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PH-061 俺とエリーの秘密


 レミ姉さんが教えてくれたのは、教団施設で暮らす子供達のほとんどが、孤児みなしごらしいのだが、俺とエリーの両親だけは明確らしい。だが、何故にそんな施設に俺達は預けられたんだろう。


「決して、家庭内暴力なんかではないからね。貴方達には戸籍が無くなってしまったの。戸籍の無い子供を育てるのは大変なのよ」

  

 戸籍が無くなるって、不思議な話だ。出生記録で自動的に戸籍は作られるはずじゃなかったのか? 親が忘れるなんてことがないように、病院でそれは行われるはずだ。


「バンター君とエリーは、一度脳死状態に陥ってるの。遊んでいる時に酸欠状態の穴に入ったみたいね。直ぐに知らせを受けて救助されたみたいなんだけど……。意識を回復することはなかったわ。

そんな貴方達を使って、ギルドはとある計画を遂行しようとしたの。死の判定を受けて3日後にギルドに運び込まれた貴方達を使って、ディストリビュート計画が実行されようとしたわ。大量のナノマシンが投与され、壊れ始めた脳内シナプスのネットワークを再度結合したときに……」

「俺達が目を覚ましたと……」


 レミ姉さんが小さく頷いた。

 偶然なのか、それとも必然だったのか……。急いで、両親達に連絡しようとしたところ、今度は両親達が時空間ゲートの事故に巻き込まれたらしい。

 そんな俺達どうするかがギルドで話題になったそうだ。すでに死を宣告されたとはいえ、意識を取り戻そうとしている2人に、非人道的な実験を行うわけにはいかなかったという事だろう。実験を中断した後、俺達2人は施設を転々として、あの教団施設に迎えられたらしい。


「戸籍はギルドが新たに作ったわ。それぐらいの影響力は持っているの。でも、……」

 レミ姉さんはその後を語らなかった。

 たぶんその後は、レミ姉さんが俺達を見守ってくれたに違いない。シスターも俺を見て微笑んでいたからな。中々に良い少年時代を過ごしたんだろうと思う。

 

「この事はエリーに?」

「言って無いわ。たぶん気にも留めないでしょうね」

「では、この話はこれまでです。後は、俺が取り込んだクリスタルが気になるだけですね」

「あまり気にしないことだわ。MRIでも、クリスタルの存在が確認されなかったのよ。親和性のナノマシンではないかと博士は言っているけど、それを貴方に渡したシスターは頷いてたわね。エリーも、何か知っているようだったし……」

「その内、話してくれるでしょう。待ってみますよ。今のところ実害はありませんし」


 あのクリスタルはシスター達が迷い込んだ世界のものだったのかも知れないな。シスターはあれを持っていても取り込むことが無かった。俺も、最初に受け取った時には取り込まなかったな。あれを取り込んだのは……。ひょっとして【呪文】が刻まれたせいなのか?


「ただいま!」

 元気な声はエリーだな。

「どうにか歩けたよ。でも、歩かされてるって感じ。少しずつ良くなるといいんだけどね」

 

 俺の隣に腰を下ろした途端に話し始める。そんなエリーにレミ姉さんがコーヒーのカップを渡してる。さっきまでの沈んだ顔はどこにもない。エリーに優しく微笑んでいる。

 ちゃんと歩けるようになれれば、どんなに喜ぶだろうな。

 あの老婆も喜んでくれるに違いない。

 

 次の朝。朝食が済むと、エリーは姉妹のところに向かったようだ。俺とレミ姉さんはヤグートⅢに戻って、監視任務の準備を始める。エリーの分はレミ姉さんが整えている。エリーも準備が出来てから出掛ければ良いんだけどな。


「昨夜でほとんど終わってるから、それほどないわ。一応、手榴弾は持ったでしょう?」

「ここに付けてます。監視任務ですから双眼鏡で良いんですよね?」

「ええ、大型は集会場の2階にある筈だから、私達が使うものだけ持っていけばいいわ。エリーの分は予備を用意しておけば十分ね」


 帽子とサングラスは魔法の袋に入れてあるし、予備の弾丸も十分に入っている。トメルグさんに貰った刀も入れてある。ショットガンも袋に入れておくか。肩に担いでいても重いだけだからな。

 最終的ないで立ちは、戦闘服に装備ベルトを付けて首から双眼鏡をぶら下げた姿になった。ポンチョは腰のバッグの上に丸めてあるから邪魔にはならない。


 交替時間の1時間前にエリーを呼び出して着替えをさせる。

それが終えたところで、俺達は集会場に向かい、1階の片隅にある小さな階段を上っていく。

 2階は東と南に窓がある三角形の部屋になっている。南東と北東に部屋がある変わった構造だ。監視方向が東と南だからこんな部屋になったんだろう。


 真ん中にあるテーブルに数人の男女が座っていた。

 窓にも丸椅子があるところを見ると、あれに座って監視しているのだろう。

 テーブルに近付くと、アルビンさんの前に行く。


「アルビンさん。交代します」

「まだ20分も前だぞ。ありがたい話だ。今のところ異常はない。朝方、南東方向に恐竜らしきものを見掛けた者がいるが、確認する前に姿を消している」


 俺達が状況を確認し合っている間に2人の女性が荷物を片付けていた。作業が終わったところで俺達に手を振り階段を下りていく。

 さて、俺達が今度は頑張らねばならないな。


「あまり、気張らなくても良いぞ。監視は俺達がやるからな。お前達は、俺達が巡回するときに、この画像を見てくれるだけで良い。何かあれば、このトランシーバーで呼んでくれ。緊急時には、この赤いボタンだ。砦中に警報が鳴る」


