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PH-009 新たな仲間はお姉さん?

 オオトカゲは穴から這いだしてきたらしい。動体検知センサーは茂みの後ろの獣の動きは見つけられても、穴の奥はできないようだ。まあ、何となく納得は出来るんだけど、これが試練って事はないだろうな。

 

「徹甲弾に変えといて良かった。お兄ちゃんも、散弾をスラッグ弾に変えといた方が良いよ」

「そうだな。スラッグと炸裂弾を交互に入れとくか」

 

 一旦、パイプマガジンの中の弾丸を全て抜き取り、スラッグ弾と炸裂弾に変える。炸裂弾は小型のスラッグ弾の中に爆薬を仕込んだものだ。弾着の衝撃で炸裂するが、直ぐにではなく0.2秒遅れるとのことだ。体表面でなく体内で炸裂するから威力は追って知るべしとなる。散弾もスラッグ弾も紙のカートリッジに入っているから形は同じものだ。種別はカートリッジの色で区別される。散弾は緑だし、スラッグ弾は黄色、炸裂弾は赤になる。


「これで4個目だよ。残りは1個だけど……日が暮れちゃうわ」

「一応ライトは持ってきてるし、サングラスを赤外モードに変更すれば夜でも見えるよ。色は無いけど、それは我慢できるだろう?」


作業を再開する前に、少し休息を取る。

ライトをベネリのバレル下部に付いたレールを使って固定し、エリーもアナライザーとMP-6に同じようにしてライトを固定した。中心の明るい場所がヒットポイントだから、狙いも付けやすいだろう。

 だが、日暮れ近くになって周囲に溢れだした生物はオオトカゲだけなのだろうか? 散弾の方が対処しやすいものもいるだろう。ベルトの弾丸ポーチに散弾を少し入れておく。

 手榴弾型の火炎弾も腰のバッグから1個取り出して、ベルトに何個か着いたマジックテープのストラップを利用して固定する。


「なるべく早く依頼をこなす必要があるぞ。密閉容器には、この辺の雑草を入れておけば良い」

「そうだね。なるべく変わったのを入れとく!」


 エリーはそう言ってるけど、見た目が変わってるなら既に採取されてると思うな。何の変哲もない草木が実は大発見なんて、よく聞く話じゃないのか?


 水筒の水を飲んだところで、最後の球根を探し始める。

 月明かりも無い荒地は既に暗闇の中だ。遠くで獣が争う叫びが聞こえる。俺達の回りの獣もだいぶ増えているようだ。

 赤外線で見る周囲の景色はモノトーンだが、体温を持っている獣は体熱で体が白く見える。トカゲ達は自分で熱を作れないのだろう。あまり熱を発していないようだ。


 日が暮れて4時間。ようやく最後の球根をエリーが掘り始めた時には、俺達の周囲を100を超える獣が取り囲んでいた。大きさが、最初に見たトラよりも小さいって事は群れで獲物を狩ることを覚えた獣なのかもしれない。ここから進化を繰り返して狼になっていくのだろうか?


「終わったよ。お兄ちゃん……、何なのこの数!」

「100を超えてるぞ。マガジンを直ぐに交換できるように何本かをベルトに刺しとけ。30m程の間を空けて、大型犬サイズ、その後ろにトラ並みの大きさで数頭。オオトカゲははっきりしないが、とにかくたくさんだ」


 たぶんこれが試練なんだろう。

 この時代の夜を乗り切れないようなら大成しないって事か……。だが、場合によっては死人が出るんじゃないか?


 ゆっくりとベネリにセーフティを掛けて背中に回す。そして左手で片手剣を引き抜いた。チタン製の片手剣は片刃で肉厚だが重くはない。右手で火炎手榴弾をストラップから取り外してエリーを見る。

 彼女も手榴弾を手にしている。どうやら覚悟を決めたらしいな。


「殺るぞ!」

俺の大声に、俺とエリーが同時に手榴弾を投げた。

エリーのMP-6が唸りを上げて銃弾を吐き出す。炸裂音が3つ……。エリーが2個を同時に投げたようだ。

 火炎弾の炎でひるんだ獣達に、迷うことなくエリーは銃弾を浴びせる。そんな彼女の背中側で、俺は片手剣を振って、俺達に接近してくる獣を葬り去る。

 炎の勢いが弱くなってくると、獣が近づいて来る僅かな隙を利用して再び手榴弾を投げて炎の壁を作りあげた。

 オオトカゲが直ぐ傍までやってきて俺の倒した獣を咥えて走り去る。荒地の掃除屋みたいなやつだな。

 

