表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/103

PH-088 動けないのはつまらない


 エリーが上手く、炭化した木々の間に偵察機を着地させてくれたようだ。

 リネア達が偵察機の上部格納庫から無人機を飛び立たせた。2機で北に向けて飛ばしたから100km程北に行って東西に分かれるのだろう。上空1千mからの画像が次にやって来る調査機の円滑な運用を可能にする。

 偵察機の多機能センサーを作動させると、小型の生物がかなり森に潜んでいるようだ。探索レンジを最大にして中型の生物を調べると、数頭が確認できるが距離は200m以上離れている。小型の生物を狙っているのだろう。

 100mにアラームを設定して、偵察機の下部にある採取用器具を作動させる。直径30cm程の地面を根こそぎ採取するから、それなりに得られる情報はあるのだろう。

 それが終わると、多機能センサーの情報を確認する。

 温湿度、風向、森からの雑音……。色々と集められるな。先行偵察に特化しただけあって、色んなセンサーが付けられているようだ。


「偵察機に異常なし。燃料残量は12%。時空間ビーコンを確認。いつでも帰れるよ」

「リネア達の調査が終わったら帰還するぞ。森も静かなものだな。小型の生物を中型の生物が襲っているが、単体での狩りだから脅威にはならないだろう」


 群れを作って狩りをするのがいると厄介だ。

 アルドスやラプトル辺りはチラノサウルスよりも脅威度が高いと見て間違いない。

 俺達の持つ銃は、あまり威力は無いし、大型は連射出来ないからな。


 無人機の画像を眺めていると、大型の恐竜もいるようだ。たまにも森の木々から頭を出している。

 恐竜がいると言うのは理解できるんだが、大型の昆虫が俺の理解を越えているんだよな。遭遇したのは、アリと姿は確認できなかったがアリジゴクがいることは分かった。それ以外ののたぶんいるのだろうが、個体数が少ないのか、生息区域が異なるのか、いまだに遭遇していない。

 

「無人機予定コースの4割を飛行。残り1時間程にゃ」

「了解。早く終わりそうだな」


 とは言っても、1時間は長いな。

 ジッと、周辺の生物の動きを見守るしか無さそうだ。

 

 やがて、長い1時間が過ぎ去ると、無人機が自動で上部の格納庫に入ってきた。

 格納庫の保管システムが無人機をロックしたことをサリーが確認したところで、エリーは偵察機の下に時空間ゲートを作り出す。

 ゆっくりと偵察機がゲートに沈んでいくのが、窓越しの周囲の景色で分かる。

 ゲートを潜り抜けると同時に、ドシン! と砦の床に着地した。あまり、乗り心地が良いとは言えないな。

 いくら、仕事とはいえ、その辺りの事はもっと考えて欲しいところだ。


 出現したグリーンハウス内で機体の洗浄が始まる。これが終われば直ぐに出られるはずだ。今回は機体の中から出ていないから衣服を交換する必要すらない。

 時計を見ると、俺達が過去に行っていた時間は3時間に満たないようだ。

 

「終わったみたい」

「それじゃあ、これから会議だな。短時間の滞在だから、直ぐに終わるだろう」


 調査機のハッチに、タラップが接続されるのを待って俺達は外に出た。

 合成樹脂のトンネルが続いているから、そのトンネルの先にある扉を開く。

 すでに、2人が待っていた。テーブル越しに俺達が座ると、コーヒーが出される。

 アットホームな雰囲気で、先行偵察の様子を2人に話し始めた。


「森林地帯だったのね。1千万後には草原地帯に変わるのね」

「できれば湖沼地帯に行きたかったんですが、上空から眺める限りそんな風景はありませんでした」


 湖沼どころか、海さえ見えなかったからな。遥かに南って事になるんだろう。


「この世界の海は分かってるわ。海岸線の状態から古代の海岸線は内陸になると思ったんだけれどね」

「穏やかな造山運動って事になるんでしょうか? 生物の大量絶滅が無かったようにも思えますし……」


 そんな話し合いの結果。俺達の次の調査は、海の場所を探す事になった。

 更に南を目指せば良いだろう。更に高空からの降下を行う事になりそうだ。その為には、今回のような先行偵察機ではなく、更に推力を高める為の大きなイオンスラスターが必要になるのだろう。

 レブナン博士が、アルゴの改造を最後に俺達に伝えて会議は終了となった。

 

 車庫の片隅でタバコを楽しんでいると、ドリネン爺さんがやって来た。

 ベンチの俺の隣に腰を下ろしてパイプを取出して火を点ける。

 新しくやって来た俺達と同年代のハンターが6輪駆動車に乗り込んで南門を出て行く光景をぼんやりと俺は眺めていた。


「先行偵察機を使ったようだな」

「ええ。……ですが、あれはちょっと」

「あまり動きが取れないからな。降下して帰らなかったハンターが過去には沢山いたものだ。アルゴを向こうの世界に送ったぞ。次の降下はアルゴを使うことになるだろう。あれなら、降下後にも動けるだろうし、何と言っても武装がついておる」


