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PH-066 砦に避難してきたハンター


 少し早い夕食を頂いて、砦に戻ると2000時の各部署の代表との打ち合わせまでは暇になる。

 エリー達は、車庫で保全部の連中と一緒になってボードゲームを始めたようだ。レミ姉さんも一緒になって騒いでいるのが問題だな。俺よりはるかに年上の筈だぞ。


 ヤグートⅢに戻って、新しい調査機の概念図を描く。

 設計概念と簡単な絵があれば十分だと言っていたが、本当にこんなんで良いのかな?

 やっと仕上がった図面は我ながら画才が無いと考えてしまう物だったが、要は思想を上手く伝達できるかという事だろう。羅列した諸条件と図があれば、優秀な設計者なら理解してくれるんじゃないかな?


 ファイルに纏めて、レブナン博士当てに送っておく。これで、反応を待つだけだな。

 作業が終わったところで、周辺の状況を見てみる。周辺50kmの範囲は6時間おきに赤外線反応と動体反応の情報が表示されているし、20km以内は2時間おきの情報だ。

 これを元に標本の採取を行う事になるのだが、砦の周囲1km圏内の調査で残っているのは北側のみだな。林から森になる北側の調査は、今日の仮想スクリーンに表示される赤の輝点を見てもリスクが多いのが分かる。

 足の速い小型の恐竜がたまに砦に近付いて来るみたいだ。この区域の調査はちょっと考えないといけないな。

 となると、東西に広がる草原と南の草原だが、南の森には結構な数の恐竜が滞在しているみたいだ。

 多くは草食恐竜なのだが、近付くのは危険だろう。それに草食恐竜の群れの周囲を何組かの肉食恐竜が取り巻いてるのも問題だな。この間は25mm機関砲で倒したが、高機動車に積載した50口径の機関銃でどこまでやりあえるかはやってみないと分からないし、無理してやり合う事も無いだろう。東西方向なら10km、南なら5km辺りが比較的安全という事になるだろう。


 明日は南に行ってみるか? 高機能センサーなら半径500mの状況が分かるし、エンジンを切らずに車の周囲で採取すれば直ぐに逃げられそうだな。


 レミ姉さん達が帰って来ると、標本採取の場所について意見を交わす。

「エリーはそれでいいよ。エンジンを切らなければ良いわけだし、機関銃だって付いてるんでしょう?」

「そうね。私もバンター君に賛成よ。でも会合で他のハンターと調整した方が良いわ」


 そんな言葉に励まされて集会場に向かう。

 たぶん夕食後にそのまま残っていたんだろう。集会場の定例会議のメンバーはすでに揃っていたようだ。


「バンター君が来たから、これで全員ね。私の方から伝えることは、地下の工事の状況だけど、竪穴の1つが完成したわ。更にもう1つ作ってから横穴を作るつもり。早ければ今年の冬には地下に時空間ゲートを作ることが可能よ」

もう1つの竪穴はどこに作るんだろう? 目立たない場所なら良いんだけどな。


「俺の方は変わりないぞ。周囲100kmにはたくさんの恐竜が来ているが、半径10kmは比較的安全だ。だが、南は5km近くまでラプトルが動いているから注意しろよ」

「高機動車の1台は向こうに送って点検中だ。代車は4輪駆動だから、牽引は小型台車だぞ。荷台を上げられないから、スコップで下ろしてくれ」


 急いで逃げる場合には台車を放棄しないといけないかな。簡単に外れてくれれば良いんだが……。


「村の方は大きな変化はありません。トメルグさん達は村にしっかりと根を下ろしているようです。こちらのハンターとも上手くやっていると感じました。

情報といえば、高レベルのハンター達がダイノス、恐竜の事ですが、狩りを始めています。狙いはラブートと言われるラプトルになるようです。場合によってはこの砦にやってくることも考えられます。早めに、やってきたハンターに砦をどこまで見せて良いかを俺達全員が共有する必要があるでしょう」


 俺の言葉に集まった人達が悩み始めた。当初の予定では粗々決めはいたのだが、その後いろいろと建屋を作ったり、機材を運んだりしている。ましてや、今は地下にこの世界のギルド施設を作ろうとしているのだ。ある意味、来て欲しくないというのが皆の思いだろう。


「問題ね……。ケリー、至急案を作りなさい。トメルグにダミー情報を渡しても、パミネラなら見破るでしょうね……。シスターを怒らせたら私の首が飛びかねないわ」

 更迭されるのかと思ったんだけど、後でレミ姉さんに聞いたら、実際に首が飛ぶと教えてくれた。温和なシスターなんだけど、怒った時は別人らしい。首狩り族に姿が変わるそうだ。

 そう言えば、シスターが怒ったところを見たことはないな……。待てよ。それを知ってるという事は俺の記憶が戻っているのか?

 直ぐに過去を思い出そうとしたが、やはり闇の中だ。だが、シスターの怒った姿は見ていないという漠然とした思いが浮かんできただけだった。


 まあ、この件は博士とケリーさんに任せておこう。ハンターは好奇心の塊だからな。色々と見せてくれとせがむんじゃないか? その辺りも上手くごまかせるようにしておきたいものだ。


 ヤグートⅢに戻って、懐疑の概要を2人に知らせて俺達は寝床に潜り込む。

 明日は、土砂の始末に俺達も出掛けねばならない。早めに寝るに越したことはない。


・・・ ◇ ・・・


 標本の採取をしながら土砂の運び出しをする日々が続く。

 すでにこの世界は盛夏だ。草原は背が伸びて、肉食哺乳類が潜んでいるけど、多機能センサーが彼らをしっかりと把握してくれるから、近付いてくる前に移動することができる。村では何人かのハンターが犠牲になったらしい。ダイノスは草や木に隠れることはほとんどないが、哺乳類には知恵があるという事だろうか?

 それでも、ラプトルは群れで狩りをするから遭遇したらハンターが絶滅しかねないが、トメルグさん達がギルドにその辺りの情報は提供しているらしい。


「中々過ごしやすい村だぞ」

 久しぶりに村に行ったら、トメルグさんは門番の竜人族の男と広場の木陰でチェスをやっていたな。

 シスター達は小さな女の子を相手に編み物を教えていた。

 村に溶け込むというのは、あんな姿が自然にできるという事なんだろうな。俺も余生はあんな風に過ごしたいものだ。


 ネコ族の姉妹は俺達と行動を共にしている。レミ姉さんはレブナン博士の手伝いに回った。やはり砦の指揮と研究を両立させることは難しいらしい。

 来年はレミ姉さんが砦の指揮官になりそうだな。いつまでも俺達と一緒だと思っていたけど、俺達が一人前になるまではと一緒にいてくれたんだろう。


 まだ、荷物はここに置いてあるけど、ヤグートⅢの改修を行うらしい。緊急脱出が可能な住居に近いものになるという事だった。改修の具体案はエリーが考えてるという事だが、だいじょうぶなんだろうか? にこにこしながらタブレットを見てるけど、俺の意見を聞くことはないし、仮想スクリーンを開かないで作業してるから、どんな風に「改修されるか見当もつかないぞ。


 そんなある日の事。砦に緊急警報が鳴り響いた。

 非番の俺達は、急いで装備ベルトを付けると、銃を担いで所定の位置に向かう。俺は門の右手の足場の上に、エリーは2人の姉妹を連れて足場の下にある銃眼へと向かう。


「バンターだな。警備部のフェブロイだ。南からハンターが砦に向かってる。とんでもなく足が速い連中だぞ。その後ろにアウブリソドンがいる。チラノの小さいやつだ」


柵から顔を出して双眼鏡で状況を見ると、4人のハンターがハンターの2倍は背丈がありそうな恐竜に追われている。追っているのは4頭だがその後ろにも色々といるようだ。3人が散開して逃げているから、襲う相手を誰にするか迷っているようにも見える。

 すでに砦から500m程の距離に近付いている。追われているハンターの顔も見えてきた。

 何と、カレンさん達じゃないか! ラブート狩りで南に下がり過ぎたのかな。


「エリー、カレンさん達が追われてる。追っている恐竜とあまり距離が無いから、上手く砦に入れてくれるように頼んでくれ!」

 足場の隙間から下にいるエリーに大声で頼み込む。銃眼を囲んだ丸太の補強材から、エリーが腕を出して、拳を握って了解を告げてくれた。

 ぎりぎりのタイミングだが警備員達は優秀だからな。上手く扉の開け閉めをしてくれるだろう。


 急いで魔法に袋からライフルケースを取り出してバレットを組み立てる。

 マガジン内に10発入っているからこれで十分だろう。


「大きいのを持ってきたな。撃てるのか?」

「これが初めてですけどね」


 フェブロイさんにそう言って笑い掛けると、俺の肩をパシっと叩いて「頑張れよ!」と言ってくれた。柵の隙間に銃床を押し付けるようにして保持すると、ターゲットスコープで狙いを合わせる。

 倍率は5倍だし、相手が大きいから外すことはないんじゃないか?

 柵に取り付いていた連中が一斉に射撃を開始した。25mm機関砲も半自動で銃弾を吐き出している。

 先頭の恐竜を狙わずに最後尾の恐竜に狙いを付けて、トリガーを引いた。ドォン! という音と共にバレルが後退する感触が伝わる。50口径弾を受けた恐竜は走るのをやめてその場で絶叫を上げている。続けて2発撃ったところで転倒した。

 威力はあるが、反動もそれなりだな。対戦車ライフルよりは反動が少ないのは、バレルが後退する機構とマズルブレーキが改良されているからだろう。


「見ろ。後ろから来た奴が、倒れた恐竜を襲ってるぞ!」

 ラプトルが後ろから来ていたようだ。餌のおこぼれを狙っていたようだが、とんだ獲物にありついたみたいだな。

 次々とラプトルが集まってくる。後始末は彼等に任せてもいいんじゃないか?


「あいつらは、この柵を越えられん。俺達以外は緊急体制を解除するそうだ。大きな奴が現れたら再度警報を鳴らすと言っている。ご苦労だったな」

「それじゃあ、後を頼みますよ」


 ハンターはとりあえず柵から離れられるようだ。バレットをケースに戻して、足場から降りる。

 エリーを探そうと周囲を見渡すと、集会場の扉のところで俺に手を振っている。こっちの来いということだろうな。

 待たせると煩そうだから、足早に集会場に向かう。

 扉を開けてホールに入ると、ホッとした表情でお茶を飲んでいるカレンさん達がいた。



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