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PH-092 この世界にある筈のないもの

 0800時にエリー達を起こして朝食を取る。

 今朝からは携帯食料だが、昨日持ってきたポットに残っていたスープの残りをレンジで温めて頂いた。パンとコーヒーだけだと思っていたから、ちょっと嬉しくなるぞ。

 朝食が済んだところで簡単な打ち合わせを行い、エリー達に当座の注意点を伝える。

 

「真っ直ぐ南で良いんだよね。海岸から10km程でアルゴを停めてお兄ちゃん達を起こすことにする」

「周囲を旋回させて状況を見てるにゃ。海岸に出たら最初は東に向かわせるにゃ」


 2人の返事に頷いて、今度は後席で横になった。

 一晩中操縦していたから、疲れが溜まっていたのだろう。目を閉じると直ぐに睡魔が襲ってきた。


 体を揺すられて目を開ける。アルゴのスクリューの振動が伝わってこないから、どうやら予定地点に到着したようだ。

 体を起こすと、リネアが熱いコーヒーを渡してくれた。砂糖をたっぷり入れて一口飲むと、頭が冴えてきたぞ。


「エリー、状況は?」

「お兄ちゃん、起きたんだ。無人機の画像で見る限り、渚から10km地点だよ。砂浜がずっと続いている感じ。サリーが西を偵察してる。東は150km先まで砂浜が続いていた」


 無人機の撮影画像を仮想スクリーンで確認する。確かに砂浜が続いているな。たまに数km沖合いに岩礁が見受けられるが余り変化にとぼしい地形だ。

 アルゴは草原に停まっているが、渚から3km程は砂地になっている。かなり風があるらしく、小さな砂丘ができていた。

 時計を見ると、1500時を過ぎている。あまり海に近付くのも問題だな。

渚が見える辺りで今夜を過ごそうか。砂地との境界辺りの植物を採取しておいても良さそうだ。


「周囲に生物反応が無いな。砂丘の上に移動しよう。途中で標本採取をして、眺めのいい所で夜を迎えたほうが良さそうだ」

「了解。アルゴを前進させるよ」


 サリーと席を交換して、助手席に座る。俺の準備ができた所でエリーはアルゴを前進させた。

 残り数kmだから、ゆっくりとアルゴを進ませている。助手席から眺める草原は特に変化はないようだ。

 少し進むとスクリューが砂を噛む音が混じり始める。土地が土から砂地に変わり始めたんだろう。


「エリー、左前方の色が濃い群落で停めてくれ!」

 周囲の草とは明らかに色合いの異なる植物を見つけると、マジックハンドを使って標本用シリンダーに採取した。

 そんな事を2度繰り替えすと、何時しか周囲は砂地に変わっている。

 小高い砂丘の上にアルゴを停めて、今夜はここで待機する。


 なるほど、東西に砂浜が伸びている。弧を描いているようには見えないから、相当大きな渚になるんだろうな。

 しばらくそんな光景を眺めていると、リネアが大声を上げた。


「川があるにゃ! 西に150km以上離れてるにゃ」

 サリーの知らせに、急いで仮想スクリーンを展開して画像を映し出した。

 遠くに見える川は大河と言っても良いだろう。河口部の川幅はかなりなものだ。俺達の先行調査は地形を知るのが主目的だから、明日はあの川を遡ってみようか。


「明日は、西の川を北に遡上しよう。夕方には砦に帰るぞ」

「ここで夜を明かすの?」

「ああ。海の生物はクラゲで懲りたからね。ここは生物の大量絶滅が起こっていない。何がいるか想像できないからね」


 無人機を飛ばして見ている分には良いけれど、接近するのはどうかと思う。ヤグートクラスなら少しは安心できるけど、アルゴは小型だからな。アルゴクラスの生物はいると思わなければなるまい。


 早朝に出発という事で、早めにエリー達を休ませる。俺とリネアで夜間の監視を行おう。

 仮想スクリーンの画像だけが室内を照らす。目には良くないのだろうが、あまり明るくすると虫が寄って来るのだ。

 そのスクリーンでさえ照度を落しているから、外の方が明るく感じる。今夜は月夜のようだ。

 海面を半月が照らしている。暗闇に慣れた目は、色は分からないがかなり遠くまで見通すことができる。


「海がこんなに大きなものだと思わなかったにゃ。大きいから、海の生物も大きいにゃ」

 リネアが見ているのは、海上の遥か彼方で調査をしている無人機からの映像だった。

 首長竜達が更に大型の魚竜に狩られている。渚から100km程離れた画像だが、あの大きさの魚竜がいるなら水深もかなりあるって事だろうな。


「島の偵察は終えたの?」

「終わってるにゃ。直径3km程で、生物はいなかったにゃ」


 リネアが偶然見つけた小島は、渚から120km程離れている。この世界の地殻変動は穏やかだから、どうして取り残されたか分からないが、島の固有種がきっとあるに違いない。無人機のセンサーではかなりの植物が繁茂しているようだ。

 小さな島だから大型生物もいないだろうし、海から上がって来るような連中もいないだろう。大型の魚竜がいるなら陸から渡るような生物は翼竜ぐらいなものだろう。その翼竜さえ、この時代ではまだ見ていない。極めて貴重な存在になっているのだろうか?

