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生臭えと彼は思った


何はともあれ豚汁を作ることになった。

理由は簡単で判別球真っ黒事件でお昼一緒に食う話がすっかり忘れ去られたからである。

何は無くとも腹は減るのだ。


「こちらとしても御影さんの料理スキルは一応見ておきたいですからね。一人暮らしさせて大丈夫な人間かどうか把握しないと」

「正直料理はそんなに得意じゃないんだよなあ……」


材料はくうが買ってきてくれた豚挽き肉、人参、ジャガイモ、大根である。

調味料の類と冷蔵庫は個室外のキッチンスペースに用意されていた。

つーか、ガス通ってたんだなあ……。


「確か……だしを取るんだったはず……って顆粒だしかよ。塩分が多いからなあこれ。味噌はひかえめでもいいのかもなあ」


鍋に水を入れて火にかけて顆粒だしをぱっぱ、と。

これで多分だしは良いはず。


「しかし豚挽き肉かあ……早めに入れてコイツからもだしをとったほうがいいのかな……煮立ってから入れるとアクがでるしな」

「意外に手慣れてますね」


その間にトントントンと野菜を刻む。

大根と人参のへたの部分は取っておく。水を張った皿に切り口を付けておくと葉の部分が伸びるのだ。

調味料があるならそれと調味料で野菜のふりかけが作れる。

食べ物のに困ったときに食べる用の保存食にする。


「ジャガイモはメークインだから繊維に対して平行に切る。ジャガイモの溶けるのって好きじゃないし、薄切りにして最後の方に入れてシャキシャキ感を残す」

「こだわりますね」


挽き肉は等分にして使わない分は冷凍庫に。

根菜は野菜室……がないので切り口を包んで冷蔵庫に。芋類は冷凍しない方がいいので冷暗所に。


「で、まあこんなもんかな、と」

「では、実食と参りましょう」


くうが買ってきたコンビニおにぎりを添えて完成である。

さて、そのお味はいかに……?


「…………意外なほど手慣れてますし、食えなくはないですが全体的に貧乏くさいですね」

「ほっとけ!!」


だって住所不定無職だったし!!

施設にいたときだって経営が苦しくて火の車だったんだぞ!?


「戦時中じゃないんですからもうちょっと肉入れましょうよ。せっかく大きめパック買ってきたのにほとんど冷凍しちゃってるじゃないですか」

「そんなもったいない!!」

「大根と人参ももうちょっと入れましょうよ。正直これ豚汁って言うよりジャガイモ汁ですよ。戦時中じゃないんですから」

「そんなもったいない!!」

「まさかプランター買ってきてジャガイモ栽培しようとか考えてないですよね?」

「ダメなのかよ!!」


ダメなのかよ!!

ジャガイモあったら埋めるのは常識じゃないのかよ!!


「……御影さん、ここは東京ですよ? 地方と違ってむき出しの土の地面とか園芸用スペースとかは超高級品です。栽培用にわざわざ土とかプランターとか用意するぐらいなら芋買った方が安いです」

「マジか!?」

「正直、ジャガイモ買ったら埋めるとか地方の常識ですよね。いや、地方でも常識じゃないのかもしれませんが」


おっそろしいな東京!!

おっそろしいなあ東京!!


「まあ、そんな馬鹿話は置いておきまして――Wi-Fiがただでつくことになりました」

「Wi-Fi?」

「電動自転車で無理に通勤するより時代は在宅勤務だろうと天照大神様がおっしゃいまして」

「意外と庶民派だな天照様……」


とても豊蘆原の主神にして日本の総氏神には見えない気安さである。


「電波って太陽の影響受けるじゃないですか。だから自分の権能だって今建御雷(タケミカヅチ)さまと争ってるんですよ。その関係でそれなりの知識はある感じですかね」

「流石にそれは建御雷さまじゃないかなあ……」

「そういう意見もあるんですけどね……『元祖引きこもりとして絶対に負けるわけにはいかない!!』ってなんか燃えてるんですよ」

「おおう……」


神様方親しみやすいな!!

驚きの親しみやすさだぜ。リューイもビックリじゃないか?


