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幼馴染たちの学生戦争  作者: 旭ビール
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小話・再会

元ネタ:学生戦争ったー

(URL: http://shindanmaker.com/293610 )


 舞台は仮想日本。

 他国に服従し国を繁栄させることを望んだ白軍、他国に服従することをよしとせずあくまで日本の誇りを優先する黒軍。さらに、新興組織である赤軍。

 三つ巴の戦いは、泥沼へと転がり落ちていた。


「ありがとう」

 中平晶子は車掌に礼を言い、駅を出た。他人(ひと)の視線が付きまとう。特にこの東京……黒軍の本拠地ではそうだろう。晶子も覚悟していたことだ。

 歩く度に金髪が揺れ、前髪の隙間から赤い眼が覗く。

 待ち合わせの場所に着き、相手がまだ来ていないので鞄を下ろす。

 さりげなく、白く輝くブレザーの皺を直す。

「晶子」

 呼ばれ、そちらを向くと、先に帰省していた幼なじみが手を振っていた。もうブレザーを脱ぎ、私服を着ている。艶やかな黒髪が邪魔なのか赤目を細め、しかし温厚な笑みは崩さない。

 しかし、ピアスを大量につける彼は完全に只人とは一線を凌駕していた。


「彰」

「一週間振り。元気にしてた?」

「まぁまぁ。彰は?」

「俺?まあ……変わらずかな」


 苦笑した彼は、自分の部署を明かさない。それで察せ、ということなのだろう。実際そこまで味方にも秘匿する部署なら、ある程度は絞られてくる。

 タクシーを借り、乗り込む。自宅の住所を告げた。


「それにしても……彰あんた、よく三年も続けてきたわね……」

「ああ……視線?

 余所者が〜って容赦ないからねぇ」


 彰は今年で三年生だ。一年目の晶子とは違い、三度もこの不躾な視線を身に受けている。

 まあ、そんなもんだよ〜と苦笑した彰。

 晶子はガラスの外を眺めた。

 昔に思いを馳せる。



 晶子には、一つ上の兄がいる。血は、繋がっていない。それなりの名家だった中平家が絶えないようにとられた養子だ。しかし直後に母が晶子を身ごもったため、彼は宙ぶらりんの立場になってしまった。

 唯一の幸いは、両親が二人に差別をつけなかったこと。兄も晶子に対して実の兄妹のように接していた。

 だからこそ、晶子と兄との軍の差が目立つのだ。

 晶子が白軍にいること。

 兄、亮が黒軍にいること。

 父は二人とも黒軍に入れたかったと言っていたが、中平家から一人、それもできるだけ血の濃い者を白に入学させよとの話が白軍の本部とあったそうだ。晶子が選ばれたのは必然なのだろう。



