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PH-062 種族間の争いが無い理由


 俺達の監視は3日程続いたが、砦の周囲30kmに近付いてくる恐竜はいなかった。

 一応、厳戒態勢が解除されたことから、俺達ハンター3パーティの内、2パーティが周辺の薬草採取と標本採取を再開する。

 1パーティは、緊急用として砦に待機するのだが、俺達の緊急事態というよりも、西の村を考えているんだろう。

 

「依頼書を代理で受けて貰えたわ。カルニタスという薬草よ」

 テーブルの脇に展開した図鑑を調べると、地上にある葉は肉厚で少し長めの草のようだ。球根部分はチューリップ並みに大きいぞ。

 薬効は……、除草剤だと? 同じ草なんだが、クラビトルという薬草の地下茎を混ぜるとそうなるらしい。作り方までは書かれていないが、レブナン博士が興味を持ちそうだな。標本として採取しても良さそうだ。


「西の小川近くで採取できるらしいわよ。帰りに村に寄ってみましょうか?」

 そんな提案をするから、エリーが自分のトランクに飛んで行ったぞ。キャンディーを配るつもりだな。


「トメルグさん達に補給するものは無いんですか?」

「そうね。車の準備が終るまでに博士に確認しておくわ」


 ということで、俺は一足先に車庫に向かう。近場だから4輪駆動で十分だろう。保全部の事務所兼宿舎に寄って、車のキーを借り受けると、エンジンを掛けて仮想スクリーンに表示されたチェックリストの項目に従って事前点検を始める。

 そんな所に、エリーが手を振りながら現れた。戦闘服の上に綿のワンピースを着ている。その上に装備ベルトを着けてMP-6を背負っているから、戦闘服が下着に見えるな。


「私が運転するよ。これはお兄ちゃん用だよ」

 俺もワンピースなのか? と渡された服を開いてみると前が開いていた。袖のないハーフコートに見えなくも無いな。確かにこれならさほど不自然ではなさそうだ。

 同じように、着込んで装備ベルトを着ける。ベネリをライフルキャリーに入れて、後ろ座席に乗り込んだ。

「燃料は満タンだから、採取してる間は絶対にエンジンを止めるんじゃないぞ」

「分かってる。お姉ちゃんが出てきたから、出発するよ!」

 集会場の前で、エリーと同じようなワンピース姿のレミ姉さんが、俺達に手を振っている。

 ゆっくりと車が走り出し、集会場の前でレミ姉さんが助手席に乗り込んだ。トランシーバーで警備員に連絡すると、門が開き始めた。

 完全に開かない内に、エリーが隙間を車で通り抜ける。扉まで10cmも間隔が無かったぞ。ちょっと運転が荒いな。


 西の小川までは1kmもない。浅瀬を渡って、小川の西側でカルタニスを探し始めた。

 レミ姉さんが車に残って、周辺の監視をしながら俺達の動きに合わせて車を移動している。俺とエリーでひたすらカルタニスを探すのだが、あまり特徴がない薬草だからな。

 アナライザーを頼りにエリーが探しているけど、さっきから見つけてるのはライブラリーとの比較で50%前後の標本ばかりだ。

 この村の依頼はこなせなくとも、俺達の世界の仕事ならば、今のところ大収穫と言っていいかもしれない。


「ん? これかな」

 肉厚で、細身の葉が地面からチョコンと出ている。

「掘れば分かるんじゃないかな?」

 エリーの助言に従って、周囲を他の薬草よりも広くナイフを突き刺して引き抜いた。


「間違いないな。それにしても球根が大きいぞ」

 直径4cmはあるんじゃないか? 食べられそうな感じなんだが、獣はこれを掘って食べないんだろうか?


