表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/103

PH-097 どうにか勝てた


 ゴンっと背中が壁に当る。少しホールの出口に移動していたはずなんだが……。目標物が正面の台座に乗った球体だから方向感覚がズレたみたいだな。

 チラリと後ろを振り返って壁伝いに右に移動する。

 後ろに壁が無くなった所で、トンネルを少しずつ後退して行った。その間も目は球体から離さない。

 今では、銀色のウネリが表面を覆っている。まるで嵐の海のようにも見えなくもない。

 俺の持ったサーチライトの明かりに照らされて、ホールの中は万華鏡のように光が踊っている。

 時空間ゲートである球体自体が発光を始めたようだ。サーチライトを消してだんだんと遠くなるゲートから俺は目を離さないで後退を続ける。

 トンネルの抜けて最初のホールに着いた時には、すでにトンネルの奥がぼんやりとした光の脈動が見えるだけになっていた。

 

「エリー、出発の準備は出来てるか?」

「終ってるよ、お兄ちゃん。アルビンさんにも連絡用のシリンダーを投げ込んどいた!」

 

 最悪、エリー達を帰すことは出来そうだ。

 ならば、もう少しあのゲートの成り行きを見守っていてもいいだろう。

 無人機から外したクリスタルをバングルの記録ホルダーに入れると、このホールに於いたままの伝送器を使ってエリーに情報を送る。レイドラ博士ならきちんと判断してくれるだろう。

 伝送器からサブの通信用ケーブルを引き出して補助の伝送器に接続する。

 本体の伝送器からエリーのバングルにクリスタルの情報転送が終了したところで、サーチライトを点けずに、もう一度奥のホールに続くトンネルを歩いて行った。

 足音を立てないように用心して進むと、先程無かった人影がゲートの手前に落ちている無人機を屈みこんで調べているようだ。

 

 トンネルの出口付近にそっと補助の伝送器を置く。この距離ならホールの状況を俺のバングルを通してエリーに伝えることができるだろう。

 人影は無人機を裏返すと、今度は中身を調べている。まだ俺に気が付いていないみたいだ。

 さて、どんな文化を持っているのかな。無人機を痛めつけているから、あまり友好的ではないだろうが、ここはマニュアル通りにいくか。

 両手を上げて、一歩踏み出す。帽子に着いたライトにあるカメラで画像と話し声はエリーに伝わるだろう。


「やあ、初めまして。プラントハンターをしているバンターだ」

 

 人影は俺の言葉に驚いたようで、俺と反対側に跳ねるように下がると俺に向き合った。

 まるで影だな。たぶついたように見える黒い上下の衣服をまとい、顔も黒いマスクで覆っている。まるで忍者に見えるぞ。

 奴の額から紫外線領域の光が俺に照射される。上下、左右にスリット状の輝線が俺の体を横切った。

 俺を認識しようと言うのだろうか? どう見ても獣や恐竜の類ではないと思うのだが……。


 次の瞬間、いきなり俺の前に跳躍して腹に肘を打とうとしたのを、転げるようにして避ける。奴の肘を抑えようとした両手がズキズキと痛む。

 転がりながら、【ブースト】と【シロッコ】を発動させる。これで少しはマシな動きが出来るだろう。


「いきなり攻撃とは穏やかじゃないな。やるのか?」

「我等が領域を侵す者は全て排除する!」


 抑揚のない声は、金属的だな。

 と、今度は足蹴りと拳が連携して襲って来た。

 相手の動きに合わせて体が自然に動いてくれるのは、かなりの訓練を受けたことによるものだろう。生憎と俺には思い出せないが……。

 相手の攻撃を避けると、カウンター気味に俺の左手が奴の顎に入った。

 ゴツ! という固い音がして左手に痛みが走る。皮手袋をしていなければ、拳を痛めたかも知れないな。黒い仮面が割れて、中から現れたのは銀色の光沢を放つ金属の表情の無い顔だった。

 もっとも、俺達の顔とは全く異なる。顔に付いているのは2つの目と、額にあるライトのようなもの。鼻も無く、口も無い。口のあるべき位置に数個の小さな穴が開いているから、あの後ろにスピーカーでも着いているのだろう。


「ロボット?」

「我を知るのか? 我の構造を理解するのか?」


 両腕から剣が伸びて来る。片手剣程の長さになったところで、両腕を広げて剣を構える。体術で俺を倒すよりも容易と考えたんだろうな。

 俺も、ゆっくりと背中の刀を抜いて正眼に構える。

 やはり、敵対してきたか。出来れば、この時空間ゲートの制御方法を教えて貰いたかったな。

 

 相手が機械だから、動きが読めないな。俺の身体機能も大幅に上がっているはずだから、そう簡単にやられはしないだろうけど……。

 床を這うような低い姿勢で、片手の剣を突き出しながら俺に迫ってきた。

 突き出された剣を持つ側に片足を引いて回転しながら避ける。

俺の動きに、剣が横を向いて襲ってくる。上体を退け反らしながら後転してどうにか避けた。ばく転を繰返して素早く距離をとる。改めて奴に体を向けると奴が両手に持った剣の位置が逆になっている。

慌ててばく転して距離を取ったから良かったものの、その場で上体を反らしただけでは2撃目を避けられなかったろうな。

まるで忍者みたいな奴だ。動きが半端じゃないぞ。

俺の過去の記録を見て、俺が長剣をそれなりに使えることが分かった。幾多の大会で優勝しているらしい。

 村でトメルグさんと一緒にラプトルの群れを狩れたのもそんな下地があったからだろう。だが、その俺が2段に身体機能を上昇させても、こいつの動きに追従しきれていない。

 これは、無傷ってわけにはいきそうもないな……。

 

