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PH-095 新たな時空間ゲート?


「つるつるにゃ!」

 丸いトンネルが奥へと続いているが、壁面はあまりにも滑らかだ。まるで磨かれたようにも見える。

 リネアが壁に映る自分の姿を見て驚いていたが、その壁面を手で撫でたようだな。

 確かに、自然に出来たものでは無い。人為的なトンネルで、その工法もかなり精錬されたものだと言えよう。ノミで削ったようなトンネルだと思っていたのだが……。


「おかげで周囲が明るいから助かる。それに、もうちょっとでホールに出るぞ」

 トンネルの長さは100m程らしい。その先にあるものはホールのような空間だ。俺の持つ小型のサーチライトで、どうにか奥の壁に光が届いているようで、何かに反射した光が見える。


「サリー達には?」

「まだ知らせなくて良いだろう。この先のホールを一回り見てから引き上げよう」

 まだ初日だからな。何が岩窟の奥にあるのかを確認するだけでいい。

 

 丸いトンネルを抜けると、ドーム状の空間に出た。

 サーチライトに反射していた物体は奥の階段だった。左右奥行き共に30m程の空間で天井までは20m程はあるんじゃないか?

 6角形の敷石が床に敷かれているが、表面にはうっすらとチリが広がっている。

 階段まで直径30cm程の石柱が左右に並んでいるが、その間隔は10m程もある。壁面には精巧な石像がずらりと並んでいるぞ。石像は人物像だな。功績を残した偉人達を刻んだんだろう。

 階段の先には、5m程の高さにぽっかりと丸い穴が開いている。その先にも何かあるに違いないが、今日はここまでにしよう。

 リネアがドームの全体像を何箇所かから撮影しているから、画像を元に3D映像が作れるはずだ。

 

「バンターさん、ここに碑文があるにゃ!」

 リネアが俺に向かって手を振っている。近付いて碑文を眺めると……、俺が理解出来る文字だぞ!


 この文字は日本語だ……。だが、日本というのはどんな世界だ?

 ギルド本部のある俺達が暮らしていた世界は、言語と文字が共通化している。リネア達の住んでいる世界の言語と文字はエリー達が苦労して解読したんだよな。

 俺の知る言語はこの2つのはずだ。だが、俺にはこの世界の不思議な文字が読めるし、その発音と意味さえ知ることができる。

 

「この碑文も映しといてくれないか? 後で読んでみたいんだ」

「私達の文字と違うにゃ。読めないと思うけど……」

「ゾアもいるし、意外と簡単に読んでくれるかもしれないぞ」

 

 半信半疑で、リネアが碑文を映している。

 この場所以外にも、文字を刻んだものがあるんだろうか?

 ホールの中を歩きながら石像や石柱を良く調べてみる。そんな事をしていると、石造の台座に2行の文字が刻まれているのが分かった。

 これも、リノアに撮影して貰う。石造の全体像と、台座の文字をセットで撮影しておけば、何か分かるかも知れないからな。


「撮影が終わったにゃ。後は、あの階段を上るだけにゃ」

「それは、明日でも良いな。俺達だけで向かったらエリーに怒られそうだ」


 俺の言葉に素直に頷いてくれた。

 伝送器はここに置いておこう。明日も使うかも知れないからな。

 奥の階段に背を向けて、真円にくり抜かれたトンネルを外に向かって歩き出した。

 

 100m程のトンネルだから、トンネルの奥が白く見える。向こうは昼過ぎのようだ。戻ったら直ぐに昼食だな。

 外に出る前にサングラスを掛ける。3時間程中にいたから目が暗闇に慣れている。こんな状態で外に出たら、周囲が良く見えないから何かにつまずきそうだ。

 リネアを見ると、すでにサングラスを掛けている。ネコ族だから、瞳を自在にコントロール出来るらしいけど、明るいところは苦手なようだな。


「出てきたにゃ!」

 俺達を見付けて大声を上げて手を振っているのはサリーだな。

 その隣で、エリーが恥ずかしそうな顔をしてるけど、ここには俺達だけだから大目に見てあげないといけないぞ。


「悪い、ちょっと遅くなった。面白そうな場所だぞ」

「明日は皆で行けるんでしょう?」

「ああ、危ない場所では無さそうだ。リネア、画像を俺のバングルに送ってくれないかな? 後は、クリスタルに記録して、エリー達の画像と一緒に送ろう」


 車の傍に小さな焚き火が作られ、三脚に吊るされたポットからは湯気が出ている。

 先ずは、昼食だな。エリー達も俺達を待っていてくれたみたいだからね。

 簡単なサンドイッチとインスタントのコーヒーだけど、周囲は鬱蒼とした森が広がっている。神殿の廃墟には不思議と草も生えていない。焚き火用の焚き木は森から拾って来たんだろう。食事が終われば、今夜用に少し集めて来なければなるまい。

 

 エリー達がにこにこしながら神殿の廃墟の調査結果を話してくれる。概略調査を行って、何カ所かおもしろそうな場所を見付けたらしい。

 俺達の調査画像とエリー達の画像、それに神殿の周辺の変わった草を採取した小型のシリンダーを中型シリンダーに入れて時空間ゲートに投げ込んだ。

 向こうには、アルビンさん達が待機しているはずだから、アルビンさん経由で砦の時空間ゲートに出現するはずだ。


 夜になる前に、森の傍から焚き木を集めて来る。

 相変わらず周辺には生物反応が無いが、それがずっと続くとは限らないからな。全員で眠るわけにはいかないだろう。

 

