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PH-057 シスターから貰ったクリスタル

「そうですか……。苦労をしていますね。多神教の世界なら、このままでいいでしょう。トメルグさんも、パミネラさんもそのままでいいでしょう。東から逃れてきた老夫婦とシスターなら村人もそれ程気にも留めないでしょうから」

「酒が美味いというなら文句はないな。パミーものんびりと編み物が出来るぞ」


 そんな事言ってるけど、3人とも拳銃を持っている。得物は3人ともに357マグナムリボルバーの4インチなんだけど、俺にだってどうにか使えるのにだいじょうぶなんだろうか? それにトメルさんが担いでるのは50口径もありそうなボルトアクションのライフル銃だ。女性2人は表立っては銃を持っていかないようだな。

 それでも、全員杖を持っているから、それで小さな奴なら殴るんだろうか? トメルグさんは背中にでかい長剣を背負ってるけど、見た目がメタボなんだよな。髪はほとんどないけど、もじゃもじゃの髭でどこに口があるか分からないぞ。

 パミネラさんはパミーと言う愛称なんだろうけど、スレンダーな姿態だから夫婦とはちょっと思えないぞ。


 エリーだってちょっと唖然として口が閉じてないからな。でもレミ姉さんは3人に信頼を寄せているようだ。やはり知り合いなんだろう。


「マリーの秘蔵っ子と聞いとるぞ。中々良い面をしてる。ワシを誘ってくれた以上、何かお土産をと思ったのだが、良い品が思い浮かばずに困っていたのだ。マリーが良いものを教えてくれた。ワシが若い時分に使った品だが、少し軽すぎてのう……。オヌシには丁度良いやもしれぬ」


 そう言って大きな袋から取り出したのは、日本刀じゃないか! こんな品をどこから手に入れたと思いたいが、その前に、これを日本刀だと判断した俺は、その記憶をどこから持って来たんだ?

 とりあえず押し頂いてトメルさんに礼を言った。


「私達ならどんな場所でも暮らしていけます。明日、村に案内してください」

「了解です。朝食後という事でよろしいですね」


 そう言って別れはしたんだけれど、まさかシスターが来るとは思わなかったな。

エリーはネコ族の姉妹のところに行ったので、俺とレミ姉さんでヤグートⅢに帰ることになった。

居住区のテーブルに着くと、姉さんにあの3人の詳しい話をせがんでみる。


「そうね。知っておいた方が良いかもしれないわ。あの3人以外にもう一人いたんだけれど、その人は戻ってこなかったの。死亡したとは聞いていないけれど、その事故があってハンターを辞めたのよ。あまり銃を使わずに依頼をこなしていたことで有名だったんだけどね」

「戻ってこないと言うのは、たぶん俺達と同じように他の世界って事になるんでしょうけど、どうして1人だけだったんでしょうね」

 

 お茶の準備を始めた姉さんに聞いてみた。

 しばらく無言でお茶の準備をしていたが、おもむろに俺に顔を向けた。

「3人を無理やり時空間ゲートに押し込んだそうよ。その世界は今でも分からないわ。戻った3人のバングルに記録が無かったらしいわ。それに普通にビーコンが使えたらしいんだけど、残った人からのビーコンは二度と繋がらなかったそうよ。でもね。昔、シスターから聞いた話では、いろんな種族の人がいたらしいわ。それと魔法があったと言ってたけど、まさかね……」


 ひょっとしてあの3人はこの世界を、その世界だと思って来たのかも知れないな。だけど現実を知ったら少しがっかりするかも知れない。


「たぶん、この世界ではないと思います。そんな話があるならゴランさんが教えてくれたはずです。とはいえ、この世界とそれ程離れていないのかも知れません。レブナン博士に具申したんですけど、この世界を起点に時代を遡れないかと……」

「それは、私も考えてたわ。でもそれはあくまでこの世界の平行世界。シスター達が求める世界は、全く異なる世界だわ」


 多元宇宙の横に広がる世界もあれば縦に繋がる世界もあるんだよな。となれば当然上下に繋がる世界だってあるかもしれない。俺達が行き来できるのは横の世界だ。この世界は全く構造の異なる上下の世界なんだろう。そんな世界がまだまだたくさんあるって事だろうし、その中の1つがシスターの探す世界なんだろう。だけど、それほど離れてはいないような気がするぞ。何といっても、前の世界よりはこの世界の方が話だけなら似ているからな。


「でも、あの3人で良いんでしょうか? 部屋は1間で、寝床はロフトですよ?」

「あの3人ならだいじょうぶよ。身体能力的には、ナノマシンで強化されてるわ。見掛けは老人に見えても動きは私達を凌駕するはずよ」

 

 俺達が定期的に取っているナノマシンは、そのまま体を強化し続けると言うのだろうか? となれば、歳を追うごとに俺達の身体能力は強化されることになる。

 ギルド本部がそれを認めるという事は、かなり危険な任務もあるという事だろうな。そんな任務をシスター達はこなしてきたという事なんだろう。何かあれば相談に乗って貰えるかも知れないぞ。