 しばらく奴と睨みあっていたが、不意に奴の体がブレたかと思った瞬間、ガチン! と金属音がホールに木霊した。

 とっさに刀を振りぬいたらしい。体が自然に反応したらしい。一歩踏み出して、振り上げた刀を相手に叩き込む。


 今度は奴がばく転を繰り返しながら俺から距離をとる。

 俺の周りに奴の持った剣の破片が落ちていた。奴が俺の攻撃を剣で防いだらしい。だが、俺の持つ刀はトメルグさんから貰った未知の金属で作られている。切れ味と耐久性は相手の剣を上回っているらしいな。

 奴も無傷ではなかったらしい。腹と肩口の衣服が裂けてそこから小さなスパークが見える。これで奴の運動性能が低くなってくれればいいのだが……。

 

「ウオォォ……」と雄叫びを上げて奴に突っ込む。大上段に振りかざした刀で袈裟懸けに切り込みながら姿勢を低くする。

 奴が俺の攻撃を見切って体を捻ったところに、体を伸ばしながら刀を横に払った。

 ガツン! という手ごたえが伝わってくる。と同時に素早く横に転がってその場を離れる。

 体を起こしながら奴を見ると、前屈みになった姿勢で右腕から槍が伸びていた。

 色々と武器を持っているみたいだな。飛び道具がないだけマシってことになるのだろうが、中々終りそうもないぞ。


 奴が顔だけを俺に向けた。表情がない顔だから奴の心情が分からないな。ラプトルでも攻撃の予測はできるんだが、奴にはそれができない。

 先程切り込んだ腹の部分から液体が滲み出している。真っ黒だから血ではないようだが、それなりに深手を負ったということになるのだろうか?

 右腕の槍を支えにして体を起こし始めた。刀を斜め下に構えて様子をうかがう。

 槍に左手を添えながら右腕を伸ばしている。突っ込んでくるつもりなのか?


 低い姿勢で突っ込んでくるのは今までと同じなんだが、速度が落ちてるな。

 回避方向の軸足に体重を掛けた途端、左腹に激痛がはしった。慌てて、その場から離れると腹を見る。

 革製の上着から鉛筆程の金属製の棒が突き出ていた。みるみる上着が血で濡れていく。

 発射音がしなかったな。となると電磁的に加速するレールガンということになる。弾丸が、これ1本とは考え難いから早めに勝負を付けたほうが良さそうだ。


 ゆっくりと奴に近付く。俺の歩みに血の跡が点々と続いているんだろうな。奴に感情があれば、次の攻撃で俺を討てると考えてニヤリと笑うところだろう。

 数mの距離まで近づく……。俺に向かって左腕が伸ばされようとした時、全身をバネに一気に間合いを詰めて、下ろしていた刀を振り上げた。

 ガツン!! という金属音と重い衝撃が腕に伝わる。視界の端に、奴の左腕が宙に舞うのが見えた。

 スパークを放つ左腕に奴が顔を向けた時、今度は奴の腹に刀を突き入れる。

 えぐるようにして刀を引き抜くと、素早く奴から離れた。


 ロボットだから、中の構造は分からないが、重要なシステムに損傷を与えたのだろう。腕からスパークの火花と共に薄い煙が出て来た。

 ドシン! と重い音を立てて両膝を折ると前のめりに奴が倒れた。


 これで、終わりか?

 あれだけ体を動かしても俺の腹に刺さった金属棒に変化が無い。返しでも付いているんだろうか? 内臓をかなり傷付けたらしく、血の出る量が多くなったようにも思える。激痛はすでに感じなくなってきた。あまりの痛みに、神経を脳が遮断したようだ。

 早めに、帰るに限るな……。


 刀を鞘に戻すと、奴の斬り取った腕を抱えてホールを後にする。

 急がずに、ゆっくりと歩けば出血も抑えられる筈だ。そんな事を考えて後ろを見ると、血の跡が点々と付いている。

 入口近くのホールに出たところで、左右の石像の間にワイヤーを張って、手榴弾を結びつける。簡単な地雷だが、簡単なほど引っかかりやすいだろう。

 万が一、奴が追い掛けてきても、炸裂音で知ることが出来るだろうし、少しは傷を負わせられるんじゃないか?


 入口のトンネルをどうにか通り抜けると、エリーが走ってきた。

 俺に肩を貸してくれようとしてるけど、身長差があり過ぎて上手く行かないみたいだ。


「だいじょうぶだ。どうにか砦までは持つ」

「分かった。なら、車をこっちに移動するよ」


 エリーがサリーと連絡を取ると、直ぐに車が俺達のところにやってきた。

 どうにか車の座席に乗り込んだところで、車が時空間ゲートに向かって移動する。

 

 俺達が出たところは大河の近くで見付けた時空間ゲートだが、出た途端に照明灯の灯りが俺達を包んだ。

 俺達だと分かったのか、次々と灯が消えていく。


「バンターだな。だいじょうぶなのか?」

「やられました。このまま、砦に移動します。万が一がありますから警備は厳重にしてください。身体能力が極めて高いロボットです」


アルビンさんと会話をしている間に、10m程先に砦への時空間ゲートが開かれた。

 挨拶もそこそこに俺を乗せた車は砦に向かってゲートを潜り始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