 車の転倒保護用アングルを使って、テントを張りエリー達が横になった。

 畳んだポンチョをシートにして、俺だけが焚き火の傍に座って番をする。

 見上げれば満天の星空だ。エリーが置いてくれたポットのコーヒーを飲みながら、バングルに転送して貰った岩窟の中の階段に刻まれた碑文を、仮想スクリーンに映し出す。

 これを読めるんだよな……。

 

 異界より来る客人まれびとあり

 我らに生きるすべを教える

 我らの争う姿に憂いて岩山に穴を穿つ

 その力に怯えた我らは争いを終えるが

 客人は岩窟の奥から出ることは無かった

 岩窟の中には1つの鏡だけが残ったのみ

 客人は鏡となった


 タバコを取り出して焚き火で火を点けた。ふ~と煙を仮想スクリーンに吹きかける。

 要するに、時空間ゲートを使ってこの世界に現れた人物がいるって事だな。

 この世界に文明をもたらしたんだが、その結果戦争が起こったってことか。種族間の仲たがいがエスカレートしたんだろう。

 それを見て、彼らに文明をもたらしたことを悔いたんだろう。

 俺達が入ったトンネルはそんなことで作られたってことだ。あのホールの奥にあった階段の先には新たな時空間ゲートがあるって事になりそうだ。

 客人が帰った後も、その場所は聖域化して祭られたに違いない。

 今でもあるんだろうか? たぶんあるんだろう。俺達がこの世界にやってきたゲートですら可動状態だった。

 だが、そうなると岩窟の奥にあるゲートはどこに繋がっているんだろうか?

 時空間ゲートの制御はかなり難しいことが分かっている。時空間ゲートを作り出す5次元空間座標式は虚数空間を扱うって聞いたことがある。かなり不安定な振動数式らしいから、振動数式の解を求めるために大型の電脳を使って計算することになってしまう。時空間ゲートの付属設備が大型化するのは、それが原因らしい。

 となれば、俺達がこの世界にやってこれたのは正に偶然の産物だ。岩窟の奥にある時空間ゲートの先に何があるかは、まったく当てにならないことになりそうだ。この世界に文明を築いた人間の暮らした世界である可能性は極めて低いことになる。


 タバコを焚き火に投げ捨てると、温くなったコーヒーを飲みほした。

 今度は、石造の台座に刻まれた文字を読む。

 石造自体は、まだ若い人間の姿をかたどったものだ。多くは神官の姿をしているが、数体は武人像だな。同じく若い姿だ。

 刻まれた文字は2行だが、上段の文字は名前のようだ。『ガネル・ケナウ』と読めるから、名前と氏族って感じだな。

 下段の文字は……、『142年火の月12日。神の元に旅立つ』とだけ記されている。ちょっと悩むな。改めてタバコに火を点けた。


 ガネルの死んだ事を示すなら、この近くに墓がありそうだが、エリーの調査では墓なんて無かったぞ。それに、記念碑ならば、功績が書かれるはずだ。

 そんな記載が全くなく、旅立ったことが書かれているって事は、本当に旅立ったと考えられるな。

 旅立った事を記念する石像があれだけホールにあるのは、実際にホールから他者の祝福を受けて旅立ったのだろう。

 その場所とは……、時空間ゲートってことになりそうだ。この世界への旅立ちなら、石像をホールに置かずに、神殿の中に置くだろう。

 あれだけの人数を旅立たせても、結果が無かったという事らしい。

 いつしかこの神殿は寂れてしまったという事か。最盛期はかなり大勢が暮らしていたように思えるが、今では廃墟だからな。

 

 がさごそとテントが動いている。エリー達が起きたようだ。

 やがて、眠そうな顔をした3人が焚き火の傍にやってきて、コーヒーをカップに注いで飲み始めた。


「何かあった?」

「何にもないな。後を頼んだぞ。出来れば無人機で長距離を調べてくれないか。半径50kmには集落は無いことが分かってるけど、その先は分からないからな」

「了解。6時間したら起こすね」


 俺一人では起きられないと思ってるらしい。だけど、バングルの目覚まし時計は結構強力だぞ。

 エリー達に片手を上げて、テントに入るとシュラフに包まって横になる。

 これだけ神殿が廃れるものなんだろうか……。いくら人を時空間ゲートに送り込んでも、戻って来る人物はいなかった。だが、人がゲートに消えるのであれば、それは神殿としての役目を持つことにならないか?

 いつかは戻って来る者が洗われるはずだとして、愚行を繰り返すことが延々と繰り返されるはずだ。この世界の文明を作った人物を再び戻すために。

 それが無くなる理由として考えられるのは政変だな。大規模な闘争が起こって、神殿の役目が無くなったということだろう。

 そうなると、かなり強力な国家が誕生している可能性が高い。

 俺達の調査に支障が出て来るようだと困ったことになってしまいそうだ。



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