 トメルグさんに貰った日本刀をじっくりと眺める。鞘から引き出してみると、材質が鉄とは異なるようだ。曇りすら全くない刀身はぼんやりと赤く光っているようにも見える。こんな材質は見たことが無いぞ。

 

「たぶん、違う世界で鍛えた物かも知れないわ。アナライザーで調べてみたけど、全くの未知の金属よ」

「そうなんですか……。貰って良かったんでしょうか?」

「たぶん、バンター君に思いを託したんでしょうね。彼らの仲間が残った世界を探してくれるように」


 待てよ。そう言えば、プラントハンターになった時に、シスターにも貰ったんだよな。クリスタルだけど、俺達がライブラリーを記録するクリスタルとは違うようだ。俺達の使うのは六角柱の形状だが、あれは球体だったぞ。

 バックをごそごそと漁りながら、それを取り出すと淡く輝いている。


「綺麗ね。どこで拾ったの?」

「施設を出る時にシスターがくれたんです。役立つだろうって……。なんだ!」


 手のひらで直径2cmにも満たない球体を転がしていたら、突然に、球体が手のひらに吸い込まれていった。

 手のひらには穴も開いていないし、右手で触っても内部に球体があるようなてざわりすらない。俺の体で一体化したって事なんだろうか……。

 そんな事を考えていると、今度は頭痛が襲ってきた。

 今まで経験すらしたことが無い激しい痛みだ。頭を抱えてテーブルに突っ伏して、ひたすら痛みに耐える。

 レミ姉さんがどこかに連絡を入れているようだが、俺にはそんな事はどうでもいい。段々と意識すらなくなってきたぞ……。


              ・・・ ◇ ・・・


「……そう。やはり、親和性があるのかしら?」

「でも、あのクリスタルはギルドでさえ分析不可能だったのよ。それをバンター君が取り込むなんて信じられないわ」

「直前に、ほのかに輝いていました。この世界が原因なんでしょうか?」


 何人かが俺の周囲で話し合っているようだ。俺はどうしたんだろう?

 何で寝てるんだ? 起きられるかな……。


「バイタル反応が活性化しています。脳波は完全に覚醒しています」

「もうすぐ、目を覚ますでしょう」

「お兄ちゃん! 起きて!!」


 目を開ける……。俺を心配そうに見てるのは4人の女性達だ。

 直ぐに、エリーが俺の胸に取り付いて泣き出したぞ。その背中を、やたら重い左腕でさすってあげる。


「もう、心配したんだから! エリーを置いて行っちゃヤダよ」

「ああ、いつも一緒だ。……姉さん。どれ位経過したんですか?」

「10時間と言うところね。突然倒れたけど、だいじょうぶなの?」

「何とかです。俺にも理解できませんが、頭がすっきりした感じではあります。ですが……」

「過去を思い出せない……。ということね。それなら以前と同じだからだいじょうぶでしょう」


 俺を診察しながらレブナン博士が呟いた。

 シスターが皆の後ろから俺をジッと眺めている。俺と目を合わせると小さく頷いた。シスターはこのことを予想してたんだろうか? 少し気になるところではあるな。

 

「後で、お弁当を届けてあげる。今夜はこのままお休みなさい。明日は村に行って貰わなくちゃならないから無理は禁物よ」

 レブナン博士はそう言ってシスターと共にヤグートⅢを出て行った。

 

 さて、これで振り出しに戻った感じだが、あのクリスタルはいったい何だったんだろうか? 頭がすっきりするだけの働きとは思えない。何かの情報を俺に刷り込んだなら、それが何かを突き止めねばなるまい。だけど、どうやってそれを確認するかだな。方法が思いつかないぞ。


「不思議ね。一応、包み隠さず2人に話したんだけど、博士もシスターも否定はしなかったわ。私には今でも信じられないわ」

「エリーは信じてるよ。お兄ちゃんだもの。何が起きても不異議じゃない」


 ん? 何が起きても不思議じゃないってどういう事だ? ひょっとしてエリーは何かを知ってるって事なんだろうか?


「エリー、何か思い当たることがあるの?」

 レミ姉さんの言葉に、エリーが思わず両手で口を押えてる。失敗したって事かな。となると教えてくれそうもないな。ふるふると首を振ってるから、あまり言いたくはないようだ。

「その内、教えてくれ。今でなくてもいいよ」

 俺の言葉にホッとしたような表情を浮かべながら姉さんの顔を伺ってるぞ。


「そうね。でも、バンター君の為にも教えて頂戴。私もその内でいいわ」

 今度は、うんうんと頷いてる。だが、エリーが秘密にしたがるって事は何なんだろうな。たぶん何かを見たんだろうが、それほど変わったことをしているとは思えない。俺が寝ているときなんだろうか?


 ラボのお姉さんが届けてくれたのは、サンドイッチだった。

 この世界に来てからは、初めてだし久しぶりのメニューだ。半分をエリーとレミ姉さんに渡すと、美味しそうに食べている。そんな2人を見ながらコヒーカップを片手に頂いた。量が少ないのは我慢しよう。すでに日付が変わっている。今日は村に出掛けなければならないからな。

 食事が終われば、もう一眠りできそうだ。

 


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