 3人の警備員は男性1人に女性2人だ。男性はバディさんというらしい。レミ姉さん達は直ぐにおしゃべりを楽しみ始めたようだ。


「ここでは、タバコも構わないぞ。トイレは奥にある。まあ、のんびり過ごすんだな」

 そんな事を言って、タバコの箱を取り出し、俺に向けた。

 ありがたく1本頂いて、火を点ける。ついでにバディさんのタバコにもだ。


 それにしてもおしゃべりしながら、目は仮想スクリーンの画像に向いているんだから、レミ姉さん達はすごいよな。しばらくは姉さん達に任せて、周囲の風景を楽しむか……。

 一服を終えて、窓に向かおうとしたところ、エリーが俺のところにやってきた。


「お兄ちゃん、お弁当を取りに行こう!」

「順番で食事を取るんじゃないのか?」

「どうやら、違うみたいよ。下の調理場で作ってくれているらしいわ」


 そんなわけで、2人で弁当を取りに行くことになった。まあ、年下は俺達2人だから、下働きはしないといけないようだな。

 調理場で大きなポットを2つと、お弁当が入ったカゴを受け取って、2階へと運ぶ。そこにはすでに食器が並んでいた。スープ皿とカップという事は、この2つのポットの中身がスープとコーヒーになるって事だな。

 警備員の女性が俺達から荷物を受け取って、準備をしてくれる。席に着いてバッグから先割れスプーンを取り出せば、俺達の昼食が始まった。


「昨日見た恐竜は中型だな。あれぐらいならAK60でどうにでもなる。問題はそれより大型の奴だ。50口径の弾丸を数発でも足りないくらいだ。それで、俺達は、これを使う。炸薬入りの20mmライフル弾だ。1発でケリがつくぞ」


 バディさんがバッグから1個取り出して見せてくれた。銃弾だけで20cmはあるんじゃないか? 確かにこれに撃たれたらシャレにならないだろうな。


「中型でも、倒すのは大変よ。彼が言うようにAK60でも倒せるけど、ほとんどマガジンを全弾叩き込むような事になるわ。恐竜はしぶといの。覚えておいて」

「昔何度か倒しました。心得ています」


 警備員の女性にレミ姉さんが答えているけど、姉さんは俺達よりずっとハンターの経験が長いんだよな。やはり、かなりの年齢になるんだろうか?

 姉さんの隣で、もごもごとサンドイッチを食べているエリーが興味深かそうにそんな話を聞いている。その姿を見ると、一度脳死状態まで経験したとは思えないな。体の諸器官のアポトーシスをナノマシンで補完することも、あの世界では可能だったってことだな。

 ある意味、ディストリビュート計画がギルドに無かったら、今の俺とエリーはいなかったということになる。聞いた限りでは非人道的なところもある実験のようだったが、今の俺達がそれによって生きていられるんだから、まあ……、問題はないとしよう。


 昼食が終ったところで、バディさん達は、俺達が運んできたポットやカゴを調理場に戻しながら、周辺の巡視に出掛けた。1時間程は俺達が仮想スクリーン2面に映る画像の監視を行わねばならない。


「グリルさん達が言ってたように、静かなものだわ。明後日には本来任務に戻れそうね」

「50km四方だと、色々いるよ。1時間間隔で撮影された画像を比較すると、かなり動きの速い種類類がいる。……ラプトルだよ。これって!」

「ここに来た時最初に見たのもラプトルだったな。大型恐竜よりは何とかなるんじゃないか」

 

 チラノザウルス辺りでは対処のしようがないんじゃないか? ラプトルならカレンさん達も狩っているからな。砦の北に広がる森はラプトル達のテリトリーなんだろう。

 恐竜達は、草原の草野育ち具合で北に移動してくるんだろう。まだ距離があるという事は、この辺りの草の育ち具合がまだまだということだろうな。季節はようやく春になったばかりだから、これから沢山の恐竜が北上してくるってことになるんだろう。

 

「薬草採取が大変ね」

「高起動車のエンジンを止められませんね。短時間で効率よく集めないと……」

「だいじょうぶ。エリーの運転で逃げ帰れるから!」


 その自信はどこから来るんだ? まあ、6輪駆動車の最高速度は優に時速100kmを超えるらしいが、そんな速度を草原で出したらひっくり返るぞ。

 北面の窓が開いて、バディさん達が帰ってきた。テーブルに着いたところで、エリーがコーヒーを運んでる。


 「すまんな。とりあえずは何もない。仮想スクリーンもそうだろう? ゆっくりしてればいいさ。今度は俺達が監視する」

 俺達は席を交換して、時間つぶしを考えることにした。

 エリー達は、トメルさんと交信して次の薬草採取の依頼を取るようだ。ついでに村の様子を聞くんだろうな。

 俺は、双眼鏡で南の草原を眺めることにした。部屋の隅にある屋根裏部屋に行けば、林越しに草原を眺められるだろう。高機能センサーの邪魔をしなければ問題もあるまい。

 


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