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PH-070 南東の櫓


「トメルグ殿と同じ種族なのか? ゴラン殿が俺達を任せると言ったが、人間族ではと少し不安だったのだが、それなら分かる。たまにレイがトメルグ殿と打ち合っているがいまだに負け続きだからな」


 そんな事をしてるんだ。おとなしくしてると思ってたんだが、意外と活動的な爺さんなんだな。


「シスターにも勝てないにゃ。カレンさんが頑張ってるんだけど……」

「あの3人がいるなら、トネリ達も安心だろう。種族的には似てるから素直に指示には従うはずだ」


「やはり、種族間にしこりがあるんですか?」

「レベルの低い人間族のハンターは他の種族と行動を共にしないようだ。表だって嫌う素振りはないが、こんな時には問題だ。北門を守りに向かったのは、ほとんどが人間族だ」


 それで、俺達がここを守るという事に疑問を持ったんだな。個人的な好き嫌いはどうしようもないけど、それを外に向けるのはどうかと思うぞ。

 そんな話をしながら互いを確認する。戦闘になれば俺達は一つになって戦う事になるからな。少しでも相手を知ろうとするのはお互い様だ。


 いつの間にか、男達3人は近くに座って、パイプを咥えながらの雑談だ。エリー達は女性達5人で集まって、採取用のカゴにお菓子を山盛りにしてお茶のカップを持ちながらの女子会を楽しんでいる。


「見張りは立てなくて良いんでしょうか?」

「カレン殿の組が周囲を回っている。近づいて来れば教えてくれるはずだ。だが、夜はそうはいかん。交代で朝まで見張るぞ」


 ケイナムさんが俺を見て、心配そうに呟いた。

 ゴレムさん達はトラ族にネコ族だから夜の狩りも得意なんだろう。夜目は十分に利くって事だな。だが、俺とエリーは科学の目がある。十分に役立つと思うぞ。


「人間族なら役立ちそうもないでしょうが、俺とエリーならだいじょうぶです。闇夜でも1K(200m)位の気配を知ることができます」

「俺達を超えるのか? とんでもない種族だな」


 ケイナムさんが驚いている。

 気配に敏感なネコ族でも半K(100m)を超えることはあまりないらしい。そんな俺の言葉を聞いてゴレムさんが頷いているぞ。


 だんだんと夕暮れが近づいて来る。

 俺達のところに村人が鍋とカゴを持ってやってきた。

 どうやら、食事を持ってきてくれたようだ。俺達の働きいかんでは村人に犠牲が出ることを知っているのだろう。それで、臨戦態勢でハンターが村の守りに着いた時には、食事を出すのが村人の仕事になっているのかも知れない。


 ありがたく食器に野菜スープとハムを挟んだパンを受け取る。そんな村人にエリーがカゴのお菓子を両手ですくって渡してるぞ。甘いお菓子は珍しいからな。きっと喜んでくれるに違いない。

 

 食事を頂いていると、バクトさんが訪ねてきた。

 男性3人が慌てて食事を終えるのを待って、バクトさんが状況を話し始めた。


「トメルグ殿の話では、南西からラブートが近づいているらしい。距離は10K(2km)程らしいが、今ではもっと近づいているぞ。群れの数は100近いとのことだ。更に、南からもデ・ラブートが同じぐらいやってきているそうだ。デ・ラブートの移動が極めて速いと言っていたが、中型ダイノスに追われているやも知れん」


「200を超えるラブートを相手にするのか? なるほど南方の町が壊滅したのも頷ける話だ」

「南門の狭間には村人も集まっている。始まったら状況を見てカレン殿がハンターをここに増援してくれるはずだ」


 砦も襲われたんだろうか? 大型の銃があるから、早々柵を破られることは無いだろうけど、こっちはハンドガンが主流だからな。場合によっては白兵戦になりそうだぞ。

 俺の肩を叩いて、ゴレムさんが暗闇に消えていった。

 これは、面倒な事になりそうな気がしてきたな。


「エリー、戦闘準備をして待機していた方が良さそうだぞ!」

「分かってる。リネアとサリーネも準備はできてるよ」


 エリーが装備ベルトの弾薬ポーチをポンポンっと叩いて教えてくれた。ネコ族の姉妹も俺を見て頷いてくれる。


「長尺の銃だな。期待してるぞ」

「俺達も初弾は込めてある。いつでも撃てるぞ」

 

 ゴレムさん達男性2人が銃を持っているんだが、例によって青銅製の銃だ。良くもこんなんで撃てるものだと感心していたのだが、レブナン博士によると一種の超常兵器らしい。

「魔道具と言うのかしら、強度を高めているのよ。発火原理はこの魔石の組み合わせなのは分かるんだけど、何故そうなるのかは理解できないわ」

 なんて言ってたからな。

 少なくとも数発は続けて撃てるんだろう。でないと、クロスボウの方が遥かにマシだからな。


「相手がダイノスだから、櫓の上でもパイプを使えるぞ。バンター達が最初で良いか?」

「4人で良いんですか?」

「小さな姉妹を見張りに出すわけにもいくまい。3時間を頼む」


 この世界の時間経過は、夜なら星の動きなんだろうな。それを計る機械をトメルさんが見せてくれたが、ゴレムさん達も持っているようだ。


「それでは!」と2人に頭を下げると、エリー達に見張りに出ることを伝える。嬉しそうに俺より先にハシゴを登って行ったから、ゴレムさん達が笑ってるぞ。

 櫓の屋根は柵の反対側を高さ1m位の手すりが付いている。落下防止対策だろうけどこれなら安心できるな。

 2個の木箱とベンチが1個柵の傍に置いてある。長時間の見張りは疲れるから座って行うんだろう。直ぐにエリー達が箱を移動して座ったぞ。

 

