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PH-051 もう一つの都市


『こちらアルビンだ。この壊れ方は地震だけではないぞ。その後に何かが乗り込んできたようだ。何箇所か血痕を見つけた。そっちはどうだ?』

 寝室に入って、床に広がった血の跡をエリーと眺めていたときに、アルビンさんからトランシーバーで連絡が入った。

「こちらはバンター。こちらも確認した。扉を塞いだ形跡もみられる。現在周囲に動体反応なし。念の為に50m以内の動体反応で警報を設定した。以上」


『こちら、アルビン。そうだな。俺達も設定した上で調査を再開する。以上』

『こちら、待機所。100mで警報設定完了。以上』


「お兄ちゃん……」

 エリーが何か見つけたようだ。近寄ってエリーの指先を見ると、扉の枠が何かで刻まれたような跡が残っている。

 

「噛み跡だよね……」

「確かに、だけどこんな噛み跡は獣や恐竜は付けないぞ!」

 先の尖ったペンチで挟んだような傷だ。左右の傷跡は30cm程離れている。こんな傷跡を付ける生物といえば昆虫なのか?


「これかな?」

 エリーが腕のバングルを使って仮想スクリーンを開いた。そこに映っていたのは、アリのような生物だ。

「荒地で見掛けると書いてあるよ。南の方にいるみたいだね」

 

 他人事で話しているけど、そのアリは体長が3mはあるぞ。だが、そうであれば住民がいないのも説明がつくな。殺されて獲物として運ばれたってことだ。少しはアリを殺したんだろうが、そのアリも巣に運ばれたに違いない。


「エリー台所を探すんだ。食料が残ってるかどうか……」

 台所に向かうと案の定、荒らされている。だが、穀物類は残っているぞ。やはり肉食性の昆虫とみるべきだろうな。


 3時間程の調査を終えて拠点の教会に引き上げる。すでにアルビンさん達は戻っていたようだ。

 昼食を取りながら成果の確認を行い、画像データーはレミ姉さんのバングルに転送する。後は砦のレブナン博士に姉さんが送ってくれる手筈だ。


「やはり、このアルドスが怪しいな。傷跡を考えると納得できる」

「俺もそう思います。となると問題は、もう1つの都市になりますね。来る時に砂漠を住民が東に進んでいました。アルドスの襲来を予想したか、何かで逃げ出したんでしょう。まだ残っている住民がいないとも限りませんよ。高機動車の航続距離があれば何とかしてあげたいところです」


「一応、博士のところにバンター君の考えは伝えてあるわ。行くとすれば問題は燃料よね」

 食料と水は十分だが、俺達が乗ってきた高機動車はシンプルなガソリンエンジンだ。80ℓ内部燃料タンクに20ℓの燃料缶を積んでいるが、これで走破できる距離は砂漠であれば800kmに未たないだろう。次の都市に向かうことはできるが帰ることができなくなりそうだ。


 俺の乗ってきた高機動車から無線の着信音が聞こえてきた。レミ姉さんが俺達が囲んでいた焚き火のそばを離れて砦と交信を始めたようだ。


「ところで、おもしろいものを見つけたぞ。そう言って小さな鍋を取出した。渡してくれた鍋をしばらく眺めていたが、突然その鍋の異様さに気がついた。思わずアルビンさんの顔を見ると、俺がようやく気が付いたのをみて小さな笑いを浮かべている。


「わかったようだな。鉄製だ。あの村には鉄がないと言っていたが、この町にはそれがある。東の国はあの村がある王国よりも冶金技術は盛んだということだ」

「俺も数点本を見つけてきましたが、ここまでの文化の違いには気が付きませんでした」

「それでも、アルドスを抑えられなかったということになる。俺達の救援は有効なんだろうか?」

「問題は数だと思います。大群を相手には到底無理でしょうが、数十なら何とかなるでしょう」


 襲われている最中には近付くことも不可能だろう。いくら50口径の機関銃があっても弾数は120発だからな。個人装備の銃弾は120発前後だ。少しは余分に持ってきているだろうが、アリの大群を相手に出来るとは思えない。

 

 俺の横にレミ姉さんが高機動車から戻ってきて腰を下ろす。

「砦からの指示を伝えるわ。『東の都市に急行せよ。燃料缶を帰りに飛行船で投下する』現在の東の都市の動体反応が添付されているわ。2枚あるけど1時間の時間差があるわ』

「指揮官の指示となれば従う外にないな」

「全くだ。だが、嫌いじゃないぜ」

 俺の言葉にアルビンさんが答えると、一斉に焚き火から腰を上げた。俺達が燃料缶から車に燃料を補給している間に焚き火を消して、車から出した荷物を適当に荷台に放り込む。上にネットを掛けておけば飛び出すことはない。


「こっちは終ったぞ!」

「俺の方も、終わりだ。エリーすぐに出発してくれ!」


 アイドリングもそこそこに俺達の車両が出発する。

 砂漠だからあまり速度は出せない。それでも運転に慣れたのか、昨日よりは速度が出ているようだ。約200kmほどの距離だから10時間ほどで到着できるだろう。遅くとも今夜の日付が変わる頃には到着出来る筈だ。