 晶子はため息をついた。

 気づいた彰がそういえば、と話を始める。


「例の……話は聞けたかい?」

「ええ。色々と面白い話が聞けたわ」

「後で頼むよ。もし俺の予想通りなら……亮達にも聞かせたい。悟も面白い話を拾ってきてるし」


 悟、は幼なじみの一人だ。黒軍の三年になる。黒軍の追いかけなら知らない人間はいないだろう。

 一騎当千、と呼ばれている。

 懐かしい名前に口元が緩む。それに気付いた彰も笑顔になった。


「相変わらずだよ。

 軍の関係で会ったけど、変わらず首にストール巻いたまんま」

「変わんないの、あいつ。

 てか、何であいつ、二年間丸々帰ってこなかったのに、今更」

「黒軍の機密事項、だってさ」


 けらけらと笑う彰。白軍としては知らなければならないかもしれないが……晶子は揉めてまで知ろうとも思わないし、そもそも悟が漏らすとは思えない。

 話は他の友人達にも及ぶ。

 黒軍とはもちろん会わないし、白軍は部署ごとに活動している。全く会わない部署もある。……特に彰には全く会わない。

 さらには、雲の上のような部署もあるわけで。


「良子はどうよ?」

「あれ、小宮に会わないの?切り込み隊長なら指示とか降りそうなのに」

「なんか、良子の担当じゃないから会えないそうよ」


 小宮良子。軍の参謀にいる。

 特に政府の政策に携わる戦線や、外交上落としてはならない戦線を担当しているらしい。

 晶子とは面白いくらい会わない。

 恐らく同じ故郷の者たちを会わさないように、という指示が出ているようだ。

 そのまま他の友人の話を聞いたりしているうちに、自宅に着いた。


「あぁきぃこぉ〜!!!」


 大声と共に父に抱きつかれてウザいと振り払う。彰はすべてスルーして笑顔で挨拶した。




 夜。

 晶子は縁側に出た。

 心地よい風に眼を細めていると、ざっ、と草を踏む音が聞こえる。

 音の主には、心当たりがついていた。


「亮」

「おう。久し振り、晶子」


 中平亮。赤茶の髪が風に靡く。細めた眼は、昼間なら海のように輝く碧眼だったはずだ。

 亮は唇の端を上げて笑い、わざとらしく学ランの襟を立てた。寒いとのたまう彼に、うるさいと返す晶子。昔と変わらない光景だ。

 とても、悟と同じく一騎当千と呼ばれているようには見えない。

 そう晶子が思った時。

 亮の目つきが変わった。

 鋭い、狼のような目。


「おい」


 亮が、屋根の上に声をかける。

 ざわりと、全身の毛が逆立った。


「人ン家の屋根に登って何やってんだ、どこのどいつだ面ァ見せろ」


 晶子が屋根を見上げると、不意に亮の威圧が止まった。亮は目を見張っている。

 晶子も、屋根の上の人物に、力を抜いた。

 彼も苦笑している。


「月が綺麗だったから寝ころんでたんだけど……」


 彰だ。亮が顔色を変えて屋根を登り、彰に飛びつく。

 亮は昔から、彰に懐いている。どうやら過去に何かあったらしいが、二人とも教えてくれない。


「彰〜!」

「はいはい。久し振り」

「来てたんなら言えよ〜!」


 彰は亮を引きずりながら、屋根から降りた。そして庭の入り口を見やる。

 音もなく、学生が立っていた。

 色素の薄い髪に、金と青のオッドアイ。彼も黒い学ランを着たままである。首のストールが、風にたなびく。

 彼は、ふっと笑みを浮かべた。


「お久しぶりです、彰、晶子」

「「悟、久し振り」」


 綾瀬悟。

 これで、幼なじみ四人組がそろった。久し振りの集合に口元が緩む。

 四人で仲良く縁側に座り、月を見上げた。

 晶子はずっと、黒軍とコンタクトがとりたかった。そして、もしコンタクトをとるなら、一番信用できる二人に繋いでもらおうと思っていた。今日いま、その話をするつもりだった。

 けれど。


「月が、綺麗ね」


 そんな話をしたくない。

 ずっと、四人で月を見上げていたい。

 けれど、時間は許してくれない。

 彰が立ち上がり、庭を歩きながら、晶子達を振り返った。


「今回、忙しい悟や亮、遠方京都にいた晶子を呼んだのは、話があったからだ」

「むしろ、話を聞かせて欲しい、でしょ?」

「そうとも言う。

 まず、晶子。君が中平家の権力で調べた部分について、教えてほしい」


 だと思った。

 晶子は息を吐きながら、立ち上がる。入れ替わるように、彰が縁側に座る。


「あたしが探ってたのはね。『三里塚の動乱』についてよ」


 黒軍の二人が緊張で身を強ばらせる。当然だ、この動乱が、白軍と黒軍が武力衝突を始めるきっかけとなったのだから。


「教科書ではね。些細な発言から白派と黒派の小競り合いに発展、偶然そこに居合わせた白軍上部関係者が暴徒によって殺害されてしまう。

 それを発端に各地で〜って流れになっていくのよね。

 で、あたしが気になったのは、その『殺害された、白軍上部関係者』さんよ」


 悟が眉を潜めている。

 恐らくは、晶子と悟は、同じ答えへ導くパズルのピースを握っている。彰は自分の思うパズルと、晶子と悟のピースを繋げた姿が同じか、答え合わせをしているのだ。

 晶子は、ハッキリと口に出した。


「何で、上層部のお偉いさんが小競り合いに顔を出すの?そもそも、三里塚は成田市よ?千葉県よ?何で、京都に本拠地がある白軍の、しかもお偉いさんが来てたの?