「7、80年ぐらい前まですごい偉ぶってたじゃないですか。高天原の神々って。我々こそが至高であり絶対だーぐらいに。で、その結果がああだった感じなわけで。……責任は感じてるんですよ」

「ふーん……」

「御影さんが選ばれたのもそういう話な訳な分けですが」

「ふふぁ!?」


とんでもない角度からパンチが飛んできたぞおい!!

この政治に関わりたくないこと投票にも行かない如しの門上御影になんかそんな政治っぽい話が絡んでくるだと!?

なにが起こったんだおい!! マジで何が起こったんだおい!!


「いや、大した事じゃないのですけど……最初に言ったじゃないですか『復讐を望むか』と。あれで『はい』と答えていればそのままほっとくことになっていたので」

「いや、フツー断るだろ?」

「御影さん以外の106人は全部『はい』でしたけどね」

「……」


言葉の出てこない御影にくうは静かに告げる。


「我々の求めていたのは『神に選ばれたこと』を悪用しない人材です。それを足がかりに成り上がろうとしない。今ある世界を壊そうとしない。自分を虐げた世界に復讐しようとしない。神に選ばれたからってーー自分を特別とは思わない。そういう人材です」

「……そんな大したもんじゃねえけどね」

「そうですね。合格点ぎりぎりってとこです。探せばいくらでもいるでしょう。あなたが選ばれたのは――たまたまです」

「……」


思い上がってもらっちゃこまると――言われたような気がした。


「……つまりあれか。宝くじに当たったようなものだと」

「むしろ、裁判員に選ばれたようなものですね。理想をいうなら誰でも良いけど、現実問題としては思想的にニュートラルな方が良い訳です」

「別にニュートラルではないけどね」

「自虐的な分にはかまわないだろうと言う判断です」

「……さいですか」


そりゃ、自虐的でない住所不定無職ってそれはそれでろくな奴じゃなさそうな気がするしな。

人間、自虐れる時は自虐った方が良いと思うんだ。


「で、話は戻りましてWi-Fiですけど……ご希望があればほかの通信手段に変更してもかまいません。ブロードバンドとか光回線とかですね。ただ基本的には回線引くなら別料金で、デバイスレベルでどうにかなるならこっちで負担する方向で調整中ですね」

「……細けえなあ」


まあ、妥当だとは思うが。

在宅勤務ならネット環境は仕事道具みたいなもんだしな……。

ただ、あるのかねえ……仕事。

仕事がないからみんな困ってるんだと思うんだけどね。


「ちなみに御影さんどこに住みたいとか希望あります?」

「んー……雪国は避けたいかなとは思っている」

「天照様イチオシは三重県伊勢市です」

「地元に利益誘導する政治家かよ!?」


細かいとか気安い通り越して最早生臭いよ!?

てか伊勢市とか別に過疎ってる訳でもねえだろうよ!?

三重とか近畿経済圏とも名古屋経済圏とも近いベストポジションだろうよ!!


「……もう、この話になると八百万の神々が総出で自分の地元に誘致しようとするんで、天照様が天照権限でごり押ししてきまして……」

「……生臭え」

「伊勢市にきてくれるなら就職できるまで採用担当者の夢枕に立ち続けても良いとのことです」

「必死すぎる!!」


いや、確かに地方って若者少ないけどさ!?

主神自らそこまで必死にならないでくれよ!?


と、そこで。

無機質なバイブ音が響く。


「失礼。高天原からメールです」

「……高天原でもメール使えるんだ」

「4G回線に対応してないんですけどね……」


……えっらい半端だなあおい。

もうちょい頑張れよ。Wi-Fiあれば大丈夫ってか?

なんかWi-Fi押しだと思ったらそういう話なのか?


「御影さん」

「ん?」

「明日、エルードで健康診断に決まりました」

「ふぁい!?」

「マジです。御影さん明日の結果次第で異世界就職ついに確定です」


そういうわけで。

門上御影、明日ついに異世界デビューである。


……ちなみによい子のみんなは豚汁にジャガイモ入れすぎちゃダメだぞ!!

門上御影との約束だ!!


別に不味くはないんだけどね……

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