「ちょっと貸して!」

 エリーは、アナライザーで球根を調査し始めた。これで、ライブラリー登録が終わるから、探すのが格段に早くなる。

 アナライザーで探したカルタニスに、次々と蛍光球の付いた針金が刺されていく。後はゆっくりと掘り起こすだけで良い。


 そんな球根が20個以上採れたところで、昼食を取る。

 野菜サンドにホットコーヒーは朝食に似ているけど、昼食は軽く取るハンターが多いらしい。まったく取らないハンターもいるようだ。

 車に寄り掛かって、周囲の風景を眺めながらの食事はテーブルで取るよりも気分が良いな。食事が終わった後のコーヒーも格別だ。


「ところで、この球根はいくつ集めれば良いんですか?」

「いくつでも良いそうよ。1個2.5Cという事だから、複数は欲しいって事でしょうけどね」

「26個あるよ! 博士には2個渡すことで、24個をギルドに渡そうよ」


 60Cになるな。お土産も買えそうだ。

 どちらかと言うと、今日の俺達はこの世界での活動をPRするようなものだから、さっさと村のギルドに顔を出して帰ろうという事で、採取を打ちきり、車を村へと向けた。

 何組かのハンターが薬草を採取している風景はのどかなものだ。

 春のやってきたハンター達は広く分散しているんだろうな。


 北門を潜って、シスター達の小屋の脇に車を停める。レミ姉さんが小屋に挨拶に出掛けた。エリーを目ざとく見つけた子供達がボールを持って集まって来る。

 そんな、光景を車にもたれかかってタバコを吸いながら眺めるのも平和な感じだな。


「バンター君、私はシスターとお話があるから、ギルドは任せるわ。帰りに寄って頂戴」

「分かりました。お土産にワインを3本ほど仕入れようと思うんですが」

「保全部と警備部ってことなら、その他の部局もあるから10本ほど購入してくれない?」


 俺の手のひらに2枚の銀貨とカルタニスの採取依頼書を乗せてくれた。

 姉さんに頷いて、通りに向かって広場を渡ろうとすると、俺にボールが飛んできた。

 エリーの方に軽く蹴ると、ギルドに行ってくると伝えておく。エリーはエリーなりに忙しそうだな。


 ギルドの扉を開けると、暖炉傍のベンチに見知った顔を見つけた。軽く手を上げて挨拶したところでカウンターに向かう。


「これをお願いします」

 依頼書と、カルタニスの球根を24個袋から取り出して、カウンターに乗せた。


「珍しいにゃ。これはトメルグ爺さんが昨日受けた依頼にゃ。でも依頼書があるから問題ないにゃ」

 ミゼルさんがそう言って、依頼書を回収すると報酬の60Cを渡してくれた。ありがたく受け取って、さっきから俺を待っているカレンさんのところに向かった。

 

「久しいな。元気に暮らしているか?」

「東に仲間と砦を作って暮らしています。この村にも仲間を置いていますから、連絡を取り合って薬草を採取してますよ。あまり集められませんでしたが、それなりに暮らしては行けそうです」


「あの老人達か。だが、星2つとは恐れ入った」

「3人共、銃を持っているから、村の守りを任せるのには都合がいい。ゴラン殿も喜んでいたぞ」


 どうやら、毎年のようにやってくる恐竜の脅威に備えて、ゴランさん達とカレンさん達が交代で村に滞在していたようだ。

 今年はシスター達がいるということで、両者共に狩りをしているらしい。カレンさん達のパーティも、3人が銃を持てるようになったと教えてくれた。


「確か、この銃の弾を売っているんだったな。10個程分けてくれないか?」

 そう言って、バッグから袋を取りだすと、テーブルにショットガンの薬莢を並べはじめた。10個以上あるな。全部使ったということだろうか?


「あの銃には2つの弾丸の種類があります。どちらを多用しました?」

「1発玉は強力だ。だが、森では一度に10個も使い手がいい。どちらとも言えないな」


 やはり、ダブルオーバッグもそれなりに使えるって事だな。スラッグ弾ばかりではダメだということか。

 バッグの魔法の袋から予備で持ち歩いているショットガンの弾丸を取出して、12発の箱ごと、2種類の弾丸をテーブルに置くと、空の薬莢を袋に入れた。


「12個ずつ、2種類です。値段は10発分ということで……」

「お前が困るだろう。玉数はありがたいが、値段をまけてもらうわけにはいかぬ」

 

 カレンさんが240Cをテーブルに置くと、箱をバッグに納める。意外と融通が利かない人だな。それだけ真面目なんだろう。ゴランさんもそうだが、竜人族の特徴かもしれないな。


「無くなったら、北門の俺達の仲間に言ってください。購入できるはずです」

「わかった。ゴラン殿にも伝えておく」


 カレンさん達に頭を下げてギルドを出る。結構、ショットガンの使用頻度が高いってことだろうな。トメルグさんのところにも、ある程度の数を置いておこう。

 雑貨屋で、ワインを10本ほど仕入れると、レミ姉さん達のいる北門へと足を向ける。

 広場では、エリーが子供達と一緒にボールを蹴って遊んでいる。あれは、エリーが持ってきたサッカーボールのようだな。何個か運んできたんだろう。


 エリーに手を振って、小屋の扉を叩くと、レミ姉さんが開けてくれた。奥のテーブルに向かうと、レミ姉さんの隣に座る。ベンチ型だから3人以上座れそうだ。


「元気そうだな。たまにゴランがやって来る。最初は驚いたが中々の人物だぞ」

 トメルグさんが、パイプを咥えながら俺に話しかけてきた。

「色々と助けてもらいました。この世界は色んな種族がいますけど、仲違いをしないのに最初は驚いたものです」


「ある意味、理想世界ですね。恐竜の脅威が無ければの話ですが……」

 シスターが、コーヒーカップを俺に手渡してくれる。他の人達のカップにも注いでいるようだ。

 コーヒーを一口飲みながら香りを楽しむ。苦さに驚いて急いで砂糖を入れて掻く混ぜた。

 さっきのシスターの話だが、ひょっとすると種族間の仲が良いのは、恐竜の脅威に対処する為に、自然とそうなったのかも知れないな。

 仲違いをしてたら、自分達の種族が滅びかねない。自然に互いに協力し合う事が大事だと分かったんじゃないかな?

 自分達と意思を交換できない脅威が合ったからってことになるのか。小さなペットのような恐竜であれば、この世界は種族間の争いが耐えない世界になった可能性が高いんじゃないか?


「分かったか? たぶんオヌシの考えている通りだと思うぞ。恐竜が彼等を結び付けておるのだ」

「そうなると、あまり介在すべきではありませんね」

「今までに渡した武器で十分だろうな。とはいえ、残り12丁位は構わぬだろう。カートリッジとショットガンの弾丸をレミーネから預かったが、高額だからな。それ程彼等も使わぬに違いない」


 すでにレミ姉さんが渡してたらしい。たぶん、レブナン博士と調整した結果だろう。

 夕方近くまで小屋で雑談を楽しみ、夕食をご馳走になって俺達は砦に戻った。

 夕食はシチューだったが、じっくり煮込んだシチューなんて久しぶりだったぞ。



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