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PH-089 俺達の両親


 帰ろうとした俺を呼ぶ声がする。振り返ってギルドのホールを眺めると、奥で手を振ってる人がいるぞ。


「バンター、こっちだ! ちょっと来い」

 珍しいな。カレンさん達がいるぞ。手を振っているのは、トラ族のバクトさんだな。情報を仕入れるのも仕事だろう。片手を上げて了承を伝えると、奥に歩いて行った。


「しばらくだな。砦はどうなんだ?」

「結構いろいろあるみたいです。何かあれば逃げ帰って迎撃に徹すれば何とかできますからね」


「あの時は助かった。南がかなり危機的状況らしい。とりあえず薬草は手に入れるだけ送ってはいるが……、死んだ者が助かるわけではない」

「やはり、いつもとは異なると?」

「ああ、だが初めての事ではない。過去にも似た例があるようだ。王国の遥か南には森林と、草原がある。更に先は海があるぞ。

 森林近くはダイノスの版図だ。その南の草原は虫達の版図なのだが……」


 なるほど、そういう事か。

 虫の大量発生がダイノスを北に移動させるって事だろう。何が原因で大量発生するかは分からないけど、数十年のサイクルで今までも起こったらしい。

 そのために王国は軍隊を持っているという事だろう。他国の侵略よりも頻度的には高いんじゃないか? 防衛軍の維持だけ手一杯に違いない。攻撃軍を組織して他国に侵入しても、自国の防衛がおろそかになった場合は、悲惨な結末となってしまう。

 必然的に周辺諸国とは協調関係を保つことになるんだろう。一国だけを恐竜が襲うわけではあるまい。


「駐屯地を放棄するらしいぞ。南の町がダイノスとアルドス達の新たな防衛拠点となるらしい」

「となれば、この村からも徴兵があるんじゃないですか? でも、ギルドは何時もより賑わってます」

「星を持つ者は町からやってきていない。町から来た連中はダイノスやアルドスと戦った経験のない連中だ」

 

 バクトさんの最後の話は俺だけに聞こえる程に小さな声だった。

 戦える連中だけ残ったという事らしい。それだけ事態はひっ迫してるんだろうか?


「村の柵を広げたのは正解だったな。簡単な小屋を作って収容してるが、冬は大変だと思う。今の内から焚き木は集めさせてはいるのだが」

「問題は食料ですね。だいじょうぶなんですか?」

「幸いにも畑は柵で囲ってある。村に誘導できればそれなりに防衛出来るだろう」


 あまり先行きは良くないらしい。

 それでも、今のところは大きな問題は発生していないって事だろうな。

 その辺りの調整は筆頭ハンターのゴランさんが骨を折っているに違いない。カレンさんやトネルさん達も手伝っているのだろう。トメルグさん達の役割も気になるところだ。


 話を終えたところで、雑貨屋に向かい何時ものようにワインのビンを買い込んでトメルグさん達の小屋に向かう。

 北門の広場に近付くと、はしゃいだ子供達の声が聞こえてくる。

 今日は何を始めたんだろう?


「それ!」掛け声と共にサリーが投げたボールを、犬族の少年が受け止めて、攻撃に転じる。どうやら、ドッチボールを始めたみたいだな

 そんな子供達の姿を、簡単な屋根の下に設えたベンチで眺めている大人達がいる。

 よく見るとトメルグさん達もいるぞ。俺を見つけたシスターが手招きしてる。

 片手を上げて、ベンチで眺める大人達の下に歩いて行った。


「エリーが来ると広場が賑やかになるわ」

「本業を忘れているようですから、後で言い聞かせときます」

「いや、メリハリは大事だぞ。採取に向かわん時は遊ぶに限る。ほれ!」


 トメルグさんが渡してくれたカップには酒が入っていた。ちょっと口に含むと、ブランデーじゃないか! ゆっくり飲むに限るな。


「ワシ等の子供が生きていたなら、丁度あの位になってたかもしれんな」

「子供がいたとは知りませんでした」

「十数年前になるか……。事故でな。脳幹は生きていたらしいが、あれでは生きる屍だ。ギルドの懇願で、とある計画に差し出したんだが、その後でワシらが事故にあう始末だ。マリーの旦那はそこで別れてしまった」


 その計画ってディストリビュート計画ってことじゃないのか? だとしたら、エリーの父親はトメルグさんってことになるぞ。


「娘さんですよね……」

「そうだ。だが、なぜ分かる」

「何となく……。案外元気に暮らしてるかも知れませんよ」

「それは、あるまい。事故から生還したワシらも気になってギルドに確認しておる。ギルドのハンター墓地に埋葬されたそうだ」


 それが、俺とエリーの過去になるんだろうな。戸籍は抹消されたとの事だから俺もハンター墓地に入っているのだろう。

 改めて、俺達は戸籍を手に入れここにいるわけだ。エリーの親がこんなに近くにいるのに互いが知らないというのも不思議な話だ。

 レブナン博士とレミ姉さんに今後の事を相談してみるか。


 夕食はシスターの手料理をご馳走になる。

 俺達には無縁だけど、たぶんこれが家庭の味って事になるんだろうな。

 なるべく、トメルグさん夫妻にエリーを合わせてあげよう。そんなことを考えながらシチューを頂いて砦に戻った。


 食事が終っているから、砦に着くとエリー達がゲートオペレーターの女性達の所に向かった。どうやらテーブルゲームを楽しむらしい。

 まだ、打合せの時間には間があるが、集会場に向かうことにした。

 すでに数人が集まっている。ハンター達のようだ。アルビンさん以外に2人のハンターがテーブルでコーヒーを飲んでいた。


「早いな。お前もここに来い」

「その前に、コーヒーを入れてきます」

 コーヒーはいつでもポットで温められているが、砂糖は棚にある。マグカップにコーヒーを入れて砂糖をタップ栄入れて掻き混ぜてアルビンさんの横に座った。


「相変わらずの甘党だな。こいつが砦の専任ハンターだ。バンターという。こいつらは新しくやってきた、ウイルとケイナスだ。一緒に行動することは殆どないだろうが、顔を合わせるときは挨拶ぐらいしとけよ」