 あらためて、バングルの端末機能を使って東の都市を眺めて見た。仮想スクリーンを2つ使って重ねてみると動体反応のある輝点が北東方向に移動しているようだ。

 その先20km程には、長い列を組んで都市を脱出する民衆がいる。

 アルドスの移動速度は1時間に2kmも進んでいないから、それ程速くはないようだが確実に跡を追い掛けるに違いない。現在で10時間程の時間差があるが、老人や子供だっているだろう。度々休息を取って移動するのだから、果たしてどれだけ進めるのだろうか? どれだけの民衆が砂漠を越えられるのだろうか……。


「最新の画像が届いたわ。この後は、一旦砦に飛行船を戻すから次の情報提供は数時間後になるわ」

「了解。俺のバングルに画像を送ってくれ。それとアルビンさんにも送ってくれ」

 

 レミ姉さんが直ぐに端末を使い始めた。

 新たな画像を先程の画像に重ねて見る。やはり、逃げ出した民衆の跡を追跡するようだな。水の流れのように都市の北東部に集まって砂漠に向かっている。


『バンター、聞こえるか?』

「こちらバンター、聞こえるぞ!」

 突然、アルビンさんから通信が入った。


『こちら、アルビン。この情景だが少しおかしくないか。奴らはどこから来たんだ? 以上』

「軍隊アリのように一族で移動しているのかも知れない。だが、図鑑には南方と書かれていたし、荒野で見掛けるとは書いてあったが荒野に群れるとは書かれていなかった……」

『そこだ。巣別れで遠くに移動するアリもいる。この近くに巣穴があるかを砦で調べられないか? 巣穴があれば避けて通るべきだ。それに都市に巣穴があるなら近付くべきではない。以上』


 盲点だったな。急いでレミ姉さんに砦のレブナン博士に調査を依頼してもらう。

 再度、上空からの画像を見比べ、アリ達の動きを調べてみた。全体的に西から東に移動しているように見える。この方向だと俺達が調べていた都市の方向に近いな。巣穴があるなら周辺を偵察しているアリがいそうなものだが、あの都市では全くそんな反応は無かった。となると、巣穴があれば、俺達が偵察アリに遭遇する確率が高いということになりそうだぞ。


 次の休憩になった時に、皆に俺の考えを話してみた。

 一応納得してくれたが、アルビンさんは軍隊アリ説を唱えていた。

「一応、多機能センサーで最大レンジを確認している。俺達の世界の中型犬なら感知できるから十分だろう。200m手前ならば十分に回避できるだろうし、俺としては巣を持たない放浪するアリだと思うぞ」

「でも、可能性は考慮すべきよ。後部席に乗っているなら銃をライフルキャリアから出しておく位はいいんじゃないかしら」

 オリビーさんは慎重派だな。だが、俺もそれ位は必要だと思う。

 すでにあの町を出てから6時間が過ぎている。ナビを見ると、半分以上はやって来たようだ。そろそろ日が落ちるが、このまま進むことにしよう。


               ・・・ ◇ ・・・


 今夜は三日月が空にある。この世界の月は俺達の世界の月と比べて少し小さな気がするのは気のせいだろうか。周囲に全く光はないから、僅かな月明かりでも砂丘がくっきりと見える。全く動体反応が無いのが異様な限りだ。アルビンさんからも何も連絡がないから壊れている訳ではないんだろうけど……。

 2300時、遠くに黒く都市の影が見える。あと1時間も掛からずに到着することになる。

 すでにアルドスの群れは都市を離れている筈だ。もう少し経てば新たな画像が届くだろう。俺達が都市に入るのはその画像が届いてからでいい。


 日付が変わる20分程前。俺達の車両は都市の南の城門を目の前にして停まった。後、10分ぐらいで、飛行船からの情報が入るみたいだ。それをジッと待っている。

 そんな時間を利用して、AK60のマガジンを姉さんとアルビンさんが交換している。60発用のドラムマガジンなんてオプションがあったらしい。エリーが指を咥えて見ているけど、あんなの付けたら振り回せなくなるぞ。たぶん助手席から乱射することを考えてるようだな。


 砦からの通信信号が入って、レミ姉さんが交信を始めたようだ。

「やはり、放浪するアリのようだな」

「ええ、その方がありがたいです。ある意味、一過性で済みますからね」

 そんな話をしながら男達3人でタバコを楽しむ。吸殻を携帯灰皿に入れた頃にようやく、砦との交信が済んだようだ。

 レミ姉さんがトランシーバーのマイクを放して、俺達を手招きしている。


「これが現在の状況らしいわ。アルドスの最後尾でも、この都市から10kmは離れているみたい。都市を抜け出た人達は2つのルートに別れて進んでいるわ。このルートを見て、温度の低い部分が所々にあるわ。こっちのルートは家畜を殺しながら進んでいるのよ」

「餌を置いて、こちらに進ませる気のようだな。上手くアリが誘われればいいのだが……」


 たぶん、屈強な若者達が志願して別の道を進んでいるのだろう。そのルートは大きく南に続いている。その先は砂漠が続く。1日ぐらい進めば、逃避行を続ける本隊からかなりアリを引き離せるだろう。

 大きく展開された仮想スクリーンの画像はモノトーンの町並みが見えるだけだ。やはり何も残されてはいないだろうが、民衆が去った直後であれば色々と調査できるに違いない。



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