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PH-048 砂漠の東は?


「全員2つずつ【呪文】を手に入れたわよ。私も【クリル】と【バリル】を両肩に入れたわ。ラボで【クリル】が使えそうなら、あの子達にも【呪文】を刻みたいわ」

 そんなことをレブナン博士が言っているけど、本人達の意思も尊重すべきだと思うぞ。一度入れた【呪文】は消えないらしい。向こうに帰って使えるなら都合が良いかも知れないけどこの世界限定なら少しは考えるべきだな。


「エリー達は前部持ってるよ。でも、次に村に行くのは雪が融けてから?」

「そうなるな。ゴランさんが春先には気を付けるように言ってくれた。南から恐竜達が移動してくるらしい」

「いよいよ見られるのか。それも時代が関係ないと言うのが凄いな」


 アルビンさんが仲間達と顔を見合わせて頷いている。ちょっとエリーのような性格らしい。

「星持ちは2人だけなんだから、最初は植物採取でこの世界の様子をよく見て頂戴」 

「プラントハンターレベルでは4人とも23なんだが、こちらのギルドではそうはならなかったな。俺とデントスが13で、リーネとキャロンが9とはな……」


「それでも、パーティとしては星持ちになります。村の大事には駆け付ける事になりますよ」

「それ位はするさ。それで、この周辺の地図はこれで合っているのか?」

 周辺50kmの地図を仮想スクリーンで広げて確認している。


「一応、無人機での確認結果です。映像を基にしたものですから、地形はあまり当てにしないでください」

「雪が消えたら大型無人機を使って地形図を作るわ。レーザー距離計とレーダーを使えば森の中まで分かるわよ」


 広場では大型飛行船を組み立てている。完成次第、東に向かって飛ばすのだろう。大型無人機はその後になるんだろうな。雪が消えるのは一か月ほど先らしいから、俺達プラントハンターの仕事は出番なしって事になりそうだ。


「あなた達には、森の木々を調査して貰いたいわ。針葉樹と広葉樹の混生している森だけど、この砦を作った丸太でさえもライブラリーとの比較では90%程度なのよ。バンター君達が草を中心に調べたデータを再度調べたけど、やはり向こうの世界とは微妙に異なるの。村人達の遺伝子を調べたいけど、これはしばらく無理でしょうね」

「それは俺達に任せてくれ。バンター達はゆっくりするが良い。今まで頑張って来たんだからな」


 そう言ってアルビンさん達は集会場を去って行った。

 この世界を色々と見て回りたくてしょうがないんだな。まあ、ハンター向きではある。


「実は、ゴランさんに新しい銃を見せて貰いました」

 端末を操作して仮想スクリーンを展開する。防寒服の飾りのようなボタンには映像記録用のカメラが付いている。


「水平2連ですって!」

「ああ、ハンマーは2個あるがトリガーは1個だ。彼らなりに俺達が供与したショットガンを見て工夫したらしい。だが、重量が増えたから砦と村の防衛用だと言っていた」


「かなり手工芸が発達しているようね。簡易な旋盤やドリルも実用化されていそうだけど、使える金属が銅合金なのが発達を阻害しているわ」

 俺と同じ考えのようだ。やはり急速な文化の発展は避けるべきだな。


「でも、それを補う方法が彼らにはあるのよ。【呪文】と【魔道具】魔道具は魔法の袋と彼らの青銅製の銃の2つしかまだ見てないけど、もっと色々ありそうだわ。そう言えば、秋には村が賑わったと言ってたわね。たぶん収穫を見込んだ商人達が押し寄せたんでしょうけど、そうなると春もそうなる可能性が高いわ。その時にまた連れて行って貰いたいわ」


 屋台の食べ歩きってわけじゃなければ良いけどね。目的は、まだ見ぬ魔道具の調査って事になるのかな?

 彼らの文化の調査もレブナン博士の調査範囲なのだろう。歪な文化がこの地方だけか、それとも全世界的なものかは飛行船で調査した結果でなければ分からない。

 

 集会場を出ると、トラクターがソリを引いて出掛けるところだった。スノーモービルが1台3人の警備員を連れて同伴するようだな。

 ソリに乗っているのは一辺が10cm程の直方体の柱だ。3m程の長さがありそうだぞ。


「あれは、パッシブセンサーを取り付けた固定ドローンよ。たぶん砦の四方に配置するんでしょうね」

「早期警戒ってことですか?」

「出力信号は微弱だけど1年以上機能するわ。獣が少ない今の内に設置すれば、次の冬まで役に立ちそうね」


 そんな話をしながらヤグートⅢに帰ってきた。

 ガンベルトを外して居住区のフックに掛けておく。砦内では指示が無ければ戦闘服を着ずに済む。ギルドと同じと思っていたが、ギルドの出先機関だから少しは融通が利くようだな。

 それでも、ヤグートⅢを出る時にはガンベルトだけは装備しなければならない。たまに一服を楽しみに外に出るんだが、その時でさえガンベルトは必需品となる。装備ベルトのように色々と付いていないから、肩に掛けるだけでも良いと言ってたな。


