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PH-054 手術は可能か?


 どうにか、翌日の昼過ぎに砦に到着すると、戦闘服を脱いだだけでベッドに潜り込む。ヤグートⅢに戻ったのは俺とレミ姉さんだけで、エリーはネコ族の姉妹に付いて行った。レブナン博士が健康状態を確認すると言っていたのが、心配になったようだ。まあ、少しマッドなところはあるんだよな。とは言え、腕は確かだからそれ程心配はないと思うけどね。


 数時間程睡眠を取ったところで、集会場に出向いて食事にする。時刻は2100時を過ぎている。レミ姉さんが調理場で簡単な食事を作ってくれた。


「エリーが戻らないので様子がわかりませんが、あの姉妹はどうなるんでしょうね?」

「ここで暮らせるはずよ。レブナン博士が妹をハグしてしばらく放さなかったもの。ひょっとして博士がこの世界に来たのは獣人族がたくさんいるせいなのかもしれないわ」


 ある意味、おとぎの世界だ。博士は少女趣味なのかな?

 この砦の総責任者でもある立場だから、博士が可愛がってくれるなら誰も文句は言わないだろう。自分達で暮らしが立てられるまではこの砦にいて欲しいものだな。

 

 夜食を終えて、レミ姉さんが入れてくれたコーヒーを飲みながらタバコを楽しむ。至福の時間だ。明日は1日のんびりできそうだな。


「あら、ここにいたの?」

 レブナン博士が調理場の方から、マイカップを持って俺達の所にやってきた。

 すぐにタバコを取出したところをみると、一服が目的のようだ。


「どうなんです? それとエリーはどこに?」

「あの姉妹といっしょよ。私達のラボの隣に簡易ハウスを作ったわ。将来的には診療所にするから、無駄にはならないわよ。あの2人の宿泊施設は保全部の人達が作ってくれたわ。自分達の隣というのがおもしろいわね。小さなログハウスよ」


 この世界の住人を真近で見たいということなんだろうな。操作員達の宿舎もすぐ近くだから彼女達の意向もあるんだろう。


「問題は姉の方ね。手術が必要なんだけど……。プラントハンターギルドに申請中よ。成長期の人間の足関節を人工関節に入替えるとなると、色々と問題が出てくるのよ」

「場合によっては……」

「分かってるわ。その時は私の責任で行うわ」


 ギルド本部の決定を無視するとなれば、タダでは済まされないと思うけどな。

 俺は別に前の世界と決別しても良いけれど、レブナン博士はそうもいかないんじゃないのか?


「バンター君達が運んできたものは現在調査中よ。中々おもしろい世界だわ。地図が完成するのは今年の冬ごろになりそうだけれど、それで各国の範囲が分かるわ。国によってだいぶ文化が異なるのよ。概略だけど、2千年は異なると思うわ。それぐらいで済んでいるのは細々ながらも交易があるからなんでしょうけどね」

 

 交流があまりないという事だろうか? 陸に恐竜がいるぐらいだから海上にもいるんだろう。そうなると、沿岸部を廻る船になるのだろうから、荷物は多くは積めないだろう。他国が容易に攻めるような状況でないから、軍隊はあっても攻撃目的というよりは自国を守る為のものであろう。村の柵を広げる時でも、工兵隊がやってくるくらいだからな。


「それと持ち帰った銃は錬鉄で作られていたわ。青銅製より軽くて丈夫よ。一応、性能的に計測値が合わないから、魔道具ということになるわ。村の筆頭ハンターと相談してくれないかしら? 上手く売れればこの砦の人達に【呪文】を使わせることができるわ」

「【呪文】ですか。明日にも出掛けてみます。そういえば、あの姉妹を預かった時に、新たな【呪文】を刻みましたよ。あの村には無かった【呪文】です。ひょっとして、【呪文】にも地域差があるのかも知れません」

 

 俺の言葉を聞いて、すぐに俺の手を握って立たせようとしたけど、何とかレミ姉さんが押し留めてくれた。

「後で、文様と効能を教えて頂戴。でないと……」

「メールで送ります」と慌てて告げると、 にこりと微笑んでくれた。

 あまり長くいると、どんな話が出てくるか分からない。ここは早くに引き上げたほうが良さそうだ。

 「また明日」と挨拶をして、早々と集会場を後にする。だけど、眠るにはまだ早いし、何より起きたばかりだからな。一旦、集会場を出て、東の屋根に上る階段を上がった。どんな眺めだか、一度見ておきたかったしな。

 屋上には誰もいない。集会場の2階からこの屋上に出られるから、夜間は警備員の宿舎である待機所にいるのだろう。2階の窓から明かりがこぼれているから、多機能センサーやドローンの情報を常に監視しているようだ。

 一服を始めたら、扉から警備員が顔を出した。俺を確認して手招きしている。コーヒーでもご馳走してくれるのかな? 冷え切った体を温めるのに丁度いい。

 俺が扉に歩いて行くと、扉を開けて薪ストーブの傍にあるベンチに案内してくれた。


「確か、バンターさんですね。これを見てどう思われますか?」

 警備員が仮想スクリーンを展開して画像を映し出す。そこに見えたのは、おびただしい数の草食恐竜だった。種類も数種類ではきかないぞ。


「凄い数だな。距離は?」

「南に800kmです。電脳の推定では約8万5千頭。種類は17種類と出ましたが……。ここに来るんですかね」

 