「遠くに見えるね。でも動かないよ」

 確か400m程度だと言っていたからな。俺も東の銃眼から外を眺めると、確かにラプトルが集まっている。横に広がってはいるが、近付いて来る様子はない。南からも来ると言っていたが、そっちはまだ姿は見えないな。

 ポケットからサングラスを取り出して、仮想スクリーンを開く。南からのダイノスの進軍は2km程先だ。すっかり日が暮れているから見るのは困難だな。


「南のラブートは2K(400m)程のところで停止してます。南には姿もありません」

 櫓の屋根の端まで行くと、下の連中に教えてあげた。


「了解だ。ラブートが動いたらすぐに知らせてくれ。俺達は横になる」

 この状況で寝られるのも凄いな。だが、いつやって来るか分からないなら今の内に体を休めることも大切な事だ。

 

 とりあえずサングラスの視界を透明にして、タバコを咥えると火を点けた。

「寒くないか?」

「平気だよ。リネア達もだいじょうぶだと思うよ。寒くなればポンチョに包まれば良いしね」


 エリーとリノアは銃を背負っているし、サリーネも22口径の銃のホルスターを開いている。小さいけれど、バレルは長いから命中率は良さそうだ。頭を狙えば少しは効果があるかも知れないな。

 俺も、ストックとバレルを切り詰めたショットガンを手に取るとカシャリとスライドを引いて、初弾を装填しておく。その上で弾倉に1発のスラッグ弾を入れれば、6発を撃つことが可能だ。

 右ポケットの中には、簡単な弾帯が縫い込んであるから、垂直に5発の弾丸が入れてある。後は弾丸ポーチの中にある12発が頼りだな。左ポケットにも少し入れておくか。

 魔法の袋からショットガン12発入りの弾丸を入れた箱を取り出して入れておく。


 そんな事が終わったところで、二重構造のポットを取り出して、インスタントコーヒーを入れる。途中からエリーが代わってくれた。

 差し出されたシェラカップのコーヒーを飲みながら東を眺める。

 やはり動きが無いな。このまま諦めてくれれば良いんだけどね。

 

「お兄ちゃん。南に動きがあるよ」

 エリーの言葉に、仮想スクリーンを開いて周囲の状況を見てみる。

 なるほど、デ・ラブートの群れが大きく広がりながら北上しているぞ。

 

「どうやら、この2頭を追っているんじゃないかな?」

「たぶんそうだろうな。で、これは?」

「トリケラだよ……」


 それって! まさかだが、柵にトリケラを体当たりさせるつもりか?

 もう一度、画像を眺める。

 確かに、デ・ラブートが2頭を追い立てるように遠巻きにしながら進んでくるぞ。

 トリケラトプスを倒せるとなれば、俺の対物狙撃銃かトメルグさんの長バレルの対戦車ライフルぐらいなものだろう。

 北門の方は……。周囲に変化はないな。ここはトメルグさんに任せるか。


「エリー、トメルグさんに南門でトリケラを倒して貰えるように頼めるか?」

「うん、良いよ。シスターに頼んでみる」


 何もない空間にエリーの指が踊っているように見えるのは、メールを送ってるんだろう。後はトメルグさんの判断に任せれば良い。


「どうだ? 変わったことは無かったか?」

「東は動きませんね。南はちょっと物騒かも知れません。デントスのようなダイノスをデ・ラブートがけしかけています」

「ゴラン殿は大変そうだな。俺達は救援依頼が出るまでは、この場を動かない方が良いだろう。俺とラザミーが代わる。ゆっくり休むが良い」


「2人でだいじょうぶですか?」

「心配するな。何かあればこれを使う。大きな音がするから熟睡してても起きられるぞ」


 ポケットから取り出したのは、あの手榴弾モドキだ。確か爆裂球だったな。俺も1つ貰ってるから、使ってみるべきかもしれない。

 焚き火の傍に戻ると、ポットのお茶を飲みながら、ポンチョを取り出して毛布代わりにシートに敷いておく。


「トメルグさんが南に向かったみたい。北にはシスター達がいるからだいじょうぶだよね」

「柵を破られない限りだいじょうぶだろう。1年で銃の数は倍になってるしな」

 

 そんな話をしていると、リノア達はすでに眠りについたようだ。

 俺達も横になろう。明日は色々ありそうだからな。


 ドドォーン! という音に目が覚めた。

「エリー、先に行くぞ!」

 ショットガンを背中に担いでハシゴを登る。エリー達も慌てて飛び起きたようだ。

 すでに、メディさん達は櫓の上のようだ。


「来たな。あれが見えるか?」

 ゴラムさんの指さした先にはずらりと並んだラプトルの群れが見えた。100頭どころじゃないぞ。どこから来たんだろう。


「凄い数ね。これだと……。こっちの方が良いかも!」

 エリーがAK80を止めて、MP-6に替えてるけど、それってあまり威力が無いんじゃないか? まあ、弾幕は張れるけどね。



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