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PH-076 ディストリビュート計画の裏側


 アルゴの装甲能力を倍にして、胴体下部に固定式のスクリュウーをもう1つ作る。左右のスクリューの側面角度を±30度の範囲で可動出来るようにすることがアルゴの主な改造点だった。


「バンター君が行ってくれるならありがたいわ。あの池の植物は全て新種と言っても良い位よ。アルビン達が後を引き継ぐけど、それはギルドの裁量という事で諦めて頂戴」

「それはかまいませんが、良くもアルゴの改造が認められましたね」


「それだけバンター君を買っているということかしら? 私の申請がすんなり通ったわ。バンター君の依頼という事を添えただけなんだけどね」


 それだけなんだろうか?

 タバコに火を点けながら、考えてしまった。

 そのバックボーンに、ディストリビュート計画が見え隠れするんだよな。

 博士も、おもしろそうな顔をしてタバコを咥えている。

 

 そもそも、ディストリビュート計画は、ひん死の俺を使って行われたことは教えて貰ったが、レミ姉さんは幼い俺とエリーを使って実行しかけている。

 10年程度で再度行ったという事は、いまだに続いているんじゃないか? その計画をレミ姉さんは進化樹のミッシングリング探索と言っていたが、それだけではないような気がするぞ。

 ひょっとして、レミ姉さんが教えてくれたのは表向きの計画だったんじゃないか? ギルドはそれとは別のもう一つの計画を持っているんじゃないのか?

 更に、考えられるのは、その計画は終わったんだろうか? まだ、俺を使って進められているって事も考えられなくはないな。


「聞きたいことがあるんじゃなくて?」

「一応、あることはあるんですが……。果たして俺の問いに博士が答えてくれるかどうか。その答えの信憑性があるのかを考えてます」

 おずおずと話をする俺の表情を見て博士が微笑む。やはり予期しているって感じだな。


「すんなり通った理由として、バンター君が考えた理由はディストリビュート計画。次に考えたことは、ディストリビュート計画の現状でしょう?」


 俺に顔を向けたまま素早く眼だけで周囲を眺めている。コーヒーを一口飲んで話してくれた内容は、俺の想像した通りの内容だった。


 ディストリビュート計画は2面性を持っている。表向きはミッシングリングの追及と発見。その裏にあるのは……。


「平行世界の自由な探索よ。それも私達の世界だけでなく、いくつにも重なる多元宇宙への出口を見付けられる存在を探していた……。いえ、作り出そうとしたという事かしら」

 

 非人道的な実験はそれを探すためだったのか……。時空間ゲートが平行世界への出入り口となっていることは間違いないが、帰ってこなかったハンターのその後を調べても何も見つけられなかったという事だろう。

 別の連続した平行世界に向かったとしか説明できない事象なんだろうな。

 それがある程度の確率で起こることが分かった時に、並行世界ではなく、3次元的につながった他の平行世界への移動方法を模索したという事か……。


「バンター君とエリーの両親はそんな世界に出掛けて、初めてこの世界に戻ることができたハンターだったの。その子供達なら……」

「俺達の両親は現在も生存してるんですか?」

「ええ、生きてるわ。一度戸籍を失っているから表立ってあなた達に親として合う事は無いけど、ちゃんとあなた達の事を見守ってるわよ」


 そう言って、新たなタバコに火を点けた。

 だいぶ分かってきたな。となると、ディストリビュート計画は現在進行形という事になりそうだ。

 

「不幸かどうかは、私には分からないわ。でも1つ言えることは、それを逆に利用することも考えられるんじゃなくて?」

「おもしろそうですね。確かに、ギルドの意向に従うとしても、我を通すことはできるという事ですか?」


 俺の言葉にニコリと博士が微笑んだ。意外とそれを求めてるのはレブナン博士なんだろうな。とはいえ、確かにおもしろそうだ。どこまで要求を呑んでくれるかは微妙だけれど、ディストリビュート計画に係わりそうだと、ギルドの高官に思わせれば良いわけだな。


「という事で、1日に1錠よ。エリーにもね」

 大きなボトルに入ったカプセルをテーブルにドンと乗せた。300錠はあるんじゃないか? やはり、計画はレブナン博士がかなり係わっているとしか思えないな。

 となる、と先ほどの話の信憑性が気になるところだ。


「ひょっとして、レブナン博士の専門はバイオテクノロジーではなくて、ナノマシン工学ではありませんか?」

「フフフ……。当たりよ。博物学とバイオテクノロジーの博士号も持ってるけど、本当は工学が専門なの」


 これが、ディストリビュート計画の本当の姿なんじゃないか?