「それで、飛行船はどのあたりを飛んでるんだろう?」

「見てみる? 映像は共有化されてるから、砦内なら誰もが見られるわよ。コントロールは操作員達に一任されてるらしいわ」


 テーブル傍の壁に仮想スクリーンを展開して飛行船からの映像をみた。高度3千m程を東に進んでいるらしい。下に見えるのは雪がまばらに堆積した砂漠の姿だ。いくつもの砂丘が波のように連なっているぞ。


「不思議なのは、俺達がこの砂漠を越えてやってきたと、彼らが思っている事だ。東に大きな国があり、過去にはその国と交易していたんだろうけど、この砂漠をどうやって超えてきたんだろう?」

「砂漠に適した移動手段があったと考えられるわね。荒地にしか住まない獣だっているのよ。そんな獣を使って砂漠を横断する方法は、私達の世界でも過去に使われていたことよ」

「ラクダっていうんだよ。乗って楽だからからかな?」

 違うような気がするぞ。だけど、エリーが仮想スクリーンに映し出した獣は、馬に似た大型の獣だった。背に荷物を積むだけでなく胴の左右にも積んでいる。これを何頭も連ねて横断したのだろうか?


「でも、しばらく交易が途絶えているらしいわ。バンター君の地震の話を本気にするぐらいだから、何かが起きたことは確かってことだわ」

「砂漠の向こうもこっちと同じような人達が住んでいるのかな?」

「大きくは変わらないだろうけど、種族は違う種類がいるんじゃないかな。人間族だけという事はあり得ないはずだ」


 待てよ。それだと俺達は単一種族に彼らには見えるはずだ。他の種族の消息は誰にも聞かれなかったが、彼らには奇異に映るかも知れない。その辺りの説得理由を考えておかねばなるまい。


夕食後に、各チームのリーダーが集会場に残って、明日の作業の打ち合わせを始めた。

あらかじめ俺達の仕事の工程表を作っていたらしく、俺達のバングルに情報を転送してくれた内容を見ながらレブナン博士の話を聞く。

 どうやら、俺達とアルビンさん達のパーティで交代に森の木々を調査するようだ。1パーティを残しておくのは緊急事態に備えるためだろう。


「分かったかしら。雪が融けてからでは遅くなるし、村のハンターがこの砦に寄る可能性もあるわ。しっかり準備しとかないとね」

「博士、ちょっと確認したいのですが……」


 そう前置きして、俺の危惧を皆に話す。場合によっては各自の答えが異なることになるかも知れない。それだけは避けるべきだ。


「確かに問題ね。嘘はばれると問題が出て来るわ。バンター君の今までの話をレミーネに纏めて貰う事にするわ。その話を基に私が全体を補うから、それを皆が読めば大丈夫よ。東に都市が見つかればその話に信憑性が出来るわ」

「でも、都市なんてあるんでしょうか?」

「たぶんあると思うわ。大きな都市ではないかも知れないけど、一番大事なのは人が住んだ形跡がある場所が東にあるという事になるでしょうね」


 そうなるな。東から来たという話を鵜呑みに信じてくれるという事が、それを裏付けている。その場所は東の砂漠の向こうのどの辺りなのか……。待てよ、砂漠のど真中でも可能性が無くはない。オアシスがあればそこで暮らせるはずだ。それに砂漠をわざわざ超えるような獣や恐竜はいないだろうからな。


 集会が終わると、コーヒーを飲みながらタバコを咥える。ヤグートⅢの中では吸えないからな。外はまだまだ寒いし、今夜は雪まで降っている。春はまだ遠くのようだ。


「バンター君は、もし都市があればどれ位の場所にあると思っているの?」

「そうですね。千km以下でないと問題ですね。更に飛行船を送って貰えませんか? 出来れば砂漠を調べて貰いたいと思っています」

「オアシス都市か?」


 一緒にタバコを楽しんでいたアルビンさんが呟いた。たぶん俺と同じことを考えていたようだな。


「それが2隻目の理由ね。了解したわ。更に2隻を送って貰いましょう」

 都合3隻って事になれば、この世界の地図の作製は予想以上に早まるんじゃないか?

「それなら、1隻は近場を入念に探って貰いましょう。春には南から獣や恐竜がやってくると彼らが言っています。その生息地も抑えておく必要があります」


 あまり近場に無いことを祈るばかりだ。近場なら絶対エリーやアルビンさん達が出掛けようとするに違いないからな。

 雪が融ければ、俺達は高機動車に乗ることになる。定員4名だが2名が乗る荷台は広いから6人は楽々乗れる。真ん中にある転倒時のガードバーには50口径の機関銃が乗っているから恐竜にも対処できるだろう。最高時速80kmの4輪駆動車だから悪路にも平気だろうし、ある程度は森に入ることも出来るに違いない。その時は単独行動は出来ないだろうな。

 

 ヤグートⅢに戻ると、レミ姉さんに先ほどの話を伝えた。

「そうね。確かに必要だわ。私がある程度纏めるから、バンター君とエリーの話も聞かせてね」

「エリーも色々子供達に話してるから、思い出すのが大変だよ」

 そんな事を言ってほっぺを膨らませている。意外と子供達は盲点だったな。子供達はその話に興味があれば親に話をするだろう。尾ひれが付いた話になる可能性だってあるのだ。頑張ってエリーに思い出してもらう事になりそうだぞ。




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