PH-058 村の守り手
朝食を終えた後に残ったのは、俺達3人とシスター達の3人だ。
俺とトメルグさんの2人で集会場を出ると、車庫に向かう。俺達の高機動車はオープントップだが、トメルグさん達が乗ってきたのはしっかりと屋根が付いている。その屋根は分厚い防弾ガラスのようだ。この車に乗っているなら恐竜と遭遇しても安心だろう。
車に乗り込んで集会場の前に向かう。一旦車を停めて、俺が4人を迎えに集会場に入った。
直ぐに4人が腰を上げて入口にやって来る。エリーに運転を任せて、定位置の後部座席に腰を下ろした。
後ろはトメルグさんが運転するみたいだ。エリーが出発を告げたので、トメルグさんに片手を上げて合図する。
トメルグさん夫婦は古びた木綿の上下だし、シスターは何時もの服装だ。銃は3人とも持っているが見た目には分からない。トメルグさんがごつい長剣を下げているから、見るからに引退したハンターに見えるな。あれなら村で不信感を持たれることはないだろう。
林を抜け、小川を渡り草原に出る。
後ろの3人は物珍しげに周囲を眺めているぞ。
草原には何組かのハンター達が薬草を採取している。やはり、南からハンターがたくさん来ているようだな。
村の北門を潜ると、広場の片隅ある小屋の前に車を停める。小屋の広場側にある倉庫の大きな扉を開けて、トメルグさん達が乗ってきた車をバックして停めた。扉を閉めれば中が見えないからこれで十分だ。
「これが俺達の住処か? まあ、こんなもんだろう。中はどうなってるんだ?」
3人をリビング兼寝室に案内すると、こじんまりとまとまった部屋に頷いている。レミねえさんが奥の台所等を案内している間に、暖炉に火を入れた。
「中々良さそうだな。この大きな暖炉が良いぞ。テーブルが大きいのも都合が良い。たまに顔を見せろよ」
「たまにどころか、ちょくちょくやってきますよ。通信機はどこに置きますか?」
トメルグさんが指さしたテーブルの端の小さな棚に通信機を置いた。3人とも【バングルを持っているから、それでも通信をすることが出来るのだが、それは予備とする考えのようだ。レトロな通信機でダイヤルやスイッチがたくさん付いてるぞ。
井戸はないから、エリーが10ℓ容器を2個持って共用井戸に向かったようだ。パミーさんが一緒だから、場所も一緒に教えるのだろう。
直ぐに帰ってきて、暖炉の鉤にポットを掛けている。さて、お湯が沸く間に、ギルドに出掛けるか。
姉さんとエリーを残して、3人をギルドに連れて行く。
通りの周囲を物珍しそうに眺めているが、立ち止らずに俺の後を付いてきてくれた。
ギルドに入ると直ぐにカウンターに向かう。
今日は、ミゼルさんだけのようだ。
「済みません。俺達の故郷からやってきた3人なんですが、ハンター登録することはできますか?」
「年齢制限はないにゃ。でも、狩りはできそうもないにゃ」
「まだまだ若いもんには負けんぞ!」
トメルグさんが憤慨してるけど、それって年寄りの言葉だよな。シスター達も笑ってるぞ。
「まあ、頑張ってみるにゃ。これに記入してから、これを1人ずつ両手で持つにゃ」
そんな感じでハンター登録が始まったのだが、奥から出てきたレイドラさんにカートリッジが売れるか確認してみた。
「助かります。今朝も問い合わせあったんです。出来れば200個ぐらい欲しいんですが……」
「一応、200個持ってきました。結構売れるんですね。北門の西にこちらの3人が暮らします。彼らがギルドにやってきた時に必要な個数を言えば砦から持ってきます」
とりあえず、銀貨が50枚手に入ったぞ。トメルグさん達に少しは持たせなくてはならないし、【呪文】も必要だろう。
「これで終わりにゃ。それにしても星二つは驚きにゃ!」
「星2つだと?」
ホールの奥から声がした。振り返るとレイさんじゃないか。今日は1人みたいだな。
「バンターの知り合いか。後で詳しく教えろよ」
「良いですよ。俺達の先輩ハンターなんです。東から来たんで、砦では暮らさずにこの村で暮らしてもらいます。一通り店を回ってからもう一度やってきます」
「お前は世話好きだからな。その頃にはゴラン達も来るはずだ。丁度良い」
そんな約束をしたところで、今度は教会に向かう。3人とも欲しいのは【クリル】と【ブースト】だけなんだよな。それだけで十分なんだろうか?
驚く事に3人とも星の数が20個近い。何とももったいない気がするのは俺だけなんだろうかと考えながら、3人の【呪文】が刻まれるのを待った。
「ここが食堂です。値段はそれ程高くありません。夕食で銅貨8枚と言うところです。ここが雑貨屋で酒やタバコが買えますよ。あれが武器屋です」
通りを歩きながら、出入りしそうな店を教えておく。この村の人は親切だから聞けば直ぐに教えてくれるんだけどね。
小屋に戻ったところで、俺とトメルグさんだけで再度ギルドに向かう。
ギルドの扉を開けて暖炉を見ると、なるほど4人が揃っている。トメルグさんを連れて、ゴランさんのところに行くと、すでに椅子が用意されていた。
「レイから聞いたが、星2つとは驚いた。だがハンターが続けられるのか?」
「俺の、先輩にあたるハンターです。すでに引退しているのですが、この村で俺達の仕事を見繕って貰おうと考えています。」
「トメルグという。この村の筆頭じゃな。すでに引退じゃが、ハンター資格が無ければ依頼を受けることが出来ぬとバンターが言うもので、昔の仲間とハンターの資格を得たまでじゃ。狩りには出ずに。たまにこずかい稼ぎを薬草でするつもりじゃ」
「ゴランだ。人間族というわけではあるまい。星2つは現役での数字。引退したならな星は付かぬ。村にいてくれるなら願ったりの事だ。場所は北門の小屋だな」
「そこで余生を送るつもりだ。たまにこいつ等を指導せねばなるまいがのう」
そんなトメルグさんの言葉にレイさんが苦笑いをしているぞ。
「頼りにできるか……。中々良い人物をバンターは探し当てたな」
ゴランさんも笑っているぞ。どういう事なんだ?