 まあ、危険性が少ないなら新人の調査に向いてるだろう。色々と発見できるかも知れないしね。


 そんな事を考えてた時だ。河口の映像を拡大して調査していると、その近くにとんでもないものを見付けた。

 更に拡大してみると……。間違いない。時空間ゲートの鏡面だ。位置を確認して、もう1機の無人機を偵察に出す。

 そんな俺の様子をリネアが不安そうに見つめている。


「この位置を上空から確認してくれ。出来れば高度500mで直径1kmを旋回して映してくれないか」

「了解にゃ。変わった恐竜がいたのかにゃ?」

「かなり変わった物を見付けた。前回の偵察映像だから、今でもあるかどうか分からないけど、一応念のためだ」


 海上に出ていた無人機を自動帰還モードに変更して、新たな無人機をリネアが動かし始めた。高度500mは、今までの地図作りの運用とは異なりかなり低い高度だ。俺も仮想スクリーンを開いて、スピード感が増した映像を見ることにした。


 位置的には西に150km程だから、時速200km以上で飛ぶ無人機では1時間も掛からない。

 この世界に時空間ゲートを作り出せる文明を持った生物がいるのだろうか? それとも、俺達と同じ遥か後の時代からやってきた探検者なんだろうか?


「あれにゃ? ゲートみたいに見えるにゃ!」

「ゆっくり周囲を確認してくれ。多機能センサーで付近の生物にも注意するんだぞ」

「了解にゃ。多機能センサーはすでに機能してるにゃ。でもまったく反応がないにゃ」


 偶然の産物ってことは無いだろう。砦やギルドで時空間ゲートを作るにはかなりの設備を必要とするし、その場所を特定するために大きな電脳を使って演算することも必要だ。

 俺達が帰還する時に使う時空間ゲートにしても、俺達の出す時空間ビーコンの信号を捉えて向こう側で作ってくれるのだ。

 アルゴやヤグートⅢで単独に作れれば良いのだが、まだそんな事が出来るほど科学は発展していないらしい。


「時空間ゲートの周囲5kmにいるのは、この狼に似た獣だけにゃ」

 新たなウインドウに映し出されたのは確かに狼のような生物だ。20匹程の群れを作っているが、あの狼が時空間ゲートを作り出したとは思えないな。


「時空間ビーコンに音声信号を乗せて砦に連絡だ。『時空間ゲートを発見付近に人影なし。無人機を自動帰還モードで見つけた時空間ゲートを潜らせる』以上だ」

「了解にゃ」


 無人機1機の損失位は大目に見てくれるだろう。それよりもどこに繋がっているか、その先の情景はどうかが問題だ。

 時刻は、0200時を過ぎている。早朝であれば起きている連中も限られているし、数秒程度で帰ってくれば、敵対行動と問われることも無いだろう。


「リネア、後ろの2人を起こしてくれ。それと、まだ砦から連絡がこないか?」

「さっきの通信の返事はまだにゃ。とりあえず、2人を起こしてくるにゃ!」


 眠そうな目で起きてきた2人に状況を伝える。

 リネアがコーヒーを入れてくれたから、それを飲んで眠気を覚まそうとしてるのが良く分かるぞ。


「おもしろそうね。エリーは賛成だよ」

「実行は砦の指示を待ってからだ。その前に可能な限り時空間ゲートに近付く。エリー、頼んだぞ」


 直ぐに、アルゴが西に向かって走り出す。先行した無人機は高度1千mで半径5kmを周回しているが、依然として高度な知能をもった容姿をしている生物を発見できないようだ。


「砦から返事が来たにゃ。『バンター君の判断で良い』以上にゃ」

 丸投げって事だな。

 まあ、その方が色々とやり易いことは確かだ。


「リネア、無人機の行動プログラムを作ってくれ。ゲートを出て5秒後に戻ることを前提に、周囲の画像撮影と環境データの収集だ。画像は赤外線画像も撮った方が良いな」

「20分で出来るにゃ!」


「どこまで時空間ゲートに近付くの?」

「そうだな。1kmで良いだろう。それ位なら逃げる時も容易だし、多機能センサーに付属した望遠カメラで時空間ゲートの様子も捉えられる」


 アルゴは砂地を時速40km程に速度を上げて進んでいる。

 すでに0400時を過ぎて東の空は白み始めた。行程は残り60km程だから、1時間半でこの目で見ることが出来そうだ。


 小さな砂丘を太陽が照らし始めたころ、俺達は朝食を取る。チューブから絞り出したゼリー状の朝食は柑橘系の味がした。

 簡単な朝食でも栄養価は考えてるんだろうな。そんな思いをコーヒーで流し込む。


「あれかな? まるで鏡みたいだけど……」

「やはり、自然にできたとは考えにくいな。いったい誰があれを作ったかが問題だ」


「無人機の燃料が持たないにゃ。一旦帰還させるにゃ」

 ずっと、哨戒任務に就かせてたからな。早めに補給すべきだろう。

「戻ったら、急速補給で再度飛ばしてくれ。今のところ何もないが、これからも何も無いとは限らないからな」


 無人機をリネアに任せて、だんだんと近付いて来た時空間ゲートを眺める。

 見れば見るほど俺達が作り出す時空間ゲートにそっくりだ。

 しかし、ちょっとした違いも見えてきた。俺達が作り出す時空間ゲートは鏡面のような感じなんだが、あそこに見える時空間ゲートの鏡面にはうっすらと色があるようにも見える。空の色を反射しているのではなさそうだ。

 やはり、詳しく調べる必要がありそうだな。


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