかね?
「彼の滞在期間は?」
「一年だね」
「ならば、一年みっちりとしごいてください」
「了解」
「……!」
リンがバイブでも入ってんのかってぐらいぶるぶるしてる。
しかも涙目。
うーん。さすがに……。
「おーよろしくな」
「ふぎゃ!」
なんかあまりにもかわいそうだったので抱き上げて頭撫でた。
おお! すげえちっちゃくって軽い! 激軽い!
可愛いなあ……おうちに持って帰りたい。
さすがに豊蘆原に持っては帰れないだろうなあ……。
そしてやっぱり舌がざらざらだぜ。さっきから舐められてる手が痛い。
「あうう~……。みかげ~……」
「よしよし」
なでなで。よしよし。
「……仲がよろしいようで」
「意外と猫たらしだったね……」
そんなこんなで。
門上御影。生後七日のアメショーゲットである




