表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/103

PH-080 バタフライ効果?


 ちょっと衝撃の出会いがあったんで、肝心の本業を忘れるところだったが、最後のシリンダーに洞窟を出たところの川底から水草を採取してお土産を揃えることが出来た。

 洞窟を出たので砦に連絡を入れると、大至急帰って来いとの指示だ。

 アルゴ船体下部のスクリューを使って森を東に抜ける。

 森を抜けるまでエリーに操縦をお願いして、少し横になる。食事は起きてからで良いだろう。


 5時間程経過したところで、エリーに起こされた。

 後ろの姉妹と一緒に食事を取っているが、どうやら夕暮れ時のようだ。あの洞窟にいったいどれぐらいいたんだろう? お腹がぺこぺこだぞ。

 俺も、レトルト食品を適当に温めて夕食を取った。


「今度は俺が操縦するから、エリーは休んで良いぞ。リネア達もだいじょうぶだ。何かあれば起こすからね」

 

 そう言っておけば安心して眠れるだろう。操縦が面倒な森はとうに抜けている。山裾で東に出たから、これからは雪原と化した草原地帯を走れば良い。

真っ直ぐ走りだけだから高度な操縦技術を要求されることも無さそうだ。

 最後にコーヒーを蓋つきのカップに入れて貰って、操縦席に納まる。エリー達がシートを倒して横になったのを確かめると、前照灯を4つ点灯させて南へとアルゴを進めた。


 早く帰れと言うからには、のんびり進むわけにもいくまい。機体下部のスクリューも使って巡航速度を上げる。雪明りで、かなりの雪煙を上げて進んでるのが分かるけど、振動はショックアブソーバーが上手く吸収してくれている。仮想スクリーンのナビ画面に表示される速度は時速40kmを越えている。とはいえ、砦までは200km以上離れているからな、5時間以上は掛かるんじゃないか?


 2時間程走らせたところで、一休み。コーヒーを飲んで背筋を伸ばす。ちょっとした休憩が眠気を抑えてくれる。エリー達は小さな寧息を立てて眠っている。このまま砦まで連れて行ってあげたいものだな。


 次の休憩は1時間後に取った。行程の半分を走り抜けたようだ。少し西に進路をずらして、ひたすらアルゴを走らせる。

 2時間程すると右手に雪化粧した立木が顔を見せる。その姿が進むにつれて大きくなってきた。ナビ画面を見ながら西に方向を変える位置を確認する。

 ナビが告げる合図に従ってレバーを操作してアルゴの走行方向を西に向けた。


 今度は林を進むからぶつからないようにしないとな。機体下部のスクリューを停めて左右のスクリューだけで進む。速度は遅くなるが操縦性は高くなる。

 数kmも走ると、それなりに操縦を覚えるな。エリーのようにはいかないけど、どうにか前方に立ちふさがる立木を右に左にかわしながら進んで行くと、砦の灯りが見えてきた。 

 南門の先に広がる林を抜けたところで、可動式照明灯を数回点滅させると門が開く。

 俺の操縦するアルゴはその門を目指して進んで行った。


・・・ ◇ ・・・


 車庫にアルゴをバックで停める。

「エリー、着いたぞ」

 そう言って、エリーを揺すると薄く目を開けた。

 大きなアクビをしながら伸びをする。


「ここは?」

「砦さ。リネア達を起こして、もう一度ヤグートⅢで眠ると良い。後は俺がしておくよ」


 エリー達とここで別れて、集会場に向かう。アルゴの電脳からゾアとの会話記録をバングルのライブラリーにダウンロードしてあるから、報告はこれで良いだろう。深夜ではあるが、保全部の連中がアルゴに内蔵された標本庫からシリンダーを下ろしてカーゴに積み込んでいる。そんな光景を見ながら一服を終えると、吸い殻を携帯灰皿に投げ込んで集会場の扉を開いた。


 煌々とした灯の下で、2人の女性が俺を待っている。

 テーブル越しに博士の前に座ると、レミ姉さんがコーヒーを運んで、俺達の前に並べてくれた。

 軽く姉さんに頭を下げると、砂糖を3個入れてスプーンでかき回す。

 博士の隣に姉さんが座ると、早速、博士達の質問が始まった。


「ちょっと、待ってください。先ずは、会話の文面を読んでください。一応砦にも送りましたが、正確に伝わったかが問題です」

「そうね。かなりの欠落があったわ。長文の伝送はノイズが問題ね」


 バングルを操作して、テーブルの横に仮想スクリーンを開く。俺達とゾアの会話記録が表示される。

 レブナン博士が端末を取り出し、俺のバングルから情報を引き出すと、仮想スクリーンを今度は端末を使って操作を行う。端末からスクリーンの文字をたどる機械的な声が聞こえてきた。

 

 その声と文字を2人がジッと見つめているから、その間は休憩できるな。

 暖かなコーヒーを飲みながら2人の表情を鑑賞する。


「おもしろいわね」

 長い交信記録を見終えたレブナン博士が、にこにこしながら俺にそう言った。こっちは早く眠りたいんだけど、そうもいかないようだ。

「やはり宇宙人なんでしょうか?」

「そうではないの。ゾアと言ったかしら、彼がその答えを説明してたわ。調査機の生体電脳だとね」

 レミ姉さんに説明してるけど、あれが電脳と言うのはね。俺だって信じられない。


「ゾアが外に出たいと言うなら、手伝ってあげたいけど……、次に出掛ける時に取引してくれない? 私達に協力して欲しいと」

「聞いてみますけど、どうやって運ぶんですか? そっちの方が大変ですし、運んできたとしてもどこで暮らしてもらうんです?」


 俺の言葉に2人が考え込んでいる。あの洞窟から出たいと言う望みは叶えてあげたいが、あの姿で動き回ったら問題だぞ。それに周囲の環境条件にどれ位耐えられるかが問題だ。高温多湿の環境が要求された場合は、何らかの閉鎖空間で過ごすことになりかねない。それはゾアも望まないだろうしね。


