地味にブラックじゃねえかと彼は思った
ガレディーテ氏は別の建物の炊事場にいた。
ていうか食事中だった。
先ほど御影が食べたまずい食事セットを食べてる最中だった。
「……おや、新入りですかい?」
ごくりとパンを飲み込んでガレディーテ氏は言った。
茶髪茶目の特徴のない男である。おそらく御影とそう年は変わらない。
良いとこ二十代半ばだろう。
使い込まれた大振りのナイフを一本腰から下げているのが特徴と言えば特徴か。
「初めまして。ミスタ・ガレディーテ。俺は門上御影。魔法の使えない皿洗いです」
「ミスタ・ガレディーテ……あー、なんというか」
「?」
なんかガレディーテ氏が困っている。
はて? なんか俺やらかしたか?
「ガレディーテってのはデトフォートの言葉で『盗賊』とか『泥棒』にあたる言葉だよ。彼には名前がないんだ」
「赤ん坊の頃にスラムに捨てられまして。それ以来ガレディーテとかディーとか呼ばれてたんでさあ」
「まあ、それだけ卓越した盗賊だったんだよ。ザ・シーフって感じ?」
「お恥ずかしい。あっしなんぞただのこそ泥でさあ。ガレディーテなんざ過ぎた言葉でさあ」
照れくさそうに頭をかくガレディーテ氏。
しかし、なんだろうな……。
カルルット氏も決して弱くはないんだろうが……ガレディーテ氏はなんか違うな。
カルルット氏は「学者」で後方要員だったけどガレディーテ氏の佇まいは根本的に違う。
この人は戦う人だ――戦える人だ。
「まあ、なんでディーとでも呼んでいただければ十分なんで」
「分かりましたディーさん。……で、よろしいでしょうか?」
「さん付けなんてありがたい限りで。あっしにはもったいないでさあ」
「さすがに勇者様なんで、そこはすいません」
ぺこぺこと頭を下げあう二人。
……はて? 俺はなぜここに来たんだったか?
「挨拶はその辺にして早速始めようか」
見れば。
1立方メートルほどの箱を二つ手にしてリューイが立っていた。
* * *
取り替えっこ。
それがディーさんの固有魔法であるらしい。
デトフォートでもディーさんしか使えない究極絶無の移動系最強魔法、なのだとか。
「で、それと俺が箱詰めされてることとの間にどんな関係が?」
「すいやせん。あっしの魔法は器に入ってるものにしかきかねえんで」
「逆に言えば器に入っていればOKというところが強みなんだけどね」
リューイ曰く。
ディーさんの取り替えっこの効果は実にシンプル。
すなわち「器Aの中身と器Bの中身を交換する」。
「というわけで、それが君に通じるかどうか試してみようと言うわけだ」
「……いや、俺の魔法防御力はバカ高いんじゃなかったっけ?」
「いやあ? 確かに君の魔法防御は高いけどね?」
リューイはちらりとディーさんを見た。
「ディー君の取り替えっこも捨てたもんじゃないよ?」
……無言のディーさんの口元に不敵とさえ見える笑みが浮かんだように見えたのは見間違いだったのだろうか?
ともかく、俺は箱詰めされることとなったのだった。
* * *
「マジで飛んだしぃ!!!」
マジで飛びました。
箱の蓋は開けっ放しなので一瞬で景色が入れ替わるのがはっきりと見えた。
「おーさすがデトフォートのガレディーテ。デフォル人の情操術にすらレジストした相手がイチコロだよ……」
「お恥ずかしい。これだけが取り柄のケチな小悪党でさあ」
「まあ、確かにディー君が出来るのって簡単な体術と元素魔法だけだもんね。いや、それでも十分強いんだけどさ」
「器Aの中身と器Bの中身を交換する」。
ただ、それだけのあまりに単純な効果。
ほぼそれしか使えないディーさんがが勇者として選ばれるまでに至った理由はまたシンプル。
「交換難易度は器Aと器Bの相似性のみに比例する」。
器Aと器Bが正しく相似であるならば。
重さも距離もその間にある全ての障害も――全て無視出来るその特性が故。
例え神の張った封印だろうと。
例え邪神の張った結界だろうと。
全て全て無視出来るその移動系能力としては破格の特性。
その力は正しく勇者の名にふさわしい。
「で、まあなんというか。これが『皿』が家に放置されるようになった原因な訳だ」
「……………そういやそういう話だったような」
「忘れてたのかい!? ……まあ、つまりはディー君がきてから戦線がとんでもなく拡大したんだよ」
ディーさんの能力があれば一小隊を百キロ千キロ単位で動かすことが可能になる。
無論、ディーさんの能力は器となるものを絶対的に必要とするので自由自在というわけには行かないが、あらかじめ器さえ渡しておけば要塞Aの人員と要塞Bの人員を瞬時に入れ替える事が可能である。
これにより本部への帰還、拠点間の移動が大幅にスピードアップ。
午前南部線戦で戦った人間が本部で昼食をとって午後からは北部戦線へ……みたいなことが可能となったのである。
「逆に言えば本部で人員をだぶつかせてる理由もなくなってね。もうぶっちゃけ本部へは汚れ物預けて水浴びしにだけ帰ってあとは戦線を転々としてる感じなんだよ」
「結果として汚れモンだけがたまるようになっちまいましてねえ……」
「そうなってくると大切な『皿』を危険な前線に持ってくよりは本部に置いといて食事の度に自分が本部に帰ったほうが安全じゃない?」
「で、そうして出来たゴミの山の中に『皿』が埋もれたと……」
ううん。なるほど。
そういうことならあり得なくもない、か……?
いくら移動が一瞬といえども緊急出動なんていくらでもあるだろう。
片づけられない時だって何回もあったに違いない。
使用人が何人いようと「皿」だけは不用意に触れさせる訳にはいかないだろうし。
で、とっちらかっちゃったと。
ううん……技術革新の業だな。
そういうことなら仕方ない、かもしれない。
「そういうわけで、君に求められるのはスピードなわけだ。勇者が食事に戻ってくるまでに皿を洗う必要がある」
「重要な情報を後出しにするの止めない!?」
地味にブラックじゃねえかこの召還!!
御影の叫びが赤い空に溶けた。