 博士の理論を実践するために、計画による波及効果の一部をピックアップして売り込んだに違いないな。


 今度は俺がニコリと博士に微笑みを浮かべる。博士も微笑んでいるから、はたから見ればかなり怪しい相談をしているように見られそうだ。


「少し分かってきました。来年の目標はこの世界の平行世界という事でよろしいですね」

「ええ、問題ないわ。その先は?」

「世界はどこまでも繋がっているはずですよね?」


 今度は互いに笑い声を上げる。

 ひとしきり笑ったところで、レブナン博士が新しいコーヒーを入れたカップを持ってきてくれた。

 互いにタバコに火を点けて、コーヒーを飲む。

 

 どうやら、計画をある程度まで確かめることができた。だが、それが本当かどうかはまだわからないな。計画自体が独り歩きしているようにも思える。ギルドの行う壮大な実験と言うよりはある意味冒険にも思えるな。それに、一度始めてしまった以上、途中で破棄することもできないんじゃないか? 結果と思われるものがある程度提示されると、その上を夢見るものだろうしね。

 過去の記憶が無い俺には、失うものとて無いのが実情だ。好きにやらせて貰おう。もっとも、エリーの意見は聞くことになるんだろうけどね。ギルにとってはジョーカー的な存在なんだろうな……。


・・・ ◇ ・・・


 アルビンさん達の調査機が、牽引車で小型調査機を運びながら時空間ゲートに消えて行った。

 北東の池の調査を10日間実施してくるらしい。

 貴重な発見がたくさん出て来るんだろうな。ちょっと羨ましくも思える。


「私達は、いつ出掛けるの?」

「後10日位掛かるんじゃないかな。色々注文を付けといたからね」

 それでも、あの改造を10日でするのは凄いと思うぞ。


「今度も池なのかにゃ?」

「いや、今度は洞窟なんだ。大きな洞窟なんだけど、中で恐竜達が越冬しているらしい」


 リノアが妹と顔を見合わせて首を傾げている。この季節に恐竜がいるとは信じられないんだろうな。俺だってそうだけど、村で聞いた話ではそうらしい。都市伝説ってわけじゃなさそうなんだけどね。どんな種類の奴がどれ位いるかは皆目分からないんだよね。


「銃弾は強力なのが必要だよね?」

「相手が相手だからな。だけど洞窟内で使う事を忘れないでくれよ」


 そんな俺の注文を聞き流して、リノア達を連れて帰って行った。ちょっと不安だな。大きな爆弾なんて注文しないだろうな。後で武器のカタログを一度じっくり眺めてみよう。

 レミ姉さんが俺の肩をポンと叩いて腕を絡ませる。

 姉さんもアルビンさん達の調査が心配なのかな? ここはコーヒーぐらい付き合ってあげよう。


 集会場の外は銀世界だけど、ホールの中は薪ストーブが暖かくしている。結構薄着でもだいじょうぶなんだけど、ヤグートⅣの住居に入るまでが辛いから、簡易防寒服を羽織っている。


「レブナン博士は秘密を話てくれた?」

「知ってたんですか? 答えはイエスともノーとも言えますね。かなり深いものがあることは分かりました。俺なりに考えてみましたけど、ちょっとその考えを否定したかったですね」


 コーヒーをふうふうと息を吹きかけて冷ましながら、俺の話に耳を傾けている。

 レミ姉さんはどこまで知っているんだろうか? 前に話してくれた事はギルドに対する表向きな計画のはずだ。


「でも、1つだけ覚えておいて。……パラドックスは覆せないのよ」

 

 レミ姉さんの言うパラドックスとは何だろう? 通常なら2人の自分であり、親殺しになるんだろうけど。

 ちょっと違う感じがするな。時空間ゲートに存在するパラドックスというのがヒントという事だろう。後でライブラリーを検索してみるか。


「かなり無茶な注文だったけど、ギルドはOKしてくれたから予定通り北の洞窟に行けるわよ。狙いは植物なの?」

「まあ、標本採取は付録と考えてます。俺には洞窟で越冬すると言うのが信じられません。一種類ならともかく多種が存在するとなると、それが可能な何かがあるってことになるでしょう。それを見たいと言うのが本音ですね」


「本当かしら? 眉唾かも知れないわよ」

「でも、行かなければ事の真相はいつまでも分かりませんよ。それがギルドの役に立つ可能性があるのなら出掛けるべきなのでは?」


 俺の言葉にレミ姉さんが力強く頷いた。

 ギルドには高尚な目的があるかも知れないけど、一介の俺達プラントハンターにはどうでも良いことじゃないかな。

 そこに興味があって、まだ見ぬ生物がある可能性があるなら、俺達は出掛けてみるべきだ。周到な準備があればレベルや経験は相殺できるはず。


「期待してるわよ」

 そう言ってレミ姉さんは去って行った。

 さて、それではさっきの言葉を調べてみよう。『パラドックスは覆せない』だったな。

 仮想スクリーンを開いて砦の電脳ライブラリーを検索する。

 

 先ずは『パラドックス』か……。難しく色々書かれているけど、要は矛盾しているか、あり得ないって事だな。となると、それはどうあがいても受け入れるしかないという事になりそうだ。

 俺は至って普通だからな。自分の能力や行動には限界があることを知っているつもりだ。つまりそこには絶対的な到達点があるという事だから、それを覆すことはできない。

 もっとも、想像力のようなものはどこまでも果てが無いと思う。夢に到達点を持ってしまっては人間お仕舞だからね。

 

 そうなると、現実的な矛盾は受け入れるしかないが、夢は持ち続けろとレミ姉さんは言ったのか?

 何か益々混乱してきたぞ。



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