表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/103

PH-064 チラノザウルスがやって来た


 アルビンさんの運転する6輪駆動車の直ぐ後ろを俺達の車が追い掛ける。距離は100mも無い。

 時速80km以上の速度で草原を疾走し、わずかに開いた砦の門の中に車を突っ込んだ。

 キィィィー! と甲高いブレーキ音がしてズズズゥーとタイヤが地面を擦りつける。もうもうと土煙が上がるのは仕方ないな。相変わらずの腕だが、俺だと車庫に突っ込みそうだ。

 エリーとレミ姉さんがAK-60を持って飛び下りる。俺も、急ブレーキでしたたかに車体にぶつけた足を引きずりながら、門の右手の足場に急いだ。


 梯子を上って、柵の隙間から双眼鏡で南を眺める。俺が倒したイグアノドンをチラノサウルスが貪っている。

 ドドド……と言う音と共に柵が揺れる。

柵から頭を出して下を見ると、イグアノドンの群れが砦の東側を走り抜けていた。


「お兄ちゃん、頭を下げて!」

 エリーが俺の装備ベルトを掴んで下に引っ張っている。

 エリ―を見ると、あっち! と言うそぶりで人差し指を南に向けた。そのまま顔を南に向けると、300m程先の左手を歩いているチラノサウルスの姿が見えた。

 イグアノドンを追い掛けてきたのだろうか?

 それにしても、デカイ! 柵の上に頭が出るんじゃないか?

 慌てて、頭を下げると、柵の足場に腰を下ろして、魔法の袋からライフルケースを取り出した。

 

 どう考えてもショットガンでは力不足だ。対戦車ライフルなら何とかなるんじゃないかな。

 ストックを取り付けて、クリップで弾丸を装填しておく。ポケットに5連クリップを1個入れておけば十分だ。10発でダメならそれ以上撃っても無駄だろう。


「エリー、姉さんを連れて、足場の下に行け! 下にもガンポートがある筈だ」

「でも……」

「いいから、行け! 姉さん。エリーを頼みます」


 俺に小さく姉さんが頷くと、エリーを連れて下がって行った。

 何人かの女性が下に下がる。残ったのは男達だが、俺に親指を上げて意気盛んなところをアピールしてるぞ。持っている得物も大型のライフルだ。左手には警備員達が25mm機関砲を据え付けて待ち構えているだろうな。


 ドオォン、ドォン!と2発の銃声がこだますると、耳をつんざくような叫び声が上がった。

 25mm機関砲を撃ったようだ。そっと、柵から顔半分を出して周囲を眺めてみる。

 頭を血だらけにしたチラノザウルスがよろよろと南に歩いて行く。25mm機あkン砲弾を受けて即死しないのか? とんでもない生命力だぞ。

 やがて、ドシン! と地響きを立てて林の端で倒れた。

 ちょっと微妙な位置だな。血の匂いを嗅ぎつけたのか、南から2頭のチラノザウルスが走ってきた。

 さて、しばらくはこの場で待機だな。

 タバコに火を点けて、柵の隙間から様子をうかがう事にした。


 1時間程様子を見ていたが、チラノザウルスは共食いで満足したようだ。東に向かって歩いて行った。バングルの仮想スクリーンで、砦の電脳を呼び出し周囲の様子を確認する。すでに周囲1kmには恐竜の姿は無かった。3km程東を東に向かって進んでいるチラノザウルスが数頭いるようだ。

 イグアノドンは林から森に入ったようだな。北に15km程のところで散開している。


 警備員が、迎撃態勢の解除を触れ回っている。

 ライフルを元に戻して足場を下りると、エリー達を連れて集会場に向かう。

 とりあえず、コーヒーが飲みたいぞ。喉がカラカラだ。


 集会場には既に十数人の連中が集まって飲み物を飲んでいた。

 テーブルに着くと、砂漠の都市から救い出したネコ族の娘達が飲み物を運んできてくれた。


「ありがとう。コーヒーを頂くよ。足はだいじょうぶなのかい?」

「おかげさまで、歩くことが出来るようになりました。この仕掛けも後一か月ほどで取れるみたいです」


 そう言って、次の人達に飲み物を配っている。向こうには妹さんが同じようにトレイを持ってるな。エリー達はジュースを貰ったみたいだ。炭酸系なら俺もそっちが良かったような気がしてきたぞ。


「だいぶ歩けるようね」

「うん、ちゃんと歩いてるでしょう? 外せたら、私達を手伝ってくれると言ってたよ」

「だけど、妹さんはまだ小さいぞ」

「それでもだって。博士がちゃんと聞いてるみたいだよ」


 俺達と同じような武器を持たせるのだろうか? だが、ネコ族は素早さは他の種族よりも抜きんでているのだが、非力だとゴランさんが言ってたぞ。


 恐竜が近くにいるとなると、今日の仕事は終わりだな。時刻は1500時を過ぎている。夕食まで間があるから、一旦、ヤグートⅢに戻ることにした。


 戦闘服から私服に着替えると、テーブルで新しい調査機の検討を始める。冬に試験をするからには夏までに概念を固めておかなければなるまい。

 操縦はエリーに任せるとして、やはり25mm機関砲は必要だろうな……。


・・・ ◇ ・・・


 チラノザウルスを草原に運ばねばなるまいと思っていたが、2日も過ぎると骨だけになっていた。ラプトルよりもチラノサウルスに似た体高1.2m程の小さな恐竜が死肉をすっかり食べてしまったから、骨だけが残っている。

