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そんなものはモフラーではないと彼は思った


「で、健康診断もパッチテストも採血も終わったのになんで俺は帰れないんだ?」

「いやあ、君こっちで昼食食べたじゃない? それがどんな感じで消化されるか見たいから排泄されるまでこっちにいて」

「……おおう。検便かよ」

「ま、そういうことだね」


門上御影、気分はすっかりモルモットである。


「とりあえず、家にでも行こうか。ジャイニーブ君たちは今仕事だろうから留守だと思うけど」

「む、それは大事だ」


というわけで。

門上御影、突然のお宅訪問である。


 * * * 


ジャイニーブさんたちが住むという家は木造二階建てのログハウス風の建物だった。

二人で暮らすには大きめで三人でも余裕そうだ。


「結構いい物件じゃん」

「まあねえ……勇者じゃない子たちの中じゃエース級の二人だからね」

「ちなみに俺は?」

「……圏外?」


さいですか。

それはさておき。


「二人のプライベートルームはのぞいちゃダメだけど……他は勝手に見て良いよ」

「ほーい」


ならばチェックすべきは水回りだ。

水の豊富な豊芦原とは別種だと見るべきだからな。


「……ってシャワールーム狭っ!!」


床面積1メートル×1メートルほど。

ていうか野外である。床土である。目隠し用のカーテンはあるが。

頭上にパイプが一本通ってシャワーヘッドがくっついてる。

なんとなく海の家っぽい。


「これぐらいが限界なのだよ。これでもイヨル君に重たいバケツを運ばせるのは忍びないとシャワーになったぐらいで」

「これ、お湯出んの?」

「冷水を浴びせかけたらイヨル君死んじゃうんじゃないかってことでぬるめのお湯が出ます」

「なんというイヨルファースト……!」


あの人そんなに強いのか。

なんか速攻でレジストしちゃった記憶しかないんだが……。

千里眼使い、なんだったか。

有用な能力であることは間違いない、だろう。

けど、それだけじゃないんだろうなあ……。

もう一つ二つ切り札を隠し持ってそうだぜ。


「……ん?」

「どうかしたかい?」

「なんか、動いた、ような?」


視界の隅を何かが横切っていったような……?


「そりゃ、エルードにだって小動物くらいいるよ? レンティとかモルシェとかゲッパとか……」

「……一つだけ聞こう。そいつ等は――もふもふか?」

「いや、別に?」

「ならいいや」

「……君はもう本当にもふもふ以外興味ないんだね」


何を当たり前のことを。

もふもふ以外この世に意味のあるものなど無かろう……と思ったが。

世界が違えばもっと価値あるものがあるのかもしれない!?

もふもふのアッパーバージョン……もふぁもふぁとかか!?

やべえ、さっきの追いかけようかな……。


「……言っとくけど君に野生動物を捕獲するスキルは多分ないよ?」

「そうだった!!」


野良犬に勝てても野良猫を捕まえられたことはない門上御影である。

野生の小動物など捕まえられようはずがなかった。


「俺のもふぁもふぁが……」

「がっくりうなだれてるとこ悪いんだけどそれは何のことかな!?」

「そうだぞ!! へんなこと言うんじゃねえ!!」

「「…………………!?」」


耳慣れぬハイトーンボイスに振り返ると――ちょこんと。

小さなアメリカンショートヘアーが地面に座していた。


その毛は実に――もふもふだったという。


 * * * 


魔法神――キーズ・ディ・リンガ。

生前の名をキーズ・ドゥ・エスシーバ。


知恵の女神リンガとの魔法勝負に勝利して魔法の権能を与えられた元二語民。

エスシーバ領領主にして没後600年以上たった今なお史上最高と名高い魔法使いだった男。

リューイ・ディ・エンクが契約神となるまで人から神に成り上がった唯一無二だった男。


そしてエルード全ての勇士が信仰してたといっても過言ではないその神が、手ずから創造したという眷属がいる。

その名はメリュー。

種族名をメリュー・ディ・キーズ・ディ・リンガ。


三語神と同等の神格をもつ眷属としては最高位に位置するその存在の見た目は一言で言うなら――アメリカンショートヘアーである。


「……つまり、このもふもふがそのメリューだと」

「うん」

「ははは! ひれふすがいい!!」


なんかえへんと胸張ってるのがえらい可愛いなこのアメショー。


「われこそは、メリューのこうたいしなるぞ!」

「あーはいはい。プリンスプリンス」

「じゃ、リンでいいか。リンはどうしてここに?」

「へんななをつけるなあああ!!」


といっても。

ちまっとした子猫の姿ではいくら怒っても可愛さしか感じない。


「いや、実際強いんだよ。ぶっちゃけ今魔法に関することは全部彼らがやってるからね。世界間転移とかも実際にやってるのは全部彼らだし」

「……それがなんでこんなところに?」

「みゃう!?」


二対のじと目ににらまれてリンは渋々語り出した。


「『せんりょくがいつうこく』をいいわたされていまったのだ……」

「それはちっこいから?」

「われはなのかまえにうまれたのだ……」

「そりゃ仕方ないよ。メリューがいくら成長が速いったって戦力になるには一年はかかるよ」

「くつじょくなのだ……」


しょぼんである。

耳ぺたんである。

激カワである。

ついでにもふもふである。


「しかし、この世界にもアメショーがいたとはなあ……」

「ああ、キーズ様……キーズさんに僕が『こんな生き物がいましたよ』って言ったら『なんだこの可愛いのは!! これを俺の眷属にする!!』って聞かなくて……」

「なんか友達になれそうだな……」


魔法神、モフラー説浮上。

しかし、神々ってのは結構人間味が……いや、元は人間だからか?

生粋の神様……創世神とかは違うのかもしれない。


「で、われよりよわい『さらあらい』がきてるというのでみにきたのだ」

「ああ、御影君に会いに来たんだ?」

「『さらあらい』はみかげというのか? ならば――けっとうだ!!」

「「は?」」


リンはえへんと胸を張る。


「おまえをたおせば、かあさまもみとめてくれるにちがいないのだ!」

「それは絶対ないから!!」

「……ふむ」


七日前に生まれたとはいえ、魔法神直属の眷属。

俺よりは強いのだろう。

魔法防御力が高いとはいえ服に着火とかすれば火だるまである。


しかし。

しかしだ。


もふもふの挑戦を断るモフラーがいるだろうか?

いや、いない。

そんなものはモフラーではない。


ならば。

ならば。


答えは決まっているのだ。


「いいだろう。その決闘受けよう」

「……マジか」


リューイががっくりとうなだれるのを目の端でとらえて――門上御影は断言した。

その横顔は実に凛々しかったと後にリューイは語ったという。

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