「エリー、だいじょうぶか?」

「マガジンを4本使い切ったわ。残り3本は直ぐに取り出せるけど、予備はバッグの中だから……」

「どうやら、狼モドキはいなくなったようだ。バッグから予備を出す時間位はあるだろう。次は大型だぞ!」


片手剣を振って血糊を払うと背中のケースに戻しておく。今度はベネリが頼みだ。数頭だがどれぐらいの強敵かが分からないな。

 昼間なら俺達の周りは、狼に似た獣の亡骸とその血でかなり凄惨な光景に違いない。その獣の亡き骸を無視して俺達に近づいて来る。

 20m程に近づいたトラモドキにスラッグ弾を撃ちこんだ。

 大きな叫び声を上げて俺に突っ込んできたところを、エリーがMP-6を乱射する。

 先ずは1頭……。


 30m程のところでジッとこちらを見ているトラモドキに炸裂弾を撃つ。着弾と同時にくぐもった音が聞こえてきた時、トラモドキは軽い土煙を上げて地面に倒れた。

 エリーが反対側の2頭に銃弾を浴びせ続ける。

 10発近い徹甲弾を浴びて、2頭が倒れた。サングラス越しに見る周囲の動体反応が消えていく。

 かなりの数がいたオオトカゲは得物を持ってどこかに消えていた。


「終わったようだ。マガジンを交換してセーフティを掛けておけ!」

 エリーがマガジン交換をしている音を聞きながら俺もベネリに炸裂弾を補給しておく。


「凄かったね……。お兄ちゃんの剣を見たのは事故のがあってから初めてよ」

「咄嗟に使ったんだが、体が覚えてたみたいだ。ところで、密閉容器におまけは全て入れてあるのか?」

「適当に入れといたけど、同じ種類じゃないよ」


 このおまけも気になるんだよな。ライブラリーに無ければ結構なボーナスになるんだけど、それなら最初から……っ! そうだ。アナライザーとライブラリを繋げば良いんじゃないか? 教えてはくれなかったが、たぶん出来るはずだ。膨大なライブラリーでも、対象となる元素構成比の違い位であればそれ程容量を必要としないだろう。


「さて、帰るぞ!」

エリーが頷いたことを確認してバングルの帰還スイッチを押した。


・・・ ◇ ・・・


 鏡面から帰還した俺達を、ビニルシートの向こう側で数人のハンターが銃を構えてまっていた。俺達の後ろをしばらく見つめていたが何も起こらないことを確認して銃を下ろして去っていく。

 ひょっとして、俺達を追い掛けて来る獣を待ち受けていたんだろうか?

 そんな思いを浮かべながら、いつものように最初の部屋に入って採取したものと装備、衣服を脱いで次に進んだ。

 

 依頼を終えた後のミーティング室には、湯気の立つコーヒーの入ったマグカップとお姉さんが待っていた。


「最初の試練は無事に通過出来たわね。少し離れて状況を別のプラントハンターが見ていたんだけど、緊急介入するには及ばなかったと言っていたわ」

「……という事は、俺達を試してる?」


椅子に腰を下ろし、コーヒーを飲みながら呟いた。


「仕事と組み合わせてはいるけど……。半分ぐらいはあなた達の能力を試しているわ。この試練で6割はプラントハンターに制限が着くことになるの。新生代限定の採取になるのよ。これを超えると……」

「更に過去に遡れるってことですか?」

 お姉さんは俺の言葉に頷くことで答えてくれた。

 

 だが、大きな問題があることも確かだ。どうにか切り抜けたが、2人では無理だ。それにあのような開けた荒地では下手したら2人とも殺されてしまうだろう。


「更に時代を遡るとなれば、俺達2人ではどうにもならないでしょう。それに荒地での戦闘は避ける場所さえありません」

「その2つが理解できれば、試練を半年早く受けさせた甲斐ががあるというものだわ。

今後あなた達に上級プラントハンターを1人付ける事にします。背中を守る物としては探索車を使う事で対応できるでしょう。明日の1000時にバンターの部屋に上級ハンターを向かわせます。次の依頼の出発は明後日になります。3人で良く相談するのよ」


 ある意味、オンジョブトレーニングってことか? そうなると、次の課題はかなり特殊なものになるって事だな。

 俺達の前にスイっと差し出された封筒を受け取って、装備を受けたったところでミーティング室を後にした。

 既に真夜中を過ぎている。明日の1000時まで7時間もないんじゃないか?

 俺達は足を速めて自室に帰ることにした。

 

 次の日は、9時に起きてエリーと朝食を取る。

「どんな人が来るんだろうね?」

「教官の1人じゃないかな? そんな気がするな」

 

 試練を1つの課題って事にしてるんだろうな。危険だと判断したらすかさず介入できるように準備していたようだ。あの場所で夜を迎える事は予定されてたって事だろう。

 夜に対処できないプラントハンターなら、それなりに依頼を与えれば良い。たぶんそんな依頼だって多いんだろうな。早めにその区別を付けるって事なのかも知れない。


 俺の部屋で新たな仲間を待つことにした。既に0945時だから、もうすぐ現れるはずだ。

 1000時3分前、部屋の扉がコンコンと叩かれる。

 エリーがソファーから急いで立ち上がると、扉に向かった。

 ゆっくりと扉が開いて、そこに立っていたのは……。


「お姉さん(ちゃん)!!」

「数日ぶりね。元気だった? 私がバンター君達と一緒に行動するプラントハンターよ。レベルは22だから、あなた達よりは上級になるわ」


 最初はびっくりしたけど、よく考えればあの施設で俺達を指導するとなれば、プラントハンターが1番望ましいことは確かだ。

 エリーがレミ姉さんをソファーに案内して自分の隣に座らせている。


「あなた達が試練を越えたら私が合流することになってたの。シスターは結果も知らずに私をこの施設に移動させてくれたわ」

「俺達も心強いところですが、早速次の採取依頼を一緒に考えてくれませんか?」


 俺の言葉に、エリーがバッグから封筒を取り出した。

封を開いて出てきた依頼書は……。

 BC1億年。座標コードと採取するのは『レジネア』というシダ植物だった。



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