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PH-083 雪解けの備え


 村の北門から4輪駆動車を村の中に入れると、トメルグさん達の暮らす小屋の隣に車を停めた。

 ソリを荷台から下ろしたところで、シートを車体に被せておく。そうしておかないと、1夜で雪に埋もれてしまいそうだ。

 そろそろ厳冬期の終わりが近づいていると言ってもまだまだ雪が降る日は続きそうだからな。

 外の物音に気が付いてトメルグさんが小屋から出てきた。

 俺達を小屋に招いてくれたので、直ぐにお邪魔して小屋の客になる。すっかり体が冷え切っているからな。


 シスターの勧めに甘えて暖炉の前に腰を下ろす。そんな俺達に微笑みながら、入り口に脱いだ防寒服を壁のフックに並べている。

 

「おもしろそうな奴を連れてきたそうだな」

「ゾアって言うんだよ。お話も出来るんだけど……、手紙のやり取りのような感じなの」


 トメルグさんがエリーの話を聞きながら笑みを浮かべているのは、何となく孫との会話を連想させるな。シスターもにこにこしながらカップにお茶を入れて俺達に振る舞ってくれた。


「まあ、そんな訳で3日ほど村に滞在します。レミ姉さんからこれを預かってきました」

 そう言って、テーブルにショットガンの弾丸を入れた箱を積み重ねる。

 

「預かっておこう。冬はそれ程必要としなかったようだ。だが、春になれば……」

 

 南から恐竜が群れでやって来るからな。トメルグさんがテーブルの弾丸を背中の戸棚に保管する。

 しばらく雑談をした後、俺はギルドに向かう。

 エリー達は、広場にやって来る子供達と一緒にそり遊びをすると言っていた。ギルドには俺だけでいいだろう。昼食時には戻ってくるようにシスターから言いつかって、俺は小屋からギルドに歩いて行く。


 村人が通りの雪を退けているのだろう。それ程積もってはいない。

 ログハウス風の家々の煙突からは煙が勢いよく出ているから、どの家も暖かなリビングで団らんしているんだろうな。


 ギルドの扉を開けると、ホールの暖炉傍にあるベンチに数人が腰を下ろしている。

 カウンターのレイドナさんに挨拶して、200発のカートリッジを渡す。どうやら、カートリッジが少なくなっていたみたいで、ほっとした表情を見せながら銀貨6枚を渡してくれた。ありがたく頂い手バッグに納めていると、レイドナさんが奥の暖炉を指差した。


「ゴランさんが呼んでますよ」

「ありがとう。挨拶してくるよ。状況も知りたいしね」


 カウンターから振り返ると、片手を上げてゴランさん達の所に向かう。

 カレンさんが席を詰めてくれたのでその隣に座る。


「久しいな。元気そうで何よりだ。他の連中は?」

「トメルグさんの小屋でシスター達とおしゃべりしてます。シスターの施設で俺達は育ちましたから」


「育ての親というわけか。ならお前達を心配しているだろう。元気な姿を見せれば安心もするだろうな。俺は早くに家を出たからな……」

「たまに顔を見せてやれ。王都で暮らしているのだろう?」

「まあ、そうだが。帰れば『まだ一人前ではないのか?』とうるさくてな」


 レイさんがゴランさんに弁明しているけど、その表情はやはり懐かしそうだ。次の冬には帰るかも知れないな。


「南の町は復興工事で大忙しだ。今年の雪解けにはあまりハンターが集まらないだろう。とはいえ、薬草の需要は昨年以上だ。場合によっては俺達も薬草採取に加わらねばなるまい。バンター達は専門だったな」

「それ程多のであれば、砦の人員にも手伝って貰いましょう。ゴランさん達には村人の守りと狩りに専念して貰いたいですね」


 俺の言葉を聞いて満足そうな顔を見せた。やはり自分達は狩りをしたいと思っていたようだ。だが、それを躊躇するような薬草の依頼というのはどういうことなんだろうか? そっちの方が気になるぞ。


「通常なら王都から薬草を扱う商人達がやって来るのだが、今回は薬剤ギルドの職人達が南の町に工房を作る事になっている。

 南の駐屯地にそれだけの需要があるという事だな。だが、南の町にもハンターはいるだろう。彼等は別の仕事をするということなのだろうか?


「町の南方に東西の柵を作るそうだ。町の連中はその工事で手一杯になる」

「その柵を迂回されると厄介ですね」

「村の南にも見張台と柵を作っている。北の柵も東に伸ばしている。トネリ達が村人を使って作業中だ」


「俺達は薬草採取だけで良いのですか?」

「これを見てくれ」


 ゴランさんが取出したのは地図だった。

 村を中心に描いているが、縮尺はいいかげんのようだ。だが、方向と概略の関係はわかる。

 その地図に村の西に作った見張り台と柵が描かれていた。村の畑をの南北に柵を伸ばして、村から2km程のところに見張り台という感じだな。


「村の西はこれで良いだろう。見張り台と柵の材料で、北に作った砦を解体したが、それは仕方がない。南の柵はお前達の砦の南の森から丸太を運んでいる。まあ、雪解け前には何とかなるだろう。

 お前達に頼みたいのは、村の南東に伸ばしたこの柵に、前にバンターが北門の広場に置いた荷車を置いて欲しいのだ。トメルグ殿の話では大型のダイノスさえ潰す事は出来ぬと言っていたのでな」


