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PH-084 たくさん集めよう!


 村人達は昨年の恐竜の来襲が今年もあると考えているようだ。ゴランさん達も、たぶん同じなんだろうな。柵を作っている理由はそんな所だろう。

 だが、遥か南の町のその先に、軍隊が駐屯するのであれば、ここまでは来ないんじゃないかな。それに最初の年は、そんな話もなかったし、どちらかというと北の森の恐竜を気にしていたようだ。

その為に砦まで作ったんだけど、あれを解体して見張り台と柵を作ったらしい。材料の有効利用という事なんだろうけど、ちょっと残念な気もするな。


 村の宿に2泊して砦に帰って来たけど、エリー達も村の子供達と十分に遊んだはずだから満足だろう。

トメルグさん達もそんな子供達を眺めて微笑んでいた。

 砦に帰るという日の昼食時には、シスターお手製の料理をご馳走になった。ハンバーグをサリーがお代わりしてたけど、ちゃんと余分に作っていたみたいだな。まるで自分の子供のようにリネア達に接してくれる。

 お土産に俺達が貰ったのは毛糸の手袋だった。まだまだ寒い日が続くから、ありがたく使わせて貰おう。


 ヤグートⅢの改造結果を確認しにエリー達は地下に向かったが、俺は集会場に向かった。レミ姉さん達が待ってるはずだからな。

 扉を開けると、すでに2人が俺を待っていた。

 テーブル越しに腰を下ろして、村の状況を説明する。2人の関心はやはり村の防備だな。


「一応、状況は分かったわ。これを見て頂戴」

 テーブル横に仮想スクリーンが展開されて、飛行船で撮影した画像が表示される。

 そこに映し出されたものは、大規模な軍の駐屯地だった。

 東西3kmに柵が作られ、その北側に300m四方の柵で囲まれた駐屯地がある。推定兵力は500人以上らしい。


「兵士が持っているのはハンターが持っている銃よりもバレルが長いわ。ほぼ全員が銃を持っているから、恐竜の大規模な侵攻にも対応できるでしょうし、ここに見えるバリスタを使えば大型恐竜にも対応できるででしょうね」

「でも、ゴランさん達は、それを考慮しても柵と見張り台を作っています。村の筆頭ハンターですから王国軍の動きはある程度分かる筈ですが……」

「あれでは足りないと考えてるんでしょうね。南の町もそれなりに防備を固めているわ」


 更に大規模な恐竜の来襲を危惧してるって事だろうか? 待てよ。昨年の砂漠の都市はアルドスと言う大アリの群れによって壊滅している。アルドスがやって来ることを憂慮しているのだろうか?


「母艦の護衛機を派遣するしか無さそうね。機関砲砲塔が2つにピストルポートが付いているから役立つはずよ。6人は砦の警備員を使いましょう」

「砦が手薄になりそうだけど、櫓に50口径機関銃を設置すれば何とかなるでしょう。それで手に負えない場合は地下に避難すれば良いわ」


 まるで戦争だな。護衛機の大きさは横3mで長さは10mらしい。チタン合金で軽量化を図っても重量は15tを超えると言うから、装甲車そのものだな。

 

「設置場所については、再度確認をした方が良いわね。バンター君に頼めるかしら?」

「ゴランさんの申し出を了承して、再度設置場所の確認ですね。場合によっては杭を打って貰いましょう。そこに設置するという事にします」


 俺の言葉に2人が頷いたところで、タバコを取り出し火を点ける。

 レミ姉さんが席を立って、カウンターに向かう。コーヒーを頼んでくれるのかな? 薪ストーブにもコーヒーのポットが乗っているが、調理場に頼んだ方が味が良い。

 やがて、マグカップ3個をトレイに乗せて姉さんが運んでくると、俺達にカップを配ってくれた。砂糖3個を入れてスプーンでかき混ぜる。

 久しぶりに美味いコーヒーが飲めたぞ。


「春には、旅に出られるわよ」

「となれば、1千万年程度で良いですか?」


 向こうの世界では新生代の後半になる。最初から大きく過去に向かうのはリスクがありすぎる。出来れば周囲500km程度を無人機で偵察して帰ってきたいくらいだ。

 標本採取をするにしても、調査機の周囲に限定すべきだろう。

 それだけでも次の調査行程を検討する為の情報がたくさん得られるに違いない。


「そうね。先ずはそれ位で良いでしょう。この世界、この時代は私達に任せて頂戴。トメルグ達も頼りになるわ」


 とはいうものの、砦の守備が一気に低下しそうだな。無人迎撃装置があっても、どれだけ頼りになるかは微妙なところだ。なるべく、短時間の調査をこなしていた方が良さそうだぞ。


・・・ ◇ ・・・


 少しずつ雪が解けだしたころ、砦に護衛機がやって来た。

 村に出掛けて、トメルグさんに銃弾を届けておく。トメルグさん達の使う銃弾だって必要だ。向こうの世界からの酒を何本か持って行ったのだが、銃弾よりも喜ばれてしまった。やはり、慣れた酒が一番だと言っていたが、ワインよりもアルコール度数が高いからじゃないのかな?

