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PH-007 休暇の過ごし方

 戦闘服を着替えてシャワーを浴びるのは前回通りだ。

 俺達が最後のミーティング室に入ったときには、マグカップのコーヒーの香りが満ちていた。

 

「ご苦労様。あの毒蛇はライブラリーとの比較で40%だったわ。担当者が喜んでいたわよ。戦闘服にヒルが1匹付着してたわ。それもちゃんとあなた達の評価に加わるから、悪いことにはならないわ」


 異物をそれだけ恐れてるってことなのかな? 過去に何があったか知りたいものだ。


「群れる敵対生物は問題ですね。群れが大きければ俺達も危ないところです」

「プラントハンターがむやみに生物を殺すことは禁じられているわ。でもその基準がかなり曖昧ではあるわね。過去に持って行ける個人装備の銃は2種類。2人でパーティを組む貴方達には適正な組み合わせだと思うわよ。手榴弾は2個まで携帯できるわ」


エリーがうんうんと頷いてるから、次は2つ持っていくつもりだな。

お姉さんも元プラントハンターだったらしく獣への対処の仕方を話してくれたのだが、かなり危ない目にもあったようだ。


「次の依頼はこれだけど、この依頼が終れば2日間の休養を取れるわ。12件を終えると休暇が10日になるから、王都で遊べるわよ。でも2日間は施設内で過ごすことになるわ」


 潜伏期間ってことなのだろうか? 何事もなく残り10件の依頼をこなせば一休みできるってことだな。

 装備が帰って来たところで、ミーティング室を後にする。また、夕食後にエリーと依頼の中身を確認すれば良い。


 次に俺達が採取するものは、海草の一種らしい。

 エリーが仮想スクリーンを拡大して、海草が生えている場所を確認している。

 だが、その場所はそう見ても潮溜まりにしか見えないな。引き潮になった時に採取することになりそうだ。時空間ゲートの誤差が10時間というのはこんな時に問題になりそうだ。上手く引き潮が始まった頃に到着すれば良いが、最悪次の引き潮を待つことになる。


「付近の危険生物はこんな感じよ」

スクリーンに20種類以上の生物が表示された。三分の一はクラゲのような生物だ。甲殻類と貝が数種類、毒を持った海草もあるようだな。海鳥も大きな奴がいるようだし、トドに似た水棲動物も群れだとちょっと問題がありそうだな。


「クラゲが多そうだから、厚手の防水された手袋がいるな。引き潮時に採取するが時間が分からない。ライトも用意しなければなるまい。後は、少し柄の長いこんな道具があればいいんだが……」


 簡単なマジックハンドを部屋で見つけた筆記用具に描いてエリーに見せる。

 今度は少し長時間の活動になりそうだから、最初にエリーが探したのはナップザックと数種類の密閉容器だ。

 水中を覗く潜望鏡のようなものまで買い込んでるぞ。長さが2mにも伸びて、自由に曲げられるらしいから意外と重宝するかもしれない。

 マジックハンドもカタログには何種類かがあるようだ。先端が握れるタイプと鋏になっているものの2種類を買い込んでいる。長めのピンセットとトングはやはり必要なんだろうな……。


「後は、弾丸を購入するけど、お兄ちゃんは?」

「そうだな。今日、だいぶ使ったから10粒弾を1箱欲しいな」


 問題はあのトドに似た奴だ。俺達の持っている銃で歯が立つんだろうか? かなり皮下脂肪が厚いだろうから、弾丸を止めてしまうんじゃないか?

 

          ・・・ ◇ ・・・


 どうにか依頼を達成して、最初の2日間の休暇を貰った。

 採取そのものは簡単なのだが、採取する時代と場所が問題だ。草木を採取する簡単な仕事かと思ったが、それはやはり大きな間違いだったようだ。

 俺達と同時期に教育を受講した十数名の内、1人が亡くなっており3人が怪我をしてプラントハンターの道を閉ざされたと、お姉さんが教えてくれた。

 

「お兄ちゃんがいるから安心だよね!」

 エリーは、そう言って微笑んでいるけど、俺を兄と慕ってくれる彼女を守らない訳にはいかないからな。戦闘服を通しても、噛み傷が残っている腕を見るたびにそう思う。

 名誉の負傷を何回か受けてはいるが、携帯用の医療キットで処置できる程のものだ。

まあ、これぐらいで済むのなら良かったと思わざるを得ない。サーベルタイガーは素早かったし、狼達の大群を相手にしたこともあったからな。


 この施設にやって来て2ヶ月近く経ったころ。俺達は無事12件の依頼を無事こなして、長期休暇を得ることができた。

 この休暇に合わせて給与を俺達の口座に振り込むらしい。

 給与は依頼件数と驚いたことに、ついでに採取してきた資料によっても変わるらしい。依頼1件は3万L、ライブラリーに未登録の植物等を採取した場合は1万L、ライブラリーと70%以下の類似品を採取した場合は2千Lが上乗せされる。

 俺達の成果はライブラリー未登録が9種、70%以下の類似品が6種になっている。ボーナスみたいなものだが、合わせて102,000Lだから、〆て402,000Lってことになるな。俺達に税金は掛からないが、教団施設への1割寄付が自動的に行われる。

 

「買い物はいつでもエリーがやってくれるから、俺の口座には10万Lをキープしておいてくれれば良いよ」

「分かった。私が管理すればいいのね」


俺の部屋で次の依頼の内容を確認しながら、休暇の過ごし方を相談する。

そういえば、教団施設で世話になったお姉さんが連絡をくれと言ってたな。エリーに確認すると、王都で合流する計画が既にあるらしい。まあ、王都がどんなところかも分からない俺だから、エリーに任せておけば安心だろう。