 …………とまあ、不思議に思ったから、調べてみたのよ。そのお偉いさんについてね」


 かなりの機密事項だった。手に入れる過程で、白軍の暗殺部隊……しかも学生ではなさそうな人間ともやり合った。そういった情報だ。

 そしてその内容も、不完全ではあるが、身を危険に曝した価値があった。


「結論だけ言うとね。

 お偉いさんは軍本部の方で、上からとある情報をもらって、その人物を見に来ていた。

 その人物に殺されてちゃざまぁないわね」

「あァ?殺したのは、黒側の暴徒だって……」


 亮の情報も間違ってはいない。

 しかし、核心ではない。


「日本に帰化した、そして黒軍の意見に賛同していた人物なのよ。その『暴徒』はね。

 だから、どういった意図があるのか見極めようと、わざわざ上部の方が見に来た。そして、殺されてしまった。

 その人物については、悟が知ってるんじゃあないかしら?」


 名指しされた悟は、うっすらと笑った。否定せず、目を閉じる。


「……件の暴徒の元の国籍を探し出し、その国に飛んで、その人物について調べたんです。探偵を雇ってね。

 結果、彼が元工作員だったことがわかりました」


 一気に物騒な話になる。

 亮が絶句するなか、彰は息を吐いた。


「……やっぱりね」

「や、やっぱりって」

「今、白軍と黒軍が身内でやりあっている状況は、俺たちに一利もないのに対して、外国……特に俺たちを懐柔したい国からすればおいしい。

 長年平和に暮らして充分に元気の有り余っていた国が、自分たちで国力を減らしている訳だからね」


 つまり。


「陰謀説」


 晶子が端的に示すと、彰はやはり頷いた。

 日本は、外国の筋書き通りに進んで自滅しているのだ。


「確かに、白軍の言うことは分からないでもない。外国…特に欧米との武力差は歴然だから、従おう、従って甘い汁を吸った方がいいだろう。

 だが、だからと言って、俺達を良いように利用しようとしている連中につき従っていいと思うかい?

 利用できるだけされて捨てられるのがオチだ」


 彰は冷静に評し、だからと続けた。

 続けようとした、悟が動かなければ。


「誰だ」


 端的に発せられた声。意味が分からず固まった晶子とは別に、亮は顔色を変え、庭へ飛び出す。

 彰は苦笑しながら肩を竦めた。


「来ちゃったのか」

「気になったからな」


 知らない声。

 いつの間にか、少年が庭の岩の上に立っていた。色素の薄い髪を軽く括り、緑の目は眠いのか半分ほどしか開いていない。彼が髪をかき上げると、赤いピアスが月夜に輝いた。

 警戒する亮と悟をよそに、少年はそれでと彰に話しかけた。


「どうするつもりなんだ?」

「……先の任務の成功報酬として、留学に関する権限を一任された。それを盾に黒軍と交渉するつもりだ」

「うちも一枚噛みたいんだが。あと兄貴があんたに会いたいだとさ」

「…物凄く光栄なことなんだけど、いいの?そんなにホイホイ人前に出て」

「いいんじゃねぇの?兄貴が会いたいって言ってるんだし」

「……………………彰」


 我慢できなくなったのか、悟が口を挟んだ。手が懐に伸びている。

 晶子は、そこに拳銃が入っていると知っている。


「彼は……黒軍でも白軍でもありませんね?」

「まあね」「立場上は白だけどな」

「赤ですか…君の交友範囲が分かりません」

「白軍にしては何か斜に構えた見方してるなーと思って話しかけたら赤だった」


 のほほんと答える彰に、悟も諦めたように溜め息をつく。少年は首を傾げたのち、悟と亮を見る。


「前に奇襲かけたことを根に持ってるのか?」

「すみません待ってください交戦経験あるんですか僕たち」

「おっと悪い今のは忘れろ」


 目を逸らした少年は、それじゃと手を挙げた。藪蛇を突いたようなので逃げるつもりらしい。


「そろそろ俺も帰る。話は兄貴には通しておく」

「気を付けて帰るんだよ」


 ひょい、と少年は塀を越えて姿を消した。

 彰は肩を竦め、口を開いた。


「俺はやりたいことをやるだけさ。黒だろうと白だろうと赤だろうと、協力してくれそうな人とは仲良くなるつもりでいる。

 三人にも頼みたいことがある。いいかな?」


------------続く?

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