「俺達の仕事もありますから、即答は出来ませんが、砦で指揮官に相談してみます。常時1台ということであれば、色々と問題もありますからね」


 たぶん了承することになるだろう。だが、そうなると植物採取の計画が大きく変更される事態になりかねない。厳冬期で帰したハンターを再び呼ぶことになるんだろうな。

 俺の言葉にゴランさんが頷いたところで、後は近況の話が始まる。

 望遠鏡を渡すと、どうやらゴランさんは見たことがあるようだった。


「一度、テレストという道具を見せて貰ったことがある。遠くのものが真近に見える道具なのだが、それと同じなのだろう。

軍の高級士官が持っていたのだが、5本も貰って良いのか?」

「見張り台には必要でしょう。残りは北と南の門番に預ければ役に立つでしょう」


 カレンさんとレイさんは疑った目で望遠鏡を眺めている。

 そんな2人に1個ずつ渡しているところをみると、北門はトメルグさん達がすでに持っていると判断したようだ。

 カレンさん達が急いでギルドを出て行ったけど、太陽を見たりしないだろうな。

 その辺りの注意をゴランさんに伝えると、笑って聞いている。知っているということなんだろう。


「だが、北の洞窟に出掛けたとは思い切ったことをしたな。ダイノスが越冬していると聞いたことがあるぞ」

「確かにおりましたが、めずらしい植物を採取できましたから、行った甲斐はありましたよ。大きなホールが3つあって、そのホールに幾つかの洞窟が続いています。ダイノスの気配でそこには行くことは出来ませんでした」

「あまり、冒険はしないものだ。若さに任せての行動は、いずれつけが回ってくるぞ」


 先輩ハンターの言葉として、肝に銘じておこう。

 3日程村に滞在すると言い残して、エリー達の待つ、トメルグさん達の小屋へと帰ることにした。

 途中でワインを6本程購入しておく。色々と保全部には協力して貰ってるからこれぐらいはしておかないと次が無くなりそうだ。


 北門の広場に行くと、エリー達が村の子供達と何やら雪を集めている。トメルグさんと門番のおじさんや、村の男達も一緒になって雪を固めているぞ。


「バンターか。お前も手伝え!」

 俺を目ざとく見つけたトメルグさんが手招きしている。

 慌てて駆け寄ると、プラカードみたいな棒に板が付いたものを渡された。

 雪のボールが次々と子供達が運んで来る。それを積上げて斜路を作ってるという事は、ソリのコースを作ってるのか?

 エリー達が始めたのを見て、大人達が協力してるって感じだな。

 それなら、俺も手伝わねばならないだろう。バタンバタンと雪を叩いて形を整える。

 夕方に水を掛ければ硬く凍るはずだ。雪が融けてもしばらくは遊べるんじゃないかな。


 そんな工事を終えると、トメルグさんの小屋の近くに焚火を作って大人達でワインを酌み交わす。子供達は明日を楽しみに帰って行った。

 

「村の中なら安心して遊ばせることが出来ます。次の季節にはもっと早めに作ってやりましょう」

「いつも雪合戦じゃ可哀想だ。吹雪く時以外は外でなるべく遊ばせたいからな」

 

 そんな村人の言葉にトメルグさんは頷いている。

 確かに、子供を閉じ込めるのは考えものだ。外で遊べるならそれに越したことはない。

 

 一段落がついたところで、エリー達を連れて村の宿に向かう。

 トメルグさん達は泊まっていけと言っていたが、あの小屋は小さいからな。久しぶりに圧迫感のないベッドで寝たいという希望もある。


 村の宿は3軒だが、通りに面した宿を選ぶ。もう2つは季節限定の民宿だとゴランさんに教えて貰った。

 南の広場に近い場所に宿があった。1階が食堂兼酒場で2階に部屋があるらしい。

 扉を開けると、夕暮れ時だから結構な村人達が酒を飲んでいる。カウンターに行って、2泊したいことを告げると、すぐに部屋に案内された。

 案内された部屋は大部屋だった。ベッドが4つ壁際に置いてあり、部屋の中央には火鉢のような物が置いてある。


「夕食を食べてる間に炭を入れておきます」

「ありがとう。食事は宿代に入るのかい?」

「夕食と朝食が含まれます。この札をテーブルに置いてくれれば食事をお出しします」

 

 エリーと同じぐらいの娘さんは、この宿の娘さんなのかな?

 火鉢の縁の板に、木の札を置いて帰って行った。1人30Cの宿代は結構な値段だと思っていたが、食事込みならそれ程でもない。

 とりあえずは食事だな。結構動いたからお腹が空いたぞ。


 1階の食堂に下りて行き、空いているテーブルに座ると渡された木札をテーブルに置くと、すぐに食事が運ばれてきた。

 具沢山のシチューに丸い黒パンの夕食は、シチューだけでお腹が一杯になるほど量が多い。エリー達はパンを残してバッグに仕舞ったほどだ。

 小さなカップにワインが1杯の食後の酒を頂いて、エリー達は部屋に引き上げて行った。

俺一人残ってしまったが、もう1杯のワインを2C出して貰うと、タバコを楽しみながらチビチビとワインを飲む。

周囲の村人の話を小耳に入れながら、村の様子を確認するのも今回の俺の仕事に違いない。



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