それよりも、次の依頼が問題だ。今までは300万年を越える事はなかったが、次は500万年程さかのぼる。荒地に生える草の球根らしいが、周辺の草と見分けがつかないぞ。

アナライザーの改良型を貸与してくれるらしいが、それでも直径1mの範囲での分析らしい。かなり時間が掛かりそうな気がするぞ。

荒地だとすれば狼の祖先になりそうな連中も出てくるだろうし、小型の草食獣を狩る肉食獣の種類も多くなる。場合によっては夜を迎えることも可能性として検討すべきだろう。

担当のお姉さんの話では、長期休暇後に最初の試練が待っているということだが、最初の依頼だって簡単ではなかったんだよな。


「閃光手榴弾と火炎手榴弾もあった方が良いよね。私はマガジンを全て徹甲弾にしておくわ。マガジンポーチをもう1つ買わなくちゃ」

「荷物が増えそうだけど、持てるのか?」

「だいじょうぶ。大きなのはおにいちゃんに任せるから……」


 このまま採取活動を進めていくと、その内一輪車で荷物を持って行くことになりそうだな。採取活動が24時間程度なら荷物を背負えるだろうが、数日となればそうなりそうだ。何か上手い方法があるんだろうけど、まだ教えて貰ってないな。

 2人でいくら考えても、良い手は浮かんでこない。やはり、地道に探すしか手がないってことだろうな。


 のんびりと体を休めて、3日目に王都に出掛けることになったのだが……。俺達はプラントハンターとして現役であれば、常に戦闘服で良いし、武器携帯を許可されると言うことだ。何かあれば王都の警邏隊に一時組み込まれるというから物騒な話だな。


「私も357マグナムだけだから、お兄ちゃんも44マグナムリボルバーで十分だと思うよ。ベネリはいらないと思うな」

 そんなエリーの言葉に、装備ベルトからナイフやポーチを外してリボルバーとバッグだけにしておいた。

 居住区の屋上に向かうと、垂直離着陸機が待機している。出発時間には間があるが、既に何組かの乗客が席に着いていた。


 定刻の0900時に機体は王都に向かって出発する。垂直離着陸機の定期便が毎日運航しているらしい。

 1時間も掛からずに摩天楼の立ち並ぶ一角に機体が降下を始めた。かなり大きなビルだけど、俺達とどういう関係があるのだろう?

 ビルの屋上に着陸すると、乗客が次々と機体から降りてビルの中に入っていく。俺達も、彼らの後を追い掛けるようにしてビルに入って行った。


屋上の1フロア下に大きなエントランスがある。機体を降りた連中と一緒にゲートで審査を受ける。指名とギルドのTAGの確認、最後に網膜パターンを記録してゲートを通過する。

ゲートの出口には、たくさんの椅子が壁際に並べられていた。ちょっとした待合室にも見えるな。

 そんな中、俺達に向かって手を振って近づいてきたのは……。

「レミお姉ちゃんだ!」

 エリーが駈け出して、レミ姉さんにハグして貰ってる。寂しかったのかな? 意外と甘えん坊のところがあるからな。


「バンタ―君、久しぶりね。似合ってるわよ」

「こちらこそ、色々とご迷惑をおかけしました……」


俺の返事を聞いて、少し顔を曇らせる。俺の記憶が戻っていないことに気が付いたようだ。


「時間はたっぷりあるわ。どこに行くの、お姉ちゃん?」

「そうね。先ずは、あなた達の活躍を聞きたいわ。このすぐ下にカフェがあるの。そこでお話を聞かせて頂戴」


 エリーとお姉さんが手を繋いでエレベーターに向かう後ろを付いて行くのだが、俺達の話を聞きたがるのに奇異を感じた。

 まさかとは思うが、教団の施設ってプラントハンターとなるべく人間を養成しているんじゃないだろうな?

 たった3日間だったが、最後に教官が言った言葉も気になる。『教団の秘蔵っ子……』それはどんな意味なんだ?


 カフェの窓際の席に座ると、早速コーヒーを注文する。

 運ばれてきたコーヒーは採取が終わってミーティングをする時に味わうコーヒーよりも香りが高い。

 そんなコーヒーを飲みながら、エリーが小さな仮想スクリーンを開いて、採取の説明をしている。


「頑張ってるわね。施設からもだいぶプラントハンターになった人達もいるんだけど、やはりバンター君達は別格ね」

 そんな話をエリーにしている。やはり、俺達の成績を確認するのが目的のようだ。ある特殊技能者達を育成するには、育成しているだけではダメなのだ。その結果を育成課程にフィードバックすることで、より一層の成果が期待できる。

 

「そうだ! 1つ気になってたんですが、採取に持ち込む荷物が増えた時にはどうするんですか? 聞いたことがあるなら教えて頂けると助かります」

「最初の試練があるのね。まだそれぐらいなら装備ベルトで持ち込めるでしょうけど、来年には持てなくなるのは確実だと思うわよ。あなた達の先輩達がそうだもの……。その時は専用の乗り物が用意されるわ。楽しみにしてなさい」


 俺を見ながら笑い顔で話してくれたけど、目は笑っていなかったな。

 俺の疑問に答えることで、俺の疑問裏にあるものに気が付いたみたいだ。


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