 ギルドで再度ゴランさんと俺達の機体を設置する場所を確認する。

 

「場所は、村から東に伸ばした柵の末端が良いな。トネリ達が村人と頑張っている。なるべく伸ばしたいから、草原から雪が無くなってからにしてくれ」

「分かりました。薬草採取を始める時で良いですね。砦から何人か常駐させる事を考えています。ドルティアならどうにか狩れるでしょう」

「十分だ。しばらくは持ちこたえてくれ」


 そんな話をして別れたのだが、帰りに見た柵は、丸太を組んだ立派な奴だった。厳冬期ならば恐竜の姿はないから上手く作れたのだろうが、村としてはかなりの出費になりそうだな。現状で村から東に1km以上伸びている。森もだいぶ小さくなったんじゃないかな。


 砦に帰ると、俺達の仕事は特にない。

 のんびりとアルビンさん達に混じって集会場で時間を潰しているが、エリー達はリネア達に射撃の練習をさせているようだ。

 リネアはカービン銃を持たせているが、サリーにも持たせたいらしい。確かに、22口径の拳銃では心許ないからな。

 

 いつの間にか、砦の広場にも雪が少なくなってきた。

 櫓で周囲を見渡すと、少しずつ緑の芽が伸びているのが分かる。後、10日もすれば薬草採取を始められそうだ。

 いつものように集会場でカードを楽しんでいると、レミ姉さんがやって来た。


「薬草の注文が入ったわ。『出来るだけたくさん』の一言よ。種類はヒラデルとポルネン。アナライザーを使って大量に採取して頂戴」

「了解だ。バンターと俺達で1日に200は採れそうだが、どれ位貯まったところで村に持っていくんだ?」

「1日間隔で良いでしょう。明日からお願いね」


 アルビンさんの質問にレミ姉さんが答えてる。

 となれば、準備だな。 

 大急ぎで、エリーに連絡してヤグートⅢに向かう。

 

「その2種類ならだいじょうぶよ。アナライザーの使い方はリネアに任せられるし、サリーに周辺を監視してもらえばいいもの」

 ある意味ローテーションが可能ってことだな。それなら都合が良い。


「で、射撃は上手く進んでるのか?」

「50mで70%、25mなら外れ無しだから十分でしょう」

 十分なのか? まあ、7.7mm弾だからな。それなりに使えるか。

 ヤグートⅢの銃架には真新しいカービン銃が1つ増えてるから、あれがサリーの使う銃なんだろう。

 

 「2人の採取ナイフも用意しないとな」

 「私達が最初に使ってたのを上げたよ。もう使わないでしょう?」


今、持っているのはピンセット付のナイフだったな。施設で用意してくれた品は捨てずに持っていたから丁度いい。服装はエリーが整えてくれるだろう。


 あくる日。朝食を終えた俺達は、お弁当とお茶を入れたポットを持って、今年最初の薬草採取に出掛けた。

 移動は4輪駆動車だ。砦から2km程東の林の中で採取する予定だから、小回りが効くほうがいい。


 エリーの運転で採取場所に着くと、素早く役割分担に従って行動を開始する。最初はエリーがアナライザーで薬草を見つけて、そこにリネアが蛍光玉の付いた針金を挿して行く。サリーは車体の多機能センサーを使って周囲の監視を始めた。仮想スクリーンだけではなく目視しているから、安心だな。背中にはしっかりとカービン銃を背負っているが、銃より先に大声で知らせて欲しいぞ。

 そんな光景を眺めながら一服を楽しむ。俺達の銃は車の銃架に乗っているが、拳銃は常に携帯しているから、不意を突かれてもそれなりに対処できる筈だ。


 一服を終えると、車の荷台からカゴを下ろして、薬草を掘り起こし始める。

 まだそれ程、茎や葉が伸びていないが薬草の効能部位は球根だから問題はない。

 次々と薬草を掘り出して、球根だけを切り取って行く。


 20個程掘った所で、蛍光玉の付いた針金をまとめて、リネアに渡してあげる。

 まだ、10本以上あるようだけど、無ければ後が困るからな。

 1時間程作業したところで、一休み。

 今度はリネアがアナライザーを操作するみたいだ。エリーが薬草を採取して、サリーが針金を挿している。俺は車の上で監視画像を眺めながら、一服を楽しむことにした。


 1600時近くまで作業を行い、たっぷりと球根を袋に積めて砦に戻る。

 夕食をアルビンさん達と一緒にしたが、アルビンさん達も沢山採取できたらしい。


「昨年は林で採取しなかったからだろうな。今日、1日で150はいってるぞ。明日の採取と合わせれば、2種類共に500はいくんじゃないか?」

「ですね。昼で砦に戻り、午後には村に向かいたいと思います」

「昼で、切り上げだな。了解だ」


 そんな話をしていると、保全部の連中が俺達のところに袋をもってやってきた。

 中を覗くと、薬草の球根だ。


「礼は、ワインでいいぞ」

 そんなことを言って去って行ったが、沢山仕入れて来ないといけないみたいだな。

「まあ、良いんじゃないか? 砦の連中だって飲みたいだろうしな。今度は樽で仕入れて来い」


 向こうの世界からもワインは届けて貰っているが、こちらの世界のワインの方が味が良いことは確かだ。やはり現地経済の活性化を促がす上でも、ワインを大量に仕入れて来るか。 そう言う理由ならレミ姉さんだって断ることはないだろう。

 春の薬草が大量に採れる時期ならば、俺達だってそれなりの見返りを受けても良いだろうしね。


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