「少なくとも、バンターよりは技量が上だ。俺も適わぬだろう。だが、この村で守りについてくれると言う。幸いにも、今このホールにいるハンターは俺達だけだ。誰もがこのご人を星2つとは思わぬだろう。重ねて俺からもお願いする。この村を守って欲しいい」
「あまり頼りにはならぬと思うぞ。それでもここで暮らす上で邪魔になるものには遠慮はせぬつもりじゃ」
そんな事を言ってゴランさんと手を握り合っている。
あれで分かり合えたのか? 俺にはちょっと疑問だぞ。
その後は、トメルグさんに依頼掲示板による依頼の取り方を説明して、雑貨屋によって小屋に戻ることにした。
小屋のテーブルに座ると、壁際に銃が飾ってある。あのボルトアクションの銃が一番上だが、その下に並んでいるのはどう見ても火縄銃だ。とは言っても火縄が無いからレプリカなんだろうけど、ひょっとして前装式って事なのかな?
「やはり、郷に入っては郷に従えと言いますからね。トメルグの銃は念のためです。これで頑張りましょう」
「でも、これでは時間が掛かりすぎませんか?」
「1分で10発近く撃てますよ。それに、この弾の大きさも魅力です」
直径1cm以上ありそうだ。これをカートリッジにして押し込むんだとすれば結構早く撃てそうだな。
「何、いざとなればこの長剣がある。それにこの2人は魔法が使えるのだ。【メルト】と言ってな。着弾点で火炎が広がるんだ」
【呪文】ではなく【魔法】だと? ちゃんと使えるんだろうか?
「心配するな。昨夜試してみた。ちゃんと使えるぞ。俺達が行った世界はこの世界に似てはいるが少し違うようだ。それでも前の世界よりはあの世界に近いと思う。バンターに期待してるぞ。色々と変わった世界に行ってみろ」
そんなトメルグさんの言葉に、ただ頷くばかりだった。
昼食を食堂で食べて、トメルグさん達にカートリッジの代金の残りを渡すと、俺達は砦に帰ることにした。
これで、俺達も本業に力を入れることができる。
砦に着いた俺達は、集会場で一服していたレブナン博士に状況を説明することにした。
エリーはネコ族の姉妹のところに走って行ったから、集会場には3人だけだ。
「先ほど、通信が入ったわ。これで双方の通信が可能だからあの村は安心よ」
「ですが、火縄銃ですよ。あれではちょっと……」
そんな問いかけをすると、レブナン博士が長々と説明を始めたが、簡単にいうと強装薬で発射する大型の弾丸という事らしい。確かに見せて貰った弾丸は大きかった。それを火薬を増量して撃つとなれば、至近距離では絶大な威力になるだろうな。
上手い具合に昨年より村のハンターの銃の数は増えている。ラプトルの集団でも今なら何とかなるかもしれないな。
「明日からは、バンター君達にも採取をして貰うわよ。トメルグから春先の薬草の依頼が届いているから、その採取もして貰う事になるわ。高機動車を使ってこの辺りをお願いね」
仮想スクリーンを表示させて教えて貰った場所は、荒地との境界付近だ。これは気を引き締めてやらねば恐竜の餌になりかねないぞ。
「恐竜はどれ位に近付いているんですか?」
「さすがね。50kmも離れていないわ。採取しているときは必ず一人を見張りに着けるのよ。多機能センサーもあるけど、ハンターなんだからあまり頼り過ぎないようにね」
思わず姉さんと顔を見合わせてしまった。白亜紀の依頼をここですることになるとはな。準備をキチンとしないとそれこそ取り返しが付かなくなりそうだ。
レブナン博士から座標をレミ姉さんのバングルに送って貰ったところで、俺達はヤグートⅢに引き上げることにした。
簡単に準備を始める。エリーが戻ったところで本格的に始めれば良い。保全部に連絡して高機動車を1台借り受ける。6輪駆動車だから標本を入れるコンテナも2つ積み込んでおいてもらう。水と予備の燃料はそれぞれ20ℓ積んであるそうだが、水はともかく燃料を使う事はないだろう。それでも安心が持てるから、それを期待してるのかな。
「武器は50口径の機関銃に弾丸が120発。後は私達が持っていくだけになるわ」
「俺はベネリで良いです。銃弾は3種を15発ずつで良いでしょう。姉さん達はAK60ですか?」
「エリーと相談してみるわ。そろそろ夕食だからそれが済めば準備に入れるでしょうし」
あの姉妹に付っきりだからな。心配性なところもあるみたいだ。
まだ歩けないからおもしろくも無いだろうけど、歩けるようになったら一緒に出掛けても良さそうだ。もちろん近場限定だけどな。