 だが、岩場には適さないんだよな。草原や湖沼地帯、それに雪原なら十分な機動をするんだけどね。

 とは言っても、アルゴなら3日程度の調査には十分だろう。無人機を使えば広範囲の地図データを得ることもできる。


「出掛けるのは5日後辺りになるだろうな。村にでも遊びに行ってこい」

「そうですね。近場で薬草を採取してギルドに運んでみます」


 ヤグートⅢに戻ってみると、エリー達がボードゲームで遊んでいた。

 夕食には間があるから始めたんだろう。そんな3人を眺めながらインスタントのコーヒーを飲む。


「次の降下はアルゴを使うらしいぞ」

 俺の言葉に、3人がゲームを中断して視線を向ける。


「それって、違う場所に向かうの。アルゴは好きだけど、最初の降下で色々問題もあったよ」

「降りる時が大変にゃ。それにパラシュートを畳むのにアルゴから下りなきゃならないにゃ」

「その為に、向こう世界に戻したらしい。数日は掛かるんじゃないかな。その間は薬草採取を手伝うことになるかも知れない」


 とりあえず、エリー達に情報だけは伝えておこう。

 色々と準備もするだろうし、いつもエリーに任せているからな。


 その日の夕食後の会合で、この世界の生物の動きが活発化してきたことがレブナン博士から報告された。

 アルドスだけでなく、他にもこの世界の人間に危害を加える虫は多くいるらしい。その上、恐竜達の動きも虫達に触発されたように活性化しているらしい。

 

「バンター君達が、砂漠の都市から運んできた銃は全て売り切れたらしいわ。その上、王国軍から古い大砲までも供与されたみたい。前装式の砲身が短い代物だけど、話を聞く限りでは葡萄弾を使うらしいわ」

「護衛機は、まだ交戦には至っていないが、南の町には駐屯地を迂回した恐竜に2度程襲われている。駐屯地の部隊は2個大隊に増員されたようだ」

 

 前装式の銃で、どれほど相手出来るかが問題だな。2倍となっても、あまり期待はできないだろう。後ろの町の住民の精神的な支えになるぐらいだろう。

 

「辺境の町や村の過疎化が進んでいるらしい。王都にはかなりの数が流れているらしいが、生産拠点ではないからな。今年の食料品は値上がりするだろうとの話が村では囁かれている」

「村の人口も増えているんですか?」

「200人程増えている。村の縁故を頼ってやって来たらしい。ハンターも増えてはいるが、銃を持った者は少ないそうだ」 


 食客が増えたということだな。ゴランさんの畑を囲む柵は先見の明があったということだろう。穀物と獣肉があれば王都との商売は今まで通り続けられるだろうしな。

 

「西の村が私達のカモフラージュになることは間違いないわ。可能な限り援助したいけど、あまりにも武器レベルが異なるのが問題なのよ。万が一に備えて6輪駆動車を1台常に待機状態にしてるけど……。武装が貧弱だわ」


 小型で、機動力のある装甲車が1台欲しいということらしい。ある意味、アルゴが最適ではあるんだけどね。

 この世界の対応については、レブナン博士とレミ姉さんに任せておこう。警備員も増強されたみたいだし、砦については問題はあるまい。

 その後の話し合いで、俺達は周辺の薬草採取を請け負った。小型のシリンダーを持って行くように言われたけど、アナライザーでまだ採取されていない標本を集めるってことだろう。

 4輪駆動車を専用に出来るらしい。小回りが利くとエリーが言ってたから丁度良い。

 

 次の日。早速、エリー達と砦の周囲で薬草を探す。

 相変わらず薬草の依頼は多いようだ。それだけ、敵対生物が活発に動いているに違いない。


「昼食を終えて、一段落したら村に向かうぞ」

「なら、たくさん集めなきゃね!」


 3人は久しぶりに村に行けるのが嬉しいようだ。急に集める速度が速くなったぞ。

 リネア達も多機能センサーの使い方をマスターしたようだから、1時間程で交代しながら採取を行っている。

 後は、調査機の操縦を練習することになるのだろうが、まだまだ先の話になるんだろうな。


 昼食後にも採取を続けて、何とか100個以上集めたところで、村に向かう事になった。

 まだまだ日が高いから、エリー達は北門の広場で子供達と騒ぐんだろうな。

 それも、村の風物詩になってきたような気がするぞ。

 

 北門を潜ると、いつもの場所に4輪駆動車を停める。直ぐに村の子供達が集まってきたが、色んな種族の子供がいるな。分け隔てなく遊んでいるから、いつまでもそうして欲しいものだ。

 エリー達を広場に置いて、俺は通りを歩いてギルドに向かう。

 ギルドのホールには、いつもよりも人が多い。3つあるテーブルは満席だし、暖炉のベンチも満席だ。新しくベンチを増やしたらしく、テーブル席の脇にベンチが三角形に配置されている。


「人が多くなりましたね」

 袋から薬草の球根を取り出しながら、ミゼルさんに話し掛ける。


「町からやってきたハンターにゃ。レベルは低いけど、薬草は採取出来るにゃ」

「俺達も薬草採取をしてますが、問題ないでしょうか?」

「依頼はあるにゃ。どんどん町に運ぶにゃ。町で薬になるにゃ」


 報酬をカウンターに並べながらミゼルさんが教えてくれた。

 どう考えても30人程ハンターが増えている感じだな。増えたハンターが薬草を採取するなら1日で200個以上にはなるんじゃないか? それでも足りないって事はどういう事なんだろう。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