 何時の間にか俺の周りに3人の警備員が集まってる。夜間監視は3人と聞いていたから、全員って事だな。


「村で聞かされた話ではやって来るそうだ。だけど、全部が来るわけではないだろうな。途中の草原地帯で分散するんじゃないか? それより、肉食恐竜は?」

「少し離れて移動してますが、数は2千頭ほどです」


「そっちが問題だ。森の北にも草食恐竜が冬越しをしているはずだからな。それよりもっと厄介な奴がいるぞ」

「大きなアリですね。現状では無理ですが、一ヶ月もすれば自動迎撃システムが稼動します。大口径ならば恐竜にも対処できるんですが……」

 

 プラントハンターギルドに所属するハンター達の持つ武器には色々と制限があるようだ。最大口径は25mm機関砲だが、1門当りの弾数に制限があるし、発射速度も1秒に3発だからな。対戦車ライフルに至っては50口径だし、AK60も本来持っている連射機能は使えない。一度に3発というどうでもいいような連射で止めてある。唯一問題なく連射できるのはエリーが持っているMP-6だけど、あれは拳銃弾をばら撒くものだ。自動迎撃システムもMP-6の強装弾を使う9mm弾だから、どれだけ威力があるかは使ってみないと分からないが、大型恐竜には無理なんじゃないかな?

 アルドスを相手にどれだけ使えるかってところだろう。これもやってみないと分からない事ではあるのだが……。


「この辺りには来ないと良いんだけどな」

「全員分のAK80をギルドに申請中です。銃弾さえあれば何とかというところでしょうね」


 それぐらいしかできないんだろう。もう少し人数を増やせれば良いのだが。レブナン博士に具申してみるか。30人程度では問題だろう。


・・・ ◇ ・・・


 次の日。ゆっくり起きて朝食に出掛けると、エリーがネコ族の姉妹を連れて来ていた。

 あまり興味の目で見られるのもかわいそうだからな。俺達が一緒のテーブルに着くと、「お早うにゃ」と元気に挨拶してくれたから、俺も大きな声で挨拶したぞ。レミ姉さんが笑いながら俺の朝食を運んでくれた。


「お姉さんの方は手術で直せるみたい。今日の午後に執刀するって博士が言ってたよ。それで、これを預かってきたんだけど」

 食事を早々と終えたエリーがバッグから魔法の袋を取出した。

 中身は砂漠の都市で見つけてきた銃だな。俺達には必要ないが村のハンターには必要だろう。売る手段はゴランさんと相談すれば良い。


「4人で行って来たら? と言ってたよ」

 エリーが4人という事は、この子を連れていくって事になるんだろうな。村の連中がどんな反応を示すかちょっと楽しみではある。


「今から出掛けると、帰りは夕方になりそうだな。エリーの準備は良いのか?」

「早く出掛けようよ。あの子達ともしばらく会ってないし……」


 エリーの遊び相手も待ってるだろう。ずっと外で遊べなかったに違いない。また北門の広場でボールを蹴って遊ぶんだろうか? この世界にサッカーが広まるのは時間の問題なのかも知れない。


 朝食を終えるとエリー達を残して、車庫兼倉庫に向かった。高機動車でなら村まで1時間も掛からない。

「済みません。1台かして貰えませんか?」

 俺の声に保全部の待機所兼住居から男が1人顔を出した。


「バンターか? 砂漠を越えた高機動車の整備は済んでいないが、あっちの4輪駆動なら使えるぞ。村に行くなら酒を何とかできないか? こっちの世界の酒を飲んでみたいんだ」

「良いですよ。ワインは結構美味しいです。楽しみに待っててください」


 俺の言葉に笑顔で準備してくれるのも問題がありそうだが、人それぞれだからな。まさか、この世界の酒を楽しみに来たわけじゃないだろうしね。

 保全部の男が自分のバングルを使って、4輪駆動車の車体状況を確認し、エンジンを始動した後に再度確認している。


「ヨシ! だいじょうぶだ。これがキーになる。キーを引き抜けばスイッチをどのように操作しても受け付けないから、適当に停めておいても問題ないぞ。再度キーを入れれば初期値に戻るからな」

 そう言って、エンジンを切りキーを引き抜くと、俺に渡してくれた。

 保全部の男に礼を言って、運転席に乗る。基本操作は高機動車と一緒だな。エンジンを始動して、ゆっくりと集会場に向かって車を進める。


 車を停めて、クラクションを鳴らすと、3人が出てきた。ネコ族の女の子は、確かサリネアだったな。エリーと手を繋いでいるぞ。顔に影も無いから前の都市の惨劇は過去のものになったのだろうか? 

 エリーが俺を退かして自分で運転するようだ。おとなしく後ろ座席でレミ姉さんの隣に腰を下ろす。荷台はトランクが2個置けるぐらいの小さなものだ。これは偵察用の車両なんだろう。転倒時のガードバーに50口径の機関銃が付いているけど、丈夫な布で包まれ、ワイヤーで固定されている。取り外す事は困難だろうな。ワイヤーの固定キーは運転席の操作盤で解除されるからいたずらされることはない。


「出発するよ!」

 エリーの声と共に4輪駆動車が走り出す。雪はほとんど残ってないな。枯れた草原も所々緑が芽吹いている。俺達プラントハンターの活動が本格的に始まるぞ。

 


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