えらいチャラいと彼は思った
炎が舞う。
それはただの炎にあらず。
最高位の元素魔術師が放つ燃焼現象そのもの。
触れたる一切合切を灰燼すら残さず燃やし尽くす――浄滅の炎である。
「で、何であいつはそれを味方を巻き込む形で放つんじゃろうなあ……」
「あのハイエルフ至上主義者にそれを言うか?」
まあ、そんなのみんな慣れっこであった。
なにせ奴はエルードにきた当初邪神ごとエルードそのものを焼却しようとしようとした男である。
仲間意識など持ってはいまい。
『問題ない。対策済みだ』
「ギデル殿……かたじけない」
『問題ない。我々はこれしかできないので』
「ご謙遜を」
その尻拭いをしているのが――彼らデフォル人である。
あまりの有用性から一世界一勇者の原則を破り六人もの勇者が召還されたその実力と人格は誰もが認めるところである。
『――右方向から魔法攻撃を確認。念のため逃げてくれ』
「……敵か?」
『いや、味方――ウィン殿だ』
「「……了解」」
……おそらく、エルードに来た当初誰もが思っただろう。
『すごい顔ぶれだ!! これなら邪神など一捻りだ!!』
……が、結果はこれである。
背景も信仰も文化も魔法も何もかもが違う。
その中で連携しつづける事の難しさよ。
けして短くはない時間、肩を並べて戦ってなお――この始末である。
この手が今までろくに用いられてこなかった理由がここにある。
『右と左に邪竜の一団を発見。――サポートは必要か?』
「「フレンドリーファイアだけ頼んだ」」
だからこそ。
これほどの長きに渡り戦線を維持してきた自負がある。
邪竜ごとき――何するものぞ。
「わしは右に行こう」
「じゃ、俺は左」
盾を持つ人影が右を向いた。
鱗に包まれた影が左へ弾ぜた。
さあ――反撃の時間である!!
* * *
「君にはここで健康診断を受けてもらうよ」
「シェルターじゃん!」
ついに異世界エルードの地に降り立った御影を待っていたのはなんか戦地っぽい世界だった。
強いて言うなら現代シリア的世界であろう。中世ヨーロッパではなかった。
もっとも、中世ヨーロッパだろうと戦地はこんなもんかもしれなかった。
撤去してきたのだろう瓦礫の山。
血と炎の臭いは隠しようが無く――なにより。
その空は炎を写して真っ赤に染まっていた。
それはともかく。
連れてこられた医療施設。
どう見てもシェルターだった。
なんか銀色の不思議素材で出来てる。
金属のようだが金属じゃない。その証拠に――
「ぎゃああああああああ!!!」
なんかうにょんと変形した腕で俺の事を引きずり込もうとして来やがった!!
畜生これが銀の腕って奴か!! アガートラームってやつなのかああ!!
いや、名前以外の詳細は全く知らないのだけれども!!
……まあ、それはさておき。
門上御影、健康診断スタートである。
* * *
「……ひどい目にあった」
「健康診断お疲れちゃーん。ほい、おしぼりじゃん?」
「ああ、どうも」
このチャラい水色グラサン+ニットキャップがここの責任者にして最高位ヒーラーのカルルット・デルルット氏である、らしい。
どう見ても御影と同年代のDJ崩れにしか見えないが……こう見えても故郷である融合世界ルレットでは象牙の塔のお偉いさんであるのだとか。
なんか色々と信じられない。
どう見ても象牙の塔って柄ではない。それぐらいチャラい。
「いや、確かにカルルット氏はフィールドワークを好む異端の学者ではあるけど腕は確かだよ。ルレット最高峰といっても良いぐらいだ」
「……急に背後に出現しないでくれ。リューイ」
「やっべ、マジウケるしー」
からからと笑いながらエルルット氏は手元のタブレット?を高速で操作する。
……うん、そこだけ見れば有能に見えなくもない。
「つーか、俺っち別に医療は専門じゃないしー」
「マジすか!!」
「マジマジ。俺っちの専門は統合領域エネルギー変換工学エネルギー物質化分野流動変換なんでー」
「おお、学者っぽい……」
「やっべ、マジウケるしー」
あ、もしかして照れたときに「ウケる」って言うのかな?
というか、相手はルレット語みたいのを話しててそれをエルードの魔法で日本語に翻訳してる……と聞いたので、もしかしたらルレットでは誉められたときに「とんだ笑い話だ」みたいなことをいう文化があるのかもしれない。
少なくとも、一人称が「俺っち」になってるのは俺の印象が左右していると見ていいだろうからカルルット氏がチャラく話してるのはもしかしたら俺の先入観によるものもあるのかも。
まあ、だからなんだって話だけどね!
「専門じゃなくてもこれだけ出来ればもう天才といっても良いと思うけどね。流石僕が召還した中では最も医療の発展した世界、ルレットの勇者なだけな事はある」
「やっべ、マジウケるしー。つーか、俺っちバトルとかマジ無理だしー」
「ははは、謙遜してくれるねえ。まあ、それはさておきそろそろ結果を聞こうかな? もうでただろう?」
「ラジャりましてー」
ぐにゃりと壁面が白色に変わり、そこになにかグラフのようなものが映し出された。
「まー、魔法防御、抗魔力、レジスト能力……その辺が振り切れてるほかは特に目立ったことはない感じー? あと若干栄養状態が悪目ー?」
「治癒系の魔術は使えるかな?」
「無理っしょ。アクティブなモンじゃないしー。基本パッシブである以上俺っちの構成魔術でも無理じゃん? 薬も多分神秘の介在しないモンしか使えなさげ?」
「んー、薬の方は用意できる?」
そこで、初めて。
ケラケラと、ニヤニヤと笑っていたカルルット氏の表情が変わる。
わずかに――しかし確かに。
不快そうに眉がしかめられたのだ。
なるほどそれは確かに――自らの頭脳に自信を持つ「学者」の表情だった。
「………………デフォル人の協力があればなんとかって感じー?」
「ああ、ならあとでイヨル君に言っとこう。あとはパッチテストとご飯か……一緒に食う?」
明らかにトーンの落ちた声音を無視してリューイはあっけらかんと言った。
それもまた――人の事情に頓着しない「神らしさ」であった。
エルルット氏は軽く肩をすくめて一つため息をついた。
「ご一緒するじゃん」
「じゃ、そういうことで」