 どちらも若いな。ハンター成り立てじゃないのか? ウイルは背が低くて筋肉質だが、ケイナスはちょっと痩せ型で背が高い。俺より高いんじゃないか?


「それで、どうなんだ。こっちの過去は?」

「1千万年前と2千万年前の2回降下しましたが、最初はなだらかな草原、次は森林地帯でしたね。今度は南に移動して海を目指してみようと思ってます」

「1千万年前が狙い目だな。調査機で行けるだろう。2千万年前は、もう一度降下することになりそうだな」


 森林地帯は危険だとアルビンさんも思っているようだ。更に南に下がり、アルゴで降下することになりそうだな。


「僕達も過去に行けるんでしょうか? 薬草採取だけでは飽きてしまいます」

「そうだな。1千万年前には行けそうだが……、野外活動は命がけだぞ」

 大型の昆虫類を考えているのだろうか? それ以外に恐竜だっているんだから、かなり物騒な世界だぞ。


 そんな話をしていると、各部の連中が集まってくる。そろそろ定刻になりそうだ。

 最後にレブナン博士とレミ姉さんが揃ったところで、打合せが始まった。

 先ずは、レミ姉さんから、この世界の状況が報告される。


 飛行船による上空からの監視状況では、南の駐屯地がかなり怪しそうだな。駐屯地を囲んだ柵が何カ所か破れれている。駐屯地に入られたのか?

 あれだと、かなりの被害があったはずだ。薬草を欲しがるのも無理はない。たぶん2個大隊に増員されたのはその被害を穴埋めするためだろう。

最初から2個大隊なら良かったんだろうが、現場を見ない指揮官の資質が問われかねないな。兵力の順次投入は愚策以外の何物でもない。

 それで、南の町が砦化してるのも頷ける。だが、南の町で食い止めるとなると、穀倉地帯が大打撃を受けることになりそうだ。今年の税金と穀物の高騰が問題だぞ。


「以上の話は、この世界の人達で対応して貰うわ。少しは援助しても、私達が出来るのは、トメルグさん達を村に駐在させて村の東に護衛機を置くまででしょうね。

 私達本来の仕事は、この世界の過去に足を延ばそうとしているわ。1千万年前に調査機を送ります。これはウイルとケイナスに任せたいわ。

 2千万年前にバンター君達再度挑戦して貰う事になるわ。アルゴの改造の目途は立ったから、出来次第向かって貰います。

 アルビンには砦周辺の調査を継続して貰います。村が気になるから、場合によっては調査機を派遣するのも視野に入れておいて頂戴」


 若手では、恐竜相手はちょっと苦しいか……。アルビンさん、貧乏クジを引いたかな。

 チラリとアルビンさんの顔を見ると、やはり苦笑いしているぞ。若手の2人は目を輝かせているぞ。

 この世界の過去には俺達が最初ではあるが、ほとんど動いていないからな。2人の発見が多ければ、2人の功績が後々語り継がれるだろう。

 だが、無事に帰って来られるだろうか? 向こうの世界の生物史がまるで当てはまらないからな。

 その辺りをわきまえておかないと手痛い反撃を受けそうだ。

 出発前に、レミ姉さんが、注意はしてくれるだろうけど、どれだけ耳に入れられるかが問題だな。


 話が一段落すると、皆が集会場を後にする。

 レミ姉さん達は最後に集会場を出るのが何時もの事だから、俺はゆっくりと他の連中がいなくなるのを待つことにした。


「まだ帰らないの?」

「ちょっと、お話がありまして……」


 レミ姉さんが改めて俺達にコーヒーを運んできた。

 集会場に3人だけになったことを改めて確認すると、俺の疑問を聞いてみた。


「姉さん。トメルグ夫妻の娘がエリーだと、何故教えてあげないんですか?」

「あなたがシスターの息子だという事も教えていないわ」


 思わず、俺は目を見開いた。

 何だって! シスターが俺の母親?


「分かってたはずよ。でもね、すでに貴方達は人では無くなっているのよ。それでも、親子と名乗り合えるかと私達は考えていたの」


 俺とエリーが危篤状態になっても脳幹は生きていたらしい。だがすでに前頭葉からの脳波は全くなく、壊死の兆候さえ見え始めたとのことだ。

 極低温状態に保たれた俺達に、両親達は最後の別れをしたらしい。ギルドの為になるなら……。それは、俺達の生きた証を残すためだったのだろう。

 ナノマシンが大量に投与され、崩れつつある神経ネットワークを再び構築して、ハイブリッド頭脳による植物の分類作業を始めるつもりだったようだ。

 だが、それを始めようとした時、俺達は目を覚ました。



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