「でも、ゾアは直径3mの物体を持ち出す事で良しとしているわ。2つ考えられるわね。1つは、その物体がドローンと同じ機能を持って外部の情報を本体であるホールの奥のクラゲに伝える。もう1つは、3mの物体そのものがゾアだということ」


 基本的には退屈してるんだろうな。エリーの質問に喜んで答えてたように思える。

 となれば、俺達と同じようにドローンを放って外の情報を見るという事も考えられるのだが、ホールの奥から放ったのでは途中の恐竜達に食べられるって事だろう。そのドローンの運搬を俺達に頼むのも分かる気がする。奥まで来られたのだから出るのも可能だと判断できるからな。

 もう1つの本体そのものと言うのが俺は正しいんじゃないかと思う。元々は調査機の電脳が進化したクラゲだ。その中枢部は今でもコンパクトであっても不思議じゃない。


「向こうの世界で、移動容器を大至急作って貰うわ。それを持って、ゾアを運んでくれない?」

「良いですよ。でも、途中の2つのホールはかなりの大きさです。横穴もたくさんありますから恐竜達が冬越しをするのも理解できます。厳冬期の今でさえ洞窟内は20℃を越えていますから、それほど運ぶための時間的余裕はありませんよ」


「後どれ位続くの?」

「2か月位でしょう」

「1か月後に出発できるようにするわ。それまでゆっくり休養しなさい」


 2人に軽く頭を下げると、集会場を出る。

 すっかり朝になってるようだが、また吹雪いて来たようだ。車庫まで雪を踏みしめていくと、中にあるドラム缶の焚き火にあたりながら雪景色を眺めて一服を楽しむ。今年の冬は平穏だな。山の獣達もなぜかここまではやってこない。

 村の方も気にはなるが、シスター達がいるから安心できる。

 吸い殻をドラム缶に投げ入れると、保全部の居住区に隣接したエレベーターで地下の調査機の待機所まで下りて、ヤグートⅢに向かう。

 機内の俺達のベッドルームではエリーがすでに寝ていたけど、起こさないようにして隣に潜り込んだ。

 やっと、寝られるな。

 直ぐに睡魔が襲ってくる。


・・・◇・・・


 厳冬期の砦は静かなものだ。アルビンさん達は、1週間を池で過ごし、3日を砦で休養している。たまに風呂でのんびり浸かっているアルビンさんを見掛ける。

 たまに村で暮らすトメルグさんのところに荷物を届ける位だ。ギルドに寄るとゴランさん達が歓迎してくれる。ゴランさんとカレンさん達が交互に狩りに出掛けているようだ。常にどちらかがギルドの暖炉で待機している。


 今年の狩りはあまり獲物が少ないようだ。それでも手ぶらで帰るハンターはいないと言うから、皆優秀なハンターなんだろう。

 ラプトルの群れがやって来たからな。そのまま森に居残ったのかもしれない。


「やはり、南の町の南に駐屯地が出来たようだ。ここから馬車で3日程の距離だが、この村には影響がないだろう。毎年のように訪れる南から移動してくるダイノスを阻止するとのことだが、どこまで効果があるかは分からん」


 そんな事を言ってはいるが、少しでも効果があれば十分じゃないか。

 村の西に小さな見張り台を作って、畑を大きくしていると教えてくれた。見張り台と柵があれば北からの恐竜や獣を早期に見つけられそうだ。それだけ安心して畑作が出来るだろう。


 互いに近況を話て別れたが、今年の春も大変だろうな。少し生物全体の動きが活発化してきたように思える。

 ひょっとして、この世界に俺達がやってきたせいなんだろうか? 

 バタフライ効果と言う言葉が浮かんできた。これはレブナン博士と一度話しておいた方は良さそうだな。


 砦に戻ると、夕食後の打ち合わせの時に、その話をしてみた。

「そうね……。バタフライ効果と言う言葉は初めて聞く言葉だけど、バンター君の言う意味は何となく分かるわ。波及効果という事で良いわね」

「そうです。小さな蝶の羽ばたきが地球の裏側では嵐になる例えです」


「やはり、砦の縮小と村の3人を……」

「今更元に戻すことは不可能よ。始まってしまったんですもの。でも、規模を抑える必要はありそうね。これ以上の人材を増やすのは問題がありそうだわ」


「でも、この砦を起点としたこの世界の探索を続けるには、時空間ゲートの管理要員を増やさねばなりませんよ!」

「そうね……。警備員を減らして、春に戻るもう1つのハンター達と交代させばいいわ。実質的にはマイナスになるでしょう?」


 10人位減らすのか? それで、時空間ゲートの管理要員を増やすって事なんだろうな。この砦の組織を今一度見直す必要がありそうだ。

 待てよ、場合によっては警備をこの世界の住人に任せるという事も出来そうだぞ。

 その辺りについても相談していきたいものだな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