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PH-077 北の洞窟に出掛けよう


「ちょっと変わったね?」

「ああ、少し踏破性を上げたんだ。それに機体強度も2倍になってる。100t近い荷重が掛かっても潰れないって言ってたぞ」


 俺達4人は、向こうの世界で改造されて送り返されてきたアルゴを眺めている。

 燃料電池の稼働時間は10日以上だし、10日分の食料や水も積んである。前回は殆どが携帯食料だったから、今度はレトルトを大目に入れてあるらしい。

 携行する標本収納シリンダーは中型を6本だ。先行調査だからこんなもんだろう。


 洞窟内の有毒ガスも考慮して6時間分の酸素ボンベまで搭載されている。そんな余分な荷物用の区画を作るため、後部は紡錘型から円筒型に変更されていた。

 丸窓1つがぽつんと開いているのがアクセントになるのかな?


「明日の朝食後に出掛けるぞ。準備は良いのか?」

「だいじょうぶだよ。ガスマスクも積み込んどいた。銃は1セットだけだけどね」

「十分だ。このアルゴは時空間ゲートを作れる。帰る時は砦に真っ直ぐだ」


 そう言って、アルゴに乗り込んで色々と確認しようとしているエリー達から離れて、車庫の片隅でタバコを楽しむ。

 車庫は北側にあるから、吹雪いても中に吹き込むことは無い。一面の銀世界を眺めながらドラム缶の中で焚き火をしながらコーヒーを飲むのも何となくアウトドアな感じがする。おかげでいつも数人がたむろしてるんだよな。

 ほいよ! と渡されたカップのコーヒーはいかにも不味そうな色をしてるんだが、こういうのは雰囲気が大事だからな。

 砂糖なしのコーヒーはそこが見えそうなくらいに薄い味だ。コーヒーの湯気越しに見る風景も中々だぞ。


「どうだ、改造の方は?」

「望んだ通りにしてくれました。明日出掛けてみます」

「うむ。ところで、電磁波の水中伝搬は知っているか?」


 どうやら、水をアンテナとして使うことが出来るらしい。微弱な電波になるようだが、池にいるアルビンさんの調査機で中継して貰うことが可能かもしれないとのことだ。それは試してみる価値があるんじゃないか!


「やってみます。ダメ元ですけどね」

「ああ、やってみるが良い。過去にも上手く使われた例があるそうだ」


 洞窟に入っても孤立無援じゃなければ心強い。物理的な増援は無理でも精神的に支えて貰えるからな。

 

 あくる朝。朝食を済ませた俺達は車庫に向かう。

 昨夜の内に、地下の調査機待機庫から地上に移動を完了させたらしい。

 同一世界での時空間移動も可能ではあるらしいが、極力控えているみたいだ。これも、パラドックスとの関係があるんだろうな。


「燃料は満載だ。前照灯が増えとるな。グレネード投射器は大げさじゃないのか?」

「洞窟相手ですからね。3つ増やしましたが、1つは可動式です。投射機にセットされているのはスタングレネードですよ。生き埋めにはなりたくないですから」


 そんな話を保全部の連中と話している間に、エリー達がアルゴに乗り込んで行った。

 早く乗らないと、文句を言われそうだ。片手を上げて彼等に別れを告げると、側面ハッチからアルゴに乗り込んだ。


「各部異常なし。機内温度25℃。燃料電池安定機動。……いつでも行けるよ!」

「それじゃあ、出発だ。航路はあの池に向かうまでは同じだ。巡航速度が少し上がっているはずだから、池の流れ込みを上って、適当な広場を探そう。明日は早めに洞窟に入りたい」


 ゆっくりとアルゴが車庫を離れる。

 左右のスクリューだけで進んでいるようだ。機体下部の固定式スクリューは草原地帯に出てから使うのだろう。

 砦の門を出て、100m程はなれたところで東に回頭する。数kmそのまま進むと、今度は北に進路を変更した。

 この後、100km近くは巡航速度を維持するのだが、機体下部のスクリューを起動させた途端に、速度が上がったのが分かる。改造前は時速30km程だったのが、10km近く上昇しているようだ。


「次の回頭ポイントまで3時間は掛からないよ。森に入ってから昼食にしよう」

「そうだな。後1時間程で運転を代わるぞ。森の中はエリーに頼むよ」


 以前アルゴで通った行路だ。少し時間が短縮されるが、池までは同じコースを取ろう。

 森に入って周囲の雪が少なくなったところで昼食を取る。

 エリー達は、サンドイッチにココアだが、俺はコーヒーだ。「甘ければ良いんじゃない?」とエリーが言っていたけど、それはちょっと違うな。ココアだとキレが無いんだよな。後で水を飲みたくなる。


 アルゴの屋根で一服を終えるのを待っていたように、機内に戻るとアルゴが動き始めた。

 木々を縫って進むから、下部のスクリューは止めてある。速度はあまり出さないけれど、2時間後には池の畔に到着した。


「アルビンさん達の調査機があるね。小型調査機は池に入ってるのかな?」

「そんなところだろう。調査機の近くに行って小休止だ。サリーネ、アルビンさんに連絡を入れてくれ」


 アルビンさんのパーティは4人組だから、2人が小型調査機で標本を集めてるのかな? サリーネの交信に答えてくれたのはもう一人の男性であるベンデルさんだった。


『アルビンは調査中だ。周囲に危険な奴はいないからゆっくり休んでいくんだぞ』

「洞窟に入る時に再度交信するにゃ。水がアンテナ代わりになるとレブナン博士が言ってたにゃ」


 そんな交信を行った後で、10分程度の小休止を取った。

 これからが、今回の冒険の始まりになる。


「行くよ!」の声と共にアルゴが池の中に入り、北部にある流れ込みを目指す。池の真ん中辺りに来てもアルビンさん達は見えないな。湯気が霧のように漂っているけど、300m以内なら動体センサーに反応がある筈なんだが……。西の方に行ってるのかも知れないな。それなら、センサーの範囲外になってしまう。


小川が流れ込んでいる辺りの水深は浅く、砂地になっている。キャタピラも潜りそうな水底を左右2本のスクリューが分けも無く機体を進める。


「小川の水深は1mも無いよ!」

「そうだな。それに思ったほど大きな石が無いな。どちらかと言うと砂地になる」


 と言っても、川底は生い茂る水草で砂地が見えない。左右のスクリューが巻きたてる砂で川底が砂地であることが分かる状況だ。

 小川の幅は5m程で、かなりゆっくり流れている。秒速20cm程度だろう。1分間の流量は6㎥と言うところだな。洞窟までの距離が長いから、源泉は100℃近いんじゃないか?

 エリーの操縦するアルゴの速度は早歩き程度だ。50km先の洞窟までは数時間掛かりそうだぞ。


「池から3km離れたよ。水温が少し上がってるみたい」

 池に流れ込んでいる温度は16℃だったが、この辺りで17度あるようだ。となると、今後生物に遭遇する可能性が高いぞ。


「リネア、動体センサーで周囲をよく見といてくれよ。水温20℃から40℃は動物の好む温度だ」

「了解にゃ。サリーと見てるからだいじょうぶにゃ」


 定時更新以外に役目が無いから丁度良いかもな。たまに外を眺めてるけど、片方が見ていてくれていれば問題ないだろう。

 小川にはそれ程霧が掛かっていない。池よりも水温が低いせいなんだろうが、遠方の見通しが悪いことも確かだ。

 夕暮れ近くなり、岸辺の平けた場所を探す。

 池と異なり、川辺まで木々が茂っているから、中々見つからなかったが、1時間程経過したところでちょっとした広場を見付けた。

 岸に上がった時には、すでに周囲が暗くなっていた。何故、広場があるかは分からないが、この時期に出歩く大型の恐竜はいないはずだ。

 

 夕食は、レトルトシチューにビスケットのようなパン。デザートにリンゴのような果物が付いている。

 食事が終わると、周囲の安全を確認して外に出てみた。機内空間は狭いからタバコが吸えないのが問題だな。

 コーヒーカップで手を温めながら一服を楽しむ。

 温水の流れる小川が近いせいか、それほど寒さを感じない。周囲の深い森が北風を防いでくれる。

 目的の洞窟にはあすの昼前には到着するだろう。入り口だけで高さ50m横幅が100m近くある。入った者が伝えた話では、恐竜が越冬しており、奥が明るかったという事だ。

 明るく見えたのは溶岩流の反射に違いだろうが、そんな場所なら有毒ガスが充満していてもおかしくない。そんな場所で越冬することが信じられないんだよな。獣なら危険な場所に近付かないと思えるんだが……。


 寒くなったところで機内に引き上げる。

 エリー達はサイコロゲームに興じていた。時間つぶしには丁度良いんじゃないかな。

 アルビンさんの調査機を経由して砦に現状を知らせたところで、座席を倒して横になった。


 調査行、2日目の朝は吹雪の中で迎えた。川の上を雪が舞っている。密生した木々がズサーっと積もった雪を枝から落としている。

 見通しは最悪だが、川を上流に遡ることは出来るはずだ。

 簡単な朝食を済ませると、アルゴを川に入れて上流を目指す。


 すでに、20km近く遡っているはずなのだが、川幅に変化はない。水温は19℃に上昇している。

 川底の水草は帰りに採取しよう。洞窟にどんな植物があるか分からないからな。

 相変わらずの吹雪で前方視界が50mもない。リネア達が監視している仮想スクリーンの動体センサー情報だけが危険生物の接近を知らせてくれるだろう。

 今のところは安全なんだろう。2人とも無表情でスクリーンを睨んでいる。


 小休止は川の中だ。流れが緩やかだから流されることも無いし、左右のスクリューがしっかりと川底の砂を噛んでいる。

 そんな小休止を利用して、操縦をエリーと交換する。1時間にも満たない時間だが、エリーは嬉しそうに助手席でコーヒーを飲んでいた。


 吹雪が小止みになってきた時、前方に黒々と口を開く洞窟が見えてきた。

 直ぐに雪が視界を妨げてしまったが、残り3kmも無さそうだ。

 昼食を早めに取って洞窟に入ってみよう。


 昼食を取る場所を探しながら上流に向かったが、そんな場所はどこにもない。

 いつの間にか洞窟の入り口まで500m程のところに来てしまった。

 仕方なく、レトルト食品を各自の好みに応じて温めて食事を取る。

 川の水温は34℃まで上昇している。この熱量なら、確かに洞窟内で凍えることは無いだろう。だが、長い冬をどう過ごすのだ。草食恐竜が食べる草が洞窟内に自生しているとは思えない。肉食恐竜なら草食恐竜を襲って食べることはできるんだろうけどね。



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