 ラプトルなら換金できるんだが、チラノザウルスの換金部位は分からないからな。図鑑にも絵はあったが凶暴、近づくなの言葉があるだけだった。こっちの世界ではドルティアと言うらしい。


 まだ、砦からの外出が禁止状態なので、穴掘りの土砂は北の柵の外に投げている。東西80mもあるんだから少しぐらい外が高くなっても問題ないと判断したらしい。まあ、せいぜい30cm位高くなるだけじゃないか? 外に出られれば再び草原に投棄してくれば良いだろうし。


 そんな事だから、まるで俺達の仕事が無い。

 レブナン博士の勧めで、レミ姉さんはエリーを連れて向こうの世界に帰って行った。俺の魔法の袋まで持って行ったから、お土産をたくさん買い込むつもりに違いない。

 2人を見送った後は、集会場でアルビンさん達とゲームをしながら時間を潰す。

 動けないハンターってのは、どうしようも無いな。コーヒーとタバコにゲームとなってしまう。

 警戒態勢が解除されない限り、この状態が続くのだが果たしていつまで続くのだろうか?


「バンターは昨年からいたんだろう? 村でもこんな状態が続くのか」

「脅威が去れば直ぐに普通の村になりますよ。その辺りの判断はギルドのマスターと筆頭ハンターが相談するみたいですね。ゴランさんが筆頭なんですが、俺が星1つだと知って喜んでました。狩りに行けると言ってましたよ」


「最初は驚いたが、中々の人物だな。村の住民にも好かれているのは頷ける話だ」

 デントスさんがサイコロを振りながら呟いた。


 新しくやってきたハンターは全てゴランさんに紹介している。星持ちのハンターが一気に2倍以上に膨れているからゴランさんが驚いていたけど、全員薬草採取が仕事だと言ったら、レイさんが呆れていたな。

 それでも、近くに住んでいるならありがたいとゴランさんが言っていた。村で暮らすシスター達とは魔道具で話ができると伝えている。

 通信機と言っても理解できないと思って、つい口に出た言葉だったが、ゴランさん達は疑問を口に出さなかった。

 どうやら、似たような魔道具が存在するらしい。北の砦との通信手段をそれで行っているようだ。とは言え数が少なく、利用回数も限られているらしいので急場以外の使用は禁止しているらしい。


「はい! 私が一番乗りね。アルビンが最後になりそうね」

「何の。これからが勝負だ。最後に笑うのは俺だからな」


 すごろく遊びにこれだけ熱中できるのは、敗者がワイン1ビンを購入することになっているからだ。銘柄指定だから結構な値段なんだが、俺達の給料はこの世界ではほとんど意味がないからな。溜まっている貯金の有効利用という事なんだろうけど、1ビンが3千Lは高いんじゃないか? 昔買い込んでたワインだって500Lだった気がするぞ。

 そんな事もあるから、サイコロを振るのは真剣だ。

 夕食間際まで白熱したビリ争いを演じた俺達だったが、最終的な敗者はアルビンさんだった。

 かなりのマニアらしく、ボードゲームをたくさん持っているらしい。とは言え、マニアがそのゲームに強いってわけじゃなさそうだ。明日は美味しいワインが飲めそうだな。


2日程経って、エリー達が帰ってきた。大きな荷物を一輪車に積んで運んできたけど、一輪車は工事に使うんだろうな。積んであった荷物はそのままレブナン博士達に引き渡していたから、お使いもついでに頼まれていたのだろう。

 俺の分は、帰ってからの楽しみだな。


「お兄ちゃんの要望で、都市の武器店を巡ったんだけど、これを勧められたよ」

 袋から取り出そうとして苦労している。かなりの重さらしいな。俺も手伝って袋からライフルケースを取り出してケースを開けると、対戦車ライフルよりは小型だが、太いバレルを持ったライフルが現れた。銘板はバレット90と刻印がある。


「今までの弾丸も使えるって言った。これが専用の着発炸裂弾だよ」

 弾丸ケースを1つ取り出した。10連のマガジンが6個入っている。銃自体は2割ほど長さが短くなった感じだな。だけど重さは1割増しって感じだ。


「ありがとう。これで良い」

「後は、お兄ちゃん用の服だけど、お揃いだからね。戦闘用のインナーを買って来たから、下に着込めば私服で十分だよ。耐刃性もそれなりにそれなりにあるみたいだから」


 村に行くには丁度良いな。たぶんそれを考えて買い込んできたんだろう。

「私は調味料のセットよ。シスターに頼まれてたの」

 レミ姉さんの話からすると、警戒態勢が解除されたら、先ずは村に向かわねばならないな。


「ちょっと出掛けて来るね」

 大きな袋を取り出すと、それを持ってエリーがヤグートⅢから出て行った。

「たぶん、あの姉妹のところに行ったんでしょうね。私服を王都で買い込んでたわ。妹を欲しがってたんだけど、エリーになつく年下の女の子がいなかったの。あの性格だからね……」


 決して悪くはないのだが、思い立ったら即実行だからな。何時もヒヤヒヤするところがあるのは確かだ。振り回されるのが嫌だったに違